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2009年6月 8日 (月)

厚生労働省の医系技官とは...

2009年6月8日 曇り
湿度が高い!

さて、厚生労働省には医師免許を取得後に臨床経験をほとんど積まずに入省する医系技官と呼ばれる方々がいます。もちろん、立派な働きをされる方々もいらっしゃいますが、臨床経験の乏しさから、医療の現場には酷な通達を出される方もいらっしゃいます。今回の新型インフルエンザ騒動では、厚生労働省が朝令暮改とも呼べるような通達の濫発を行い、現場は大きく混乱しました。役人の世界と臨床家の世界、溝は深いですね...。医療行政を行うものたちが、もう少し臨床経験を積んだものであったなら...。

MRICの記事です。

『【通知を濫発した厚労省】

 4月28日、WHOは、新型インフルエンザの継続的な人から人への感染がみられる状態になったとして、パンデミック警報レベルをフェーズ4に引き上げました。それ以降、厚労省は、かねてより作成していた「行動計画」と「ガイドライン」に従い、成田空港等で大規模な検疫を開始するとともに、都道府県や医療現場に、多くの通知や事務連絡を驚異的なスピードで出し続けました。その一部は厚労省
のHPで公開されています(http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/hourei.html)。その中には、症例定義(PCR実施基準)、外来の取り扱い、入退院基準、確定診断など、事細かな内容が含まれており、厚労省が医療現場の箸の上げ下ろしまで指示しているが分かります。

 このような行政指導を通じ、厚労省は司令塔としての役目を果たそうとした訳ですが、その指示は現場の実態と乖離していたため、医療現場は大混乱に陥りました。知人の開業医は、「新型インフルエンザ自体より、厚労省の対応に振り回され、医療スタッフは疲弊してしまった」と語っています。

 特に、PCRに関する通知は医療現場に甚大な影響を与えました。この通知により、PCRを受ける患者は、メキシコ・北米への渡航歴があり、簡易診断キットでA型陽性となった人に限定されたため、多くの患者が適切に診断されず、国内での蔓延を発見するのが遅れてしまったのです。現に、5月8日に国内で最初に診断されたのは、厚労省のルールに従わず、渡航歴がないのにPCRを受けた患者ですし、国立感染症研究所は、4月下旬には国内に新型インフルエンザが進入していた可能性が高いと報告しています。医療現場でPCRを行う第一義は、厚労省が公衆衛生データを取るためではなく、患者の治療なのです。この点に関し、厚労省と医療現場には大きな乖離があったように思います。

 また、「行動計画」に従って、全国の病院に約800カ所の「発熱外来」が急遽作られました。そして、厚労省は「新型インフルエンザの患者は発熱外来へ、それ以外の患者は一般医療機関へ」と指示しました。しかしながら、これは机上の空論です。なぜなら、全ての患者は新型インフルエンザか否か分からない状態で病院を訪れるからです。つまり、全国すべての医療機関が、新型インフルエンザかもしれない患者が来ることを想定した準備をしなければならないのです。ところが厚労省は、発熱外来以外の一般医療機関には、その準備のための物資・予算を渡しませんでした。これでは、「発熱外来」など名前だけで実態の伴わないものになってしまいます。この姿勢は、食糧も物資も補給しないが戦闘命令だけは出す、旧日本陸軍の参謀本部を彷彿とさせます。参謀本部は、ロジスティックを軽視して、多数の兵士を無駄死にさせました。余談ですが、「発熱外来」は諸外国にはありません。

 本来、医療とは、患者と医師が十分に相談し、状況に応じて柔軟に対応すべきものです。第三者である厚労省が、行政指導を通じて介入すべきではありません。そんなことをすれば、治療が手遅れになったり、過剰になったりして、患者・医師は大きな負担を強いられます。まさに、前述の開業医のコメントの通りです。ちなみに、日本感染症学会は5/21に「一般医療機関における対応は(厚労省ガイドラインとは)当然異なって然るべき」と緊急提言しています。厚労省の行政指導を見るに見かねたのでしょう。』

この新型インフルエンザ騒動が始まる前から、発熱外来の有用性、検疫の必要性などについてギモンを呈する声はありました。実地医家は気づいていたのです、机上の論理を振り回しても現場は混乱するだけだと....。その声を揉みつぶして、新型インフルエンザに関するパフォーマンスが始まりました。

