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2009年5月21日 (木)

対立構造はどうして作られたか?

2009年5月21日 曇りのち雨

すごく強い風が吹いた後、雷雨でした。湿度、気温ともに高く...インフルエンザの流行も阻止できるか??

MRICで配信された記事です。虎ノ門病院泌尿器科部長の小松先生が書かれた文章。

要約すると『日本医師会は、やはり開業医の先生方のための団体であり、勤務医の先生の意見は尊重されてこなかった。そして、そのため医療費の増額を求めても、我田引水のように思われて、なかなか大衆の方々に本当の意味で医療費増額が必要なことを理解させることが出来ない。』『現場に仕事を押し付けるときに政府にいいように使われている』ということでしょうか?

かくして、勤務医と開業医のみなさまの間に対立構造ができている。ということも主張のひとつでしょう。

クリアーカットで理解しやすい文章です。

○経営主体の立ち去り型サボタージュ  

07年6月の医療経済実態調査で、病院の経営状況が悪化していることが示された。医療に限定するために、介護保険事業に係る収入のない病院でみると、全体として医業収入より医業費用が大きい。医療収入に対する医業費用の比率は、05 年6月の102.3%から、07年6月には105.6%になり、赤字が拡大した。公立病院は 117.4%と経営状況が極端に悪い。全国公私病院連盟によると08年6月の調査で自治体病院の93%は赤字だった。  

このような状況下で、自治体財政健全化法が動きはじめた。夕張市のような財政破綻を未然に防ぐためである。自治体は、病院の赤字が膨らむと民間に売却するか廃止せざるを得なくなった。数年来目立っている公立病院の閉鎖が一気に加速される。  

高知医療センターの大赤字は、統廃合やPFI(民間の資金や組織を使って、公共サービスのための施設整備やサービス提供を行う手法)が、成功を保証するものでないことを示している。三菱水島病院が閉鎖されたが、企業も赤字病院を維持できない。  

さらに、09年2月13日、厚労省は、公的年金の保険料や、中小企業向け旧政管健保(現・協会けんぽ)の保険料を、病院事業につぎ込むわけにいかないという理由で(土地建物を病院に無償で貸与していた)、10か所の厚生年金病院と53か所の社会保険病院の売却方針を決定した。私の勤務する虎の門病院を経営する国家公務員共済組合連合会もいくつかの病院を閉鎖(統合)した。国家公務員の年金資金を、病院の赤字補填に使うことが許されないからである。  

複数の経営主体が、それぞれ経済的理由で病院を手放そうとしている。医療崩壊は、経営主体の立ち去り型サボタージュという未曾有の局面に入った。だれも全体をコントロールしていない。政策変更に要する時間と現在の政治状況を考えると、2-3年以内に、日本の医療は大混乱に陥る。  

なぜこうなったか。第一に国民が負担を嫌がり、これに政治が引きずられた。財務省が発表した08年10月現在の資料によれば、日本の租税負担の対国民所得比は、OECD30カ国中、ハンガリーを除く29カ国の中で、下から4番目である。このため必要な給付ができない。例えば、OECDによると、高等教育への公費支出の対 GDP比は、OECDの中で最低である。その分、親や本人の負担が大きく、貧しいと大学に進学できない。08年秋の世界経済危機以後、経済的理由による高校中退も増えている。このままでは、収入格差が世代を超えて固定される。国民は、EU法が加盟国に消費税率15%以上を義務付けていることの意味を考えるべきである。 EUでは、経済危機に対する緊急処置として、品目によって消費税率の引き下げが自由化されたが、基本的な考え方が変わったわけではない。  

中曽根政権で、増税なき財政再建が叫ばれ、医療費亡国論が登場した。以後、医療費抑制策が四半世紀にわたり継続された。医療費が抑制されたにもかかわらず、国民やマスメディアは医療安全の要求を非現実的レベルまで高めた。費用やシステムの問題が、医療従事者個人の善悪の問題とされた。医療現場の労働環境は悪化し、医療従事者は疲弊した。  

日本医師会(日医)は医療費抑制政策に反対してきたが、みずからの利益のためとしかみなされなかった。医療費抑制策がどのような結果をもたらすのかについて、病院医療についての知識と関心不足のため、正確な情報を国民に提供できなかった。医療行政のチェック役を果たすどころか、逆に、政策決定の道具としてしか機能してこなかった。結局、日医は、医療崩壊現象に早期に気づくことも、対応することもできなかった。  

