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2009年10月28日 (水)

すべきこと_新型インフルエンザA/H1N1に対して

2009年10月28日 晴れ
台風の影響も去り、澄み切った青空が広がります。

今日も、新型インフルエンザの患者さんが多数、訪れました。ワクチンに関しては情報が錯綜し、大変なことになっています。第2陣は基礎疾患のある1才から9才までの児に接種となっていますが....。どこで線引きするか?あとでもめそうです。とりあえず、11月2日より接種開始とのことですので、それまでに出来るだけの準備をします。

さて、今日は神奈川県警友会けいゆう病院の菅谷憲夫先生の講演を聞くことができました。これまで、すこしモヤモヤとして、『こうすべきだ!』という方針が曖昧でしたが、理論的に非常に整理されていて、方針を決めることができました。

以下に要旨をまとめますと...。

『今回の新型インフルエンザの特徴は、高齢者は何らかの免疫があるためか重症化せず、入院では10代から20代が多数を占め、死亡例では40代、50代にピークがみられる。(これは、アメリカやオーストラリアでの統計をもとにしていっています)

 ニューヨークでの流行は5月中旬に始まり6月末で終息に向かい約6週間の経過であった。7月8日までに909名の入院があり、季節性インフルエンザと異なり、高齢者の重症化は少なく、小児と青少年の入院が多かった。909名の入院患者のうち、225例(24.8%)がICU、124例(13.6%)が人工呼吸管理、47例(5.0%)が死亡した。75%の患者には何らかの基礎疾患がみられたが、何らリスクのない患者の入院も21%に及んでいる。

 そして、注目すべきは、多くのニューヨーク市民が、オセルタミビル(タミフル)等のノイラミニダーゼ阻害剤の治療が遅れたか、全く投与されていなかったことである。(死亡例の多くは、発症後5日以上経過して投与開始されていました。日本では約48時間以内に投与されるのが普通です。)世界の専門家は「今回の新型インフルエンザにおいて、オセルタミビルの早期投与が重症肺炎の併発を防ぐ」と考えている。日本ではインフルエンザの迅速診断と、早期のオセルタミビル投与が確立されており、それが、今回の新型インフルエンザでも(世界の先進国と比較しても)非常に低い死亡率をたたき出している原因であると思われる。

 ただ、小児において発症する急性脳症は、その発症がインフルエンザ感染の初めての症状となることも多く、オセルタミビルなどの早期投与では防ぐことは困難である。これに対しては、早期発見し集中治療を行うことしかないだろう。新型インフルエンザのパンデミックワクチンは有効である可能性が高く、小児に広く接種すれば脳症の発症率を下げることが出来るかもしれない。

 動物実験(マウス、フェレット、サル)において今回の新型インフルエンザは季節性インフルエンザに比較して重度の肺病変を起こすことが多いとの結果が得られている。季節性は上気道炎で終わっても新型は重症の肺炎を合併する可能性が高いと考えなければならない。

 各年代の血清中の中和抗体を調べると、1920年以前に生まれた人たち(90才以上)は100%抗体を持っていることが確認されている。しかし、それ以降では抗体を持たないことも明らかになっているが、それらの方々も死亡、入院は少なく、何らかの免疫があるものと思われる。

 WHOの薬物治療ガイドラインの作成には私(菅谷先生)も参加したが、呼吸困難を訴える患者、肺炎患者、脳症患者などを重症として、重症患者は全例をオセルタミビルで治療することが決められた。日本でも10代であっても、WHOのガイドラインに準じてオセルタミビルによる治療が必要である。

 一方、軽症の健康小児、成人では、必ずしも、ノイラミニダーゼ阻害剤による治療は必要ないとされた。その、主要な理由はコストである。世界の多くの国では健康な方にもオセルタミビルを投与するだけの備蓄を持っていない。この勧告は、現状を追認したものである。

 今回の新型インフルエンザ感染症では、発病早期は軽症であった健康成人も3から5病日にかけて重症肺炎を併発し死亡した症例が数多く報告されている。重症化してからノイラミニダーゼ阻害剤を使用しても効果は期待できない。したがって、日本では感染が疑われたら、健康小児、成人であっても早期にノイラミニダーゼ阻害剤を使用することが必要であり、医学的にも正しいと思う。