『【予算が足りない!】

 では本来、厚労省に求められている役割とは何でしょうか? それは、医師の判断を封じ込めるルールを作ることではなく、医療機関が新型インフルエンザに対応できるだけの予算・物資・人員を供給することだと考えます。現場の医師が「この患者にはPCRが必要だ」と判断したとき、それを実現できるだけの体制を用意するべきでした。長年の医療費削減政策によって、日本の病院の73%(うち自治体病院の91%)は赤字ですから、必要な物資を購入したり、雇用する余力はありません。

 ところが厚労省には、この問題に取り組んだ形跡が全くありません。新型インフルエンザ対策(発熱外来設置など)に使える医療機関の整備予算は、平成20年度の補正予算と平成21年度予算を合わせて、38億円です。これでは感染予防のための、個室を整備できません。また、発熱相談など、国民への情報開示に至っては、わずか5000万円です。これでは十分な新型インフルエンザ対策ができるはずがありません。

 5月28日の参議院・予算委員会で、民主党の鈴木寛議員は、新型インフルエンザ対策充実のため、医療体制の整備やPCR検査体制拡充について質問しました。鈴木議員は、「国内感染の発見の遅れは、PCR法による検査が渡航歴のある人に限られていたことが一因。PCR法での検査は、1日当たり全国で約1000人分しかできる体制にない。今後、予想される第二波などに備えて、検査体制を充実させるべきではないか」と主張しましたが、厚労省の上田博三・健康局長からは具体的な回答は得られませんでした。新型インフルエンザの診断体制の予算は、全て併せて7.5億円で、絶対的に不足しています。

 鈴木議員は、新型インフルエンザ対策として約800億円の新規の予算確保を求めましたが、麻生太郎総理大臣は、「2009年度補正予算を組み替えたり、新たな補正予算を組む予定はない」と答弁しました。新型インフルエンザ対策は、補正予算の最大の目玉になるべきテーマですが、麻生総理の答弁には呆れるばかりです。

 ちなみに、米国のオバマ大統領は4月29日に新型インフルエンザ対策として、議会に15億ドルの予算を求めました。あまりにも対照的です。』

国会の審議でもこのような状態とは...末期的ですね。新型インフルエンザが現在のところ弱毒株ですので、甘くみているのでしょうか?第2波の時にはひょっとすると毒性は増しているかもしれません。また、充分な医療提供体制を組んでおかないと、インフルエンザによる合併症で多数の死者を出す可能性は残ります。充分な予算を組むべきです。

『【参議院予算委員会における参考人隠し】

 今回の新型インフルエンザ騒動における厚労省の対応には多くの改善点があります。しかしながら、もっと議論すべきが厚労省の隠蔽体質です。それが明らかになったのは、5月25日の参議院予算委員会です。詳細は、中田はる佳氏の論文をお読みください(http://medg.jp/mt/2009/05/-vol-125.html)。

 当初、この委員会では、民主党の鈴木寛議員が新型インフルエンザについて質問する予定でした。鈴木議員は、参考人として、現役検疫官の木村盛世氏と国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官の森兼啓太氏を招致していました。しかしながら、当日開始時間になっても予算委員会は始まらず、開始予定時刻を1時間もオーバーしました。これは、舛添大臣は両氏の出席を認めていたのに、与党が木村氏・森兼氏の出席を拒んだためです。与謝野財務大臣、鳩山総務大臣、舛添厚労大臣、塩谷文科大臣も1時間、待ちぼうけだったようです。

 私が聞くところでは、厚労省は「木村、森兼氏は政府を代表する立場ではない」として、別の委員に差し替えるように鈴木寛事務所に依頼するとともに、与党の予算委員会理事たちに参考人招致に反対するように陳情しました。木村・森兼氏は、政府代表ではなく、専門家としての意見を聞くために呼ばれた訳ですから、これは屁理屈です。そもそも国会の参考人を、官僚にとって都合が悪いから妨害するなど、常識的には考えられないことです。多くの国民は、まさか厚労省がこのような姑息な手段を用いて、自らに不都合な情報を隠蔽しているとは知らないでしょう。

 結局、25日は参考人招致が認められず、28日の午前中に審議されることとなりました。このことはメディアでも報道され、政府に不利な発言をすると考えられる参考人を隠ぺいしたのではないかと批判されています。ところが、この件の責任者である上田博三健康局長など、関係者が処分されたという話は聞きません。「厚労省」を「自衛隊」と置き換えれば、事態の深刻さをご理解頂けるのではないでしょうか。厚労省は「シビリアン・コントロール」から外れています。
朝日新聞 「与党、水際対策批判した検疫官の出席拒否 野党は反発」:http://www.asahi.com/politics/update/0525/TKY200905250417.html
ロハスメディカル 「新型インフル 参院予算委で"参考人隠し」:http://lohasmedical.jp/news/2009/05/25145547.php