どうすべきか。私は「医療再生のための工程表」1で 11の工程を提示した。工程表の要が医師を代表する公益団体の設立である。このために「日本医師会三分の計」2を提案した。日医を、開業医の利害を代弁する団体、勤務医の利害を代弁する団体、公益のための医師の団体3つに分割する。  

中央公論の09年1月号に、日医常任理事今村聡氏の「小松秀樹医師よ、ともに戦おう」と題する文章が掲載された。私が書いた「公益法人制度改革がもたらす日本医師会の終焉」(中央公論08年9月号)に対応したものである。何の組織的裏づけもない一勤務医が書いた記事に対し、日医の常任理事が、わざわざ個人名まで出して反応した。日医はよほど困っている。  以下、今村氏の主張を材料にこれまでの日医の姿を明らかにした上で、公益に徹する医師会の必要性について述べたい。  

今村常任理事の主張1:日医が開業医の利益を中心に活動している団体という認識は誤解である。  今村論文を読んでも、日医が、開業医の経済的利益の増進を基本原理として行動してきたという私の認識は変わらない。今村常任理事は「中医協の医師を代表する委員5名のうち開業医は1名のみであった(日医からは三名参加し、そのうち 1名が開業医)」と書いている。中医協への開業医の影響力が小さいと言いたいらしい。09年4月現在、中医協の医師の委員、5名のうち、日医の役員が3名を占め、あとの2名は病院代表である。日医の役員3名は、開業医、あるいは、小規模の個人病院の開設者であり、利害は開業医と一致する。  

以下、中医協の委員について、『医療崩壊 立ち去り型サボタージュとは何か』」(朝日新聞社)に書いた文章を引用する。  

中央社会保険医療協議会のあり方を検討してきた有識者会議は2005年7月20日、報告書を発表した。病院団体の代表を1人から2人に増やすこと、大勢の意見として病院代表は病院団体が直接推薦すべきだとした。これに対し、尾辻厚生労働大臣は病院代表2人を含む医師代表5人を医師会がとりまとめて推薦する、との方針を発表した。(中略)決定者は尾辻厚生労働大臣だが、日本医師会の強い働きかけがなければこのような決定がなされることはあり得ない。(中略)アンフェアとみなされることを強行していると、診療報酬の格差が生じた責任が日本医師会に押し付けられることになる。(中略)ここまでの格差があるとそろそろ大どんでん返しがくる。2005年11月26日の日本経済新聞によると、政府は、中央社会保険医療協議会の委員を医師会など関係団体が推薦する制度を廃止して、厚生労働相が直接任命する方針を固めたという。今後、日本医師会への風当たりが強まりそうである。  

この後、私の予想は的中し、日医の政治的影響力は低下し続けている。  

私は、開業医の診療報酬が大きすぎるから、勤務医によこせといっているのではない。勤務医にとっては、個人の収入より、適正な労働環境で誇りをもって働けることが、はるかに重要である。私は、日医が勤務医の意見を抑圧してきたために、公益のためと称して活動しても、周囲が別の意味で捉えるという事実を指摘しているのである。診療報酬の配分がいびつになったことより、勤務医の声を抑圧していることが日医の立場を悪くしている。  

今村常任理事の主張2:「『医師会では中枢への批判は事実上封じられている』との小松氏の記述についても、代議員会の議事録を一読されれば、代議員から執行部に対する厳しい批判、要望が出されていることが分かり、ご理解いただけると思う。」  今村氏は、読解力に問題がないとすれば、誤解したふりをしている。今村常任理事の記述どおり、日医代議員には日医に対し意見を述べる場がある。私の主張は、開業医を含めて、一般会員には日医に対し直接意見を述べる場や方法が与えられていないということである。医師会は、日医、都道府県医師会、郡市医師会の三層構造になっている。郡市医師会が都道府県医師会の代議員を決め、都道府県医師会の代議員が日医の代議員を決める。二重の代議員制度では、役員が役員を再生産することになる。権力の移動は権力者の仲間割れの形でしか起こり得ない。一般会員による、役員のチェックは不可能である。現場の勤務医の意見が反映されるような仕組みにはなっていない。勤務医にとって、日医は自分たちと無関係のものと考えるか、自分たちの利益を損ねる団体と考えるのが合理的である。現場の勤務医が日医の活動に参加しないのは、忙しいからだけではない。  

今村常任理事の主張3:日医は公益法人にふさわしい活動をしている。「院内・院外での死体検案の画像病理診断(autopsy imaging 略してAI)システムの構築。勤務医の健康を支援するためのプロジェクト。」  