 新型インフルエンザのパンデミックワクチンは有効である可能性がかなり高い、しかし、国産のワクチンは足りず、現在の流行には間に合わない。そして、現在の日本では早期診断しオセルタミビルを早期に投与する環境が整い、それが新型インフルエンザの死因のうち多くを占める重症肺炎を予防することが出来る方法でもある。それを考えるとパンデミックワクチンに拘泥することなく、日本で既に確立したインフルエンザ診療を実施し続けることが、最善の対策となるであろう。』

 季節性インフルエンザと新型インフルエンザの違いがはっきりと解ってきたように思います。現在流行している、新型インフルエンザに関しては、早期に発見して治療導入する方針で良さそうです。

 因に、ザナミビルとオセルタミビルの効果についての議論がありました。効果は、オセルタミビルの方が『切れがよい』とのことです。現在は厚生労働省からの10代へのオセルタミビル投与は控えるようにとの勧告が生きていますが、ザナミビル(リレンザ)での効果が今ひとつであれば、インフォームドコンセントをとったうえで投与するのはOKとの認識です。また、明らかに重症例では初めからオセルタミビルでいくべきであるとのことでした。
 
 また、重症例では剖検の結果などから、細菌感染の合併が多く、抗生剤を適切に使用するべきであるとの認識も示されました。

 そして、基礎疾患のある症例に対して、予防投与として半量を10日間投与する方法がありますが、これについては、否定的な認識でした。世界は、予防投与よりも早期発見、早期治療の方向です。(因に、基礎疾患のある小児に対するオセルタミビル予防投与に関しては国立成育医療センター:国立小児病院が「今後、予防投与を行わない」旨の通達を出したようです。)

 以上、結構ためになった話でした。

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コメント

>>オセルタミビルの方が『切れがよい』とのことです。
やっぱりそうでしたか。
うちでもリレンザが無効(解熱に3日以上かかる)と思われる症例が数例ありました。
タミフルは良く効く印象です。
臨床の専門家のコメントは現場の医師としては大変心強いです。
度々テレビに登場する学者さんたちのコメントにはウンザリしています。

投稿: 都内町医者 | 2009年10月29日 (木) 07時31分

ニューヨーク市民のどれくらいがアスピリンを使用していたのでしょう。解熱剤の使い方がどうであったかとても興味があります。

またオーストラリアでは既にインフルエンザシーズンが終わりましたが、通年に比し死亡者が極端に少なかったと報告されています。かの国は日本のようにオセルタミビルをじゃんじゃん使うことはしていません。早期発見・早期治療もせず、熱が出たら水分をとって安静にするよう指示されていました。

もう一つ。肺炎を併発し入院している日本の子供達を調べると大多数が非常に早期にオセルタミビルを内服しています。

これらはどう解釈すべきなのでしょう。

投稿: クーデルムーデル | 2009年10月29日 (木) 18時56分

こんばんは
都内町医者さま

>うちでもリレンザが無効(解熱に3日以上かかる)と思われる症例が数例ありました。
>タミフルは良く効く印象です。

うちでは、あまりタミフルを使用していませんので、なんともいえませんが...リレンザで再発熱した症例は経験しております。その症例は、細菌感染を合併しておりましたので、リレンザの効果が乏しいとまでは言えないかもしれませんが....。

投稿: いなか小児科医 | 2009年10月29日 (木) 22時24分

こんばんは
クーデルムーデルさま

コメントありがとうございました。

>ニューヨーク市民のどれくらいがアスピリンを使用していたのでしょう。解熱剤の使い方がどうであったかとても興味があります。

実際に調査した訳ではありませんので、かっちりとしたことはいえませんが、おそらくかなりの方にアスピリンが投与されていたであろうと考えます。それは、アメリカの医療システム自体の問題があるからです。無保険者がいまだに数千万人の規模で存在するアメリカには、ERに押しかける患者に対して、解熱剤の投与程度ということは、十分に考えられます。

それが、この新型インフルエンザの経過に大きく影響したことでしょうし、それがノイラミニダーゼ阻害剤を使用しないという治療方針の遠因となっているのではないでしょうか?