木村盛世氏はご存知のかたもいらっしゃると思いますが、今回の検疫体制に厚生労働省の検疫官でありながら異を唱えた方です。既に省内ではすごく肩身のせまい思いをされているでしょう...。参考人隠しが官僚主導で行われたのであれば、これは許しがたい所業です。

『【参議院予算委員会仕切り直し】

 5月28日に仕切り直された参議院・予算委員会では、以下の4人の医師が参考人として呼ばれ、新型インフルエンザの集中審議が行われました。与党推薦参考人として、尾身茂・自治医科大学教授(元厚労官僚、元WHO西太平洋事務局長)、岡部信彦・国立感染症研究所感染症情報センター長の2人と、野党推薦参考人として、前述の木村、森兼氏の2人です。国立感染症研究所(以下、感染研)と言えば厚労省の下部組織ですから、岡部氏と森兼氏は、木村氏と同様、厚生労働技官です。ある意味で、新型インフルエンザ対策の指揮官である上田博三・厚労省健康局長の支配を受ける難しい立場にありながら、医師として専門家として、正しいと考えることを、それぞれに堂々と発言したことに敬意を表します。

 鈴木寛議員の「なぜ厚労省は、検疫に異論を唱える職員等の意見に耳をかさないのか。その背景をどう感じていたか」との質問に、木村氏は「検疫ではN95マスクなどで防御した検疫官の姿が報道され、政府のパフォーマンスに利用されたのではないか」「そもそも行動計画の作成には医系技官がかかわっているが、果たして十分な情報収集を行い、議論を尽くしたものなのか」といった回答をしました。森兼氏も、「検疫は全く無駄とは言えないが、要は人、手間、コストのバランスだと思う。検疫に目が向きすぎていた面があり、少なくても国内感染者が出た時点で、検疫をやめて国内対策を重視すべきだった」と述べましたし、岡部氏も「行動計画においては適時適切に修正を行うこととなっているので、これを是非利用していただければと思う」と締めくくりました。

 このような勇気ある発言ができる専門家たちが、この国を守るために不可欠な存在となります。一方、政府官邸の専門家諮問委員会の長でもある尾身氏は、検疫は万能薬ではないとしつつも一定の効果があったと述べ、そのひとつは「国内の発症例が報告される迄に時間を稼げて診断薬を調整し、各地方自治体に配布することができた」と指摘しました。この理屈は、科学者としてはかなり無理があると思います。国内で渡航歴のない患者はPCRで診断させてもらえなかったのですから、その間、発見が遅れ、単に国内感染者を増やすまで待っていただけだ、と考える方が自然です。また、水際作戦で時間稼ぎするくらいで出来ることなら、予めやっておくべきでしょう。それでも最後には、「縦軸に感染力、横軸に病原力を置いた二次元的な対策を作る、検疫においてもアジャストするということはこれからの課題で、厚生省がすぐにやるべきこと」と締めくくりました。これは、まさに正鵠を射た発言です。

 4人の専門家が異口同音に検疫見直しの必要性を指摘しましたが、上田博三・健康局長の回答は、「現時点では、検疫法の改正が必要か否かを検討するのは時期尚早」というものでした。今秋には新型インフルエンザの再来が予想されるのですから、「検討を開始」するくらいはすべきですし、参加した全ての専門家の意見を無視して、上田健康局長が決める資格があるようには思えません。』

騒動の当初、連日テレビには、PPEを装着した検疫官の姿が映し出されました。サーモグラフィを使用した発熱患者の選別も何度も映し出されましたが、これは、パフォーマンス、プロパガンダとしては非常に有用です。しかし、検疫により水際で阻止できる可能性は当初より否定されていたのです。SARS:急性重症呼吸器症候群では発熱が確認されてから感染力を持つまでに時間がかかることがほとんどで、その間に患者さんを隔離すれば、感染の拡大を阻止できるという基礎的な事実がありましたが、インフルエンザでは発熱が確認される前に、飛沫感染で感染を拡大してしまう、つまり、自分も相手も知らずのうちに感染を成立させてしまう特性があり、水際対策では感染拡大を抑えきれないということになります。この点についても騒動が始まる前から、多数の指摘があったのにも関わらす、厚生労働省は検疫、発熱外来というSARSに対する備えを踏襲しました。