ある専門家が、県医師会の開業医の役員が県の医療計画に口を差し挟んで困るとこぼしていた。十分な専門知識のないまま、自分たちの利害を基準に乱暴な意見を強弁するという。医師会内での地位を生きがいにしているベテラン開業医が、県の医療計画に対し大きな発言権を持つのに十分な知識を持っているかどうか疑問である。  

医師会の問題は、本来、関与すべきでないことに関与し、専門的知識や判断が問われるべきときに、利害を主張することにある。  

AIは開業医にはほとんど無関係である。開業医主体の日医が口を挟むことは美徳ではない。  

同様に、勤務医は、勤務医の健康問題は勤務医の問題であって日医の問題だとは思っていない。日医は勤務医の立場を代弁する立場にない。Jリーグのサッカー選手の健康問題を、相撲協会の役員が扱うようなものである。勤務医にとって、迷惑なだけである。変な合意を作られるとすれば、勤務医にとって有害である。  

今村常任理事の主張4:「日医が公益社団法人を申請する際には、(中略)医師連盟との兼務を三分の一以下にする。」「さまざまな政策を実現していくためには(中略)政権与党議員などに対し、医療政策を提言し、それを理解し実現に尽力してくれる議員を支持することは、当然のことと考える。」  

日医ホームページに記載されている08・09年度の日医役員と、08年9月29日付けの日本医師連盟の委員長、副委員長、常任執行委員の32名は完全に重なっている。ある人間が、日医役員ならば、同時に日本医師連盟の常任執行委員以上の役員であり、後者ならば、日医役員である。両者は数学的に同値である。  

日本医師連盟の活動拠点は日本医師会館に置かれている。08年9月18日の日本医師連盟の記者会見は日本医師会館で行われた。この席で、日本医師連盟役員から私の知人の記者に渡された名刺は、日医役員の名刺だった。  

今村氏は、日医は公益社団法人になる予定だが、日本医師連盟の役員数を表面上変更するだけで、従来どおり政権与党を支持する、としている。明記されていないが、政治献金も従来どおり継続するつもりだと理解される。  

今村常任理事も「日医が開業医の利益を中心に活動している団体という認識については、国民にもそのように理解している人々が多い」と認めている。国民の認識は私の認識でもある。自民党厚労族の中心人物の一人は、私に対し、日医への反感を隠そうとしなかった。いくら国民の認識が間違っていると主張しても、判断するのは日医ではない。日医が、不特定多数の利益の増進ために活動しなければならない公益法人になった上で、自らの利益のために、数学的に同値である表裏一体の団体から、特定政党に献金をするなどということが社会に受け入れられるのか。制度上も無理であるが、何より政治的に無理がある。  

今村常任理事の主張5:「対峙すべき相手は誰なのかをしっかりと見据え、国民のための医療制度を守る必要がある。小松氏をはじめ多くの勤務医に対して、『日医に加入していただき、ともに戦おうではないか』と申し上げて、筆をおきたい。」  

現在の医療行政には、原理的な問題がある。現実の認識ではなく、無理な規範によって行政上の判断がなされている。現場に無理な規範が押し付けられている。現場は常に違反状態にあり、厚労省がその気になれば、いつでも摘発される。厚労省はこの状況を利用して病院を支配してきた。愛育病院の総合周産期母子医療センターの指定返上問題は、無茶な規範で現場を支配することが限界に達したことを示している。  

実情を無視した政策は、厚労省が立案し、日医が承認することによって決定されてきた。日医は、経済的利益のために、また、能力不足のために、厚労省の政策決定の道具として機能してきた。医療を再建するためには、この過程を変革して、医療行政を現実の認識に基づくものにさせなければならない。現在の医療崩壊現象は、病院医療の崩壊である。日医は病院医療崩壊の主犯ではないが、少なくとも、消極的協力者であったことは間違いない。  

これまでも、日医は開業医の利益のために、開業医だけではなくすべての医師を代表する団体としてふるまいたいと考え、勤務医の加入を推進してきた。私の部下の泌尿器科医は、以前勤務していた病院で、知らないうちに日本医師会会員にされていたという。「勤務医と開業医が対立すると、厚労省のいいように分割統治されるので、勤務医も日医に加入すべきだ」という論理が使われてきたが、日医は開業医の利害を代弁し、勤務医の利害には一貫して冷淡だった。