少なくともニューヨークにおける新型インフルエンザの死亡率は日本のそれに比較して著しく高いといえるとも考えておりますし、その多くは重症肺炎によるものであることも一般にみとめられることであろうと考えております。

>またオーストラリアでは既にインフルエンザシーズンが終わりましたが、通年に比し死亡者が極端に少なかったと報告されています。かの国は日本のようにオセルタミビルをじゃんじゃん使うことはしていません。

確かにそうかもしれません。ただ、いかがでしょうか?今回の新型インフルエンザは高齢者への感染率、そして死亡率ともに非常に低いとされます。例年、流行する季節性インフルエンザの場合、高齢者での死亡がかなり多く、そのため死亡者が多かったのではないかと...。

オーストラリアのデータも参照されていましたが、40代、50代の死亡率が高く、それ以上になると逆に死亡率が下がる傾向にありました。

特に初期には軽症であった40代の患者さんが、4から5病日程度になり急激に呼吸困難が進行することが多く、そのためICUに入室、呼吸管理を必要とするようでした。

>もう一つ。肺炎を併発し入院している日本の子供達を調べると大多数が非常に早期にオセルタミビルを内服しています。

そうですね。特に小児においては、発症早期にあっという間に進行する肺炎があるようです。そして、ノイラミニダーゼ阻害剤は抗生剤のように病原体を殺す作用の薬ではありません。増殖を抑える作用であり、オセルタミビルを投与しても、それまでに肺の隅々まで拡散したウィルスがしばらく悪さを続けるのかもしれません。

そして、早期にタミフルを投与され、重症の肺炎となり入院した症例は、その後の治療にはタミフルを中断したのでしょうか?中断して治癒の方向に向かっていれば、タミフルが悪かったということになりますが...。

投稿: いなか小児科医 | 2009年10月29日 (木) 22時52分

オーストラリアでの死亡者数は桁違いに少ないので、高齢者の分をさっ引いても季節性と重症度で大きな差はないと考えられると思います。

どうもこの新型は粘度の高い喀痰を作り、末梢気道の閉塞をきたし易いように思います。喘息の人達は喘息の状態が悪いというより、気道分泌物に溺れるかのような症状に悩まされています。成田の先生が講演していましたが、通常の肺炎で認めるような気道の上皮は喀痰に余り認めず、痰の固まった円柱がとても多いのが特徴だと話していました。早期にすべきは基礎疾患のコントロールと喀痰排出を促す処置が第一のように思えてなりません。であればCAM少量投与や去痰剤をしっかりつかうことがより求められると考えます。

投稿: クーデルムーデル | 2009年10月31日 (土) 12時43分

クーデルムーデルさま

こんばんは
コメントありがとうございます。

確かに冷静になって、考えてみると....。おっしゃる通り死亡者は桁違いに少ないようです。重症度はおそらく、季節性と遜色ないとしてもいいのかもしれません。
しかし、40代、50代に発生している死亡者は、ウィルス性の重症肺炎ではないのでしょうか?こういった症例を減らすためにはどうしたらいいのか?これが、問題となるのではないかと...感じます。

早期発見、早期治療がコスト、耐性の誘導などで問題があれば、どのタイミングでノイラミニダーゼ阻害剤を使用すべきか?そもそも、タミフルはそのような症例に対して無効であるのか?

これが、わからないところです。

>成田の先生が講演していましたが、通常の肺炎で認めるような気道の上皮は喀痰に余り認めず、痰の固まった円柱がとても多いのが特徴だと話していました。早期にすべきは基礎疾患のコントロールと喀痰排出を促す処置が第一のように思えてなりません。であればCAM少量投与や去痰剤をしっかりつかうことがより求められると考えます。

おっしゃる通りであれば、むしろウィルス性肺炎というより、気管支喘息がベースにある児に時々認められる、Plastic Bronchitisのような状況が生じるのであろうということですね....。

これであれば、むしろ可逆性があるので安心できると思います。理学療法が重要で、場合によれば人工呼吸もやむなしということですね...。

しかし、そういう風に考えると....この前の話は、ちょっとかなり恣意的であると感じなければなりませんね。
ありがとうございました。(感謝)

投稿: いなか小児科医 | 2009年11月 1日 (日) 18時15分

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