『【医系技官の存在】

 このように新型インフルエンザ対策に関わった厚労官僚たちは、大臣、国会議員、専門家の意見を聞き流し、暴走しています。なぜ厚労省は、このような対応をとってしまうのでしょうか?この問題は、新型インフルエンザ対策を取り仕切った医系技官の存在を抜きに語ることはできません。

 医系技官とは医師免許を持つキャリア官僚で、霞ヶ関に約250人存在する一大勢力です。医政局長、健康局長という二つの局長ポジションをもち、医療行政を一手に担います。また、研究費の配分や人事を通じて、国立感染症研究所などの国立病院・研究所を実質的に支配しています。これは、米国ではFDAやCDCの長官が政治任用であることとは対照的です。

 医系技官のキャリアパスは独特です。医学部卒業後に1-2年の臨床研修を経て厚労省に入省し、その後、様々な部署や省庁をローテートし、閉鎖的な「ムラ社会」で出世を競います。彼らは、権限や予算獲得を追い求め、行政官としての実績を積んでいきます。この状況は、WHOやCDCが、十分な現場経験を持つ医師を中心に運営されていることとは対照的です。例えば、テレビにしばしば登場するWHOのKeiji Fukuda氏は大学卒業後、一貫して感染症対策に従事しています。彼らは、グローバルな「感染症対策ムラ」で昇進を競い、そのために公衆衛生の専門知識と、この分野での業績が求められます。今回の新型インフルエンザ騒動で、厚労省がWHOと十分に連携できなかったのは、両者のレベル・行動原理が違うからだと言うことも可能です。

 霞ヶ関に医系技官が必要な理由は、医療は専門性が高く、医師でなければ分からないからだと説明されてきました。また、事務官にとっても医系技官は便利な存在だったでしょう。医系技官が政策立案に関与することで、国民や政治家に対して医学的な正当性をアピールすることが出来たからです。しかしながら、多くの国民が「医系技官は医者ではない」と認識するようになり、その存在理由が問われています。例えば舛添大臣は、医系技官改革の必要性をこれまでに幾度も訴えています。

 現在、医系技官はこのようなジレンマに悩み、一部の人たちは、専門家並みの医学知識があることをアピールしようとして墓穴を掘っています。今回の医系技官の暴走も、このように考えると理解しやすいと思います。更に、5月22日に政府の「基本的対処方針」が出され、検疫が縮小するまで、実に1ヶ月を要しましたが、これは医系技官が面子に拘ったからだと言われています。この1ヶ月は関西における感染蔓延を考えれば致命的だったと言わざるを得ません。わずか5日間で学校閉鎖勧告を撤回したCDCの柔軟さとは対照的です。しかも、この方向転換は難渋を極めました。舛添大臣は5月19日、医系技官が選んだ専門家諮問委員とは別に、独自に四名の専門家アドバイザーを任命し、彼らの意見を聞くという「パフォーマンス」を演じなければならなかったのです。その中に、上記の森兼氏も含まれます。勿論、全ての専門家が機内検疫の即時中止、国内体制の整備を訴えました。この模様は、マスメディアで大きく報道され、医系技官も方針転換せざるを得なくなりました。しかしながら、舛添大臣の「パフォーマンス」は官邸の反発を買い、東京新聞はこれを5月22日の朝刊で大きく報道しました(インフル対策指揮の舛添厚労省 官邸「独断専行」批判も)。誰が官邸に情報を入れたかは、説明の必要もないでしょう。

 このように、我が国の医療行政は、医師が尊重すべき科学的正しさや良心ではなく、担当者の面子や思惑にあまりにも翻弄されすぎています。既に南半球では新型インフルエンザの大流行が起こりつつあり、今秋、日本への再上陸は避けられそうにありません。このままでは、また同じような迷走劇を繰り返し、大きな被害が出る可能性は高いでしょう。そうした今、我々は何をしなければならないでしょうか? 次回、この問題を議論したいと思います。』

厚生労働省の医系技官は変わらなければならないでしょうね...。メンツなどというショーモナイ拘りにしがみついて、国の医療行政を翻弄するのは許されないことです。今回の騒動で、問題点をはっきりと示されたらいいなと感じます。

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