○日医の終焉と医療再生  

今村常任理事は全体として「日医は日本の医療のために、現在の日医の枠組みを維持し、現在の活動を継続する。これに勤務医も協力すべきである」と主張している。勤務医の協力が、自分たちの利益の確保に不可欠だと思っていることは間違いない。日医の特徴は、あからさまなエゴを臆面もなく主張できるところにある。日医は、周囲の目に映る自分の像について想像できていない。この想像力の欠如は、日医の立場を危うくしている。日医は開業医の利益を主張しすぎて、かえって、利益を損ねている。  

社会の高齢化によって医療と介護の境界が不明瞭になり、医療に対するニーズは多様化した。従来の開業医の診療形態によるサービスには限界がある。日医の活動は、既得権益の保護に偏りすぎていた。社会にアピールすべきは、国民のニーズに応じたサービス提供のための努力と、社会から公正な団体だと見られるための長期間にわたる地道な努力でなければならなかった。  

日医は傲慢ともいえる態度で権力を誇示してきたが、これに実体がないと分かれば、過去の傲慢さゆえに叩かれる。従来、日医の権力に対する恐れのために、勤務医が声を上げることはなかった。しかし、日医が張子の虎であることが徐々に浸透している。日医を恐れない個人や団体が目立ち始めた。例えば、外科関連学会協議会で医師会問題の議論が開始された。日医に勤務医問題についての質問状が送付されると聞いている。考え方を表明させて、それを基礎に本格的な議論を開始するためだと想像する。  

日医が進む方向を失って茫然自失になっていることは傍目にも分かる。解決の途は、日医の狭い想像力の範囲にはない。日医の過去の言動が社会に刻み込んだ記憶は、日医自身による解決を許さない。ある意味で、今村論文は痛々しいほど正直である。自力で未来を切り開けなくなったがゆえに書かれた。  

公益法人制度改革三法が施行されたので、日医は、今後、5年以内に新しい法人に移行しなければならないが、現在の組織形態が続く限り、開業医の利害を代弁する一般社団法人にしかなりようがない。今村路線では勤務医を参加させるための大義名分が名実ともになくなる。開業医だけの利害の代弁者と認定されると、厚労省の審議会や委員会に委員を送り込めない。  

今後数年間、医療が大混乱になるのはもはや避けられないように思う。現在できることは、崩壊後の再生への布石である。「医療再生のための工程表」では、医師を代表する公益団体を3年以内に設立するとした。この団体は、民による公を基本原理とする。再生のキーワードは実情認識、チェック・アンド・バランス、自律である。人々の健康の維持向上と、医療を必要とする人々への、質の高い医療の公平で継続的な提供のために、官をチェックし、自らを律していく。情報センターとなり、あらゆる生の情報を集める。研究者に研究材料を提供する。有益な研究を支援する。政治やシンクタンクに情報を提供して、政治が行政から独立して政策を考えられるようにする。政治をスローガンではなく、正確な情報を通じて動かして、医療行政の根拠を、規範ではなく、実情認識におくようにさせる。さらに、医療の質保証をもう一つの責務とする。自律のために、医師の適性審査制度3を設立する。この公益団体に、日医の会員も加入すればよい。  

私は開業医と勤務医の対立を望むものではない。しかし、勤務医を抑圧して対立構造を作ったのは日医であり、これまでの日医では、開業医と勤務医の不毛な対立は解消できない。対立が解消されなければ、医療再生に必須の公益団体が設立できない。  

公共の利益のためと称して、医師が開業医の利益や勤務医の利益を主張することは、医療の性質上、許されることではない。公共の利益のための活動は、特定集団の利益を目的とする活動と分離しなければ、社会の信頼は得られない。  

個人の死は、その生によって蓄積された憎しみやしがらみを絶ち、人間関係をリセットする。この意味で、個人の死は社会にとって必要不可欠である。組織にも生老病死がある。組織の成り立ちと行動が時代にそぐわなくなり、活動の負の遺産で、身動きがとれなくなると、組織を維持することのメリットが消滅し、組織は死を迎える。組織の死が新たな展開を生み、歴史を動かす。

文献 1 小松秀樹: 「医療再性のための工程表」義解. 月刊/保険診療, 63,97-103, 2008.

2 小松秀樹: 医師会、病院団体、各学会の役員は歴史を動かす覚悟を 日本医師会三分の計. MRIC, 臨時vol124、2008年9月12日. http://medg.jp/mt/2008/09/-vol-124.html

3 小松秀樹: 医師の適性審査と自律処分制度を導入せよ. 中央公論, 198-205, 2009年3月号

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