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2008年5月15日 (木)

悪性高熱症

2008年5月15日 晴れ
徐々に暑くなってきました。

集中管理を要した重症児もようやく病状が安定化し、一息つけたところです。

ずっと昔に経験した症例。全身麻酔に伴う、悪性高熱症についてまとめてみます。稀な疾患ですが、非常にコワい病態です。

Wikipedia:悪性高熱症より
『悪性高熱症(あくせいこうねつしょう、英malignant hyperthermia:MH)とは、全身麻酔の偶発症の一つ。頻度は稀であるが、適切な処置をしないと死亡率が高い。犬、馬、豚にも存在する。』

吸入型の全身麻酔薬(ハロセン、イソフルレン、エンフルレン、セボフルレンなど)や、脱分極型の筋弛緩剤(サクシニルコリン)を使用した場合に、高熱、筋強直、低酸素血症、高炭酸血症、アシドーシス、筋融解に伴うミオグロビン尿などを呈する状態です。症状は激烈で、分刻を争う処置がなければ救うことが出来ない場合があります。最近ではダントロレンナトリウムという、この疾患の特効薬が開発され、対処の方法も確立されてきたおかげで、この疾患の死亡率は大幅に低下してきました。現在では約11%の死亡率とされます。

ここからは、事実をもとにして書き下ろしておりますが、大幅に脚色を加えており事実とは異なった物語となっております。

ある、秋口の日。私は、病院で一人当直でした。そのころ、フォローしていた40歳代の気管支喘息の患者さん。発作は重症で、これまで数回、人工呼吸を要していました。発熱、咳嗽、呼吸困難を主訴にみえられました。胸写にて左心縁下部にシルエットサイン陽性で、CRPは25、SatO2は室内気にて80%代でした。これまでも、感染に伴い重症の発作がみられており、即入院として感染症の治療及び気管支喘息の対処を行いました。
大量の酸素とともにイソプロ吸入とステロイド静注、アミノフィリンも血中濃度を評価しながら行いましたが、徐々に症状は悪化。夜間に呼吸不全となりました。意識は混濁し、胸部聴診上、ほとんど呼吸音が聞こえないsilent chestとなり、血液ガスではpCO2 115と著しい高炭酸血症を示しました。このままでは、明朝までに呼吸停止から心停止に至るものと予想され、気管内挿管の上、人工呼吸を開始しようと準備しました。
気管支喘息重積発作で気管内挿管を要する時には、気管支攣縮を伴うことが多く、その場合、最悪、換気できない場合がありますので、なるべく複数の医師で行うようにしていますが、深夜の時間でもあり一人で処置をしていました。若干、手間取った関係もあり気管支攣縮を来たし、換気がほとんど出来ない状態となり、pCO2は下がりません。(酸素化はOKです。)
何とかしなければ...ということで、吸入の全身麻酔をかけることにしました。手術室に入り、セボフルレンを使用します。1MAC程度を使用すると、すぐに肺がやわらかくなってきました。換気は明らかにしやすくなり、pCO2も低下して50代に....。徐々に吸入麻酔を減量し、そのかわりにプロポフォールというクスリを始めて、鎮静を行います。病室に戻り、人工呼吸器を装着。一息ついたところ....。
急に、人工呼吸器のアラームが鳴り響き、まったく患者さんの呼吸が人工呼吸器にあわない状態に...。とりあえず、Bagで手押ししますが、スゴくかたい!血液ガスではpCO2 150!!。何故???体温は38℃以上で、バルンカテーテルから流れてくる尿の色が紅い。そのうちに、検査室から「CPK 1400以上」という異常値を伝えてきました。これは、気管支喘息の発作が再び重症化したのではなく、悪性高熱であろうと考え、特効薬であるダントリウムを静注。尿の赤みはあっという間に正常化しました。しかし、しばらくの間はpCO2の上昇は続き、pHも6.9代であったため家族の方々に「生命予後は厳しい」という説明をさせていただきました。
でも、その後は速やかに症状が軽快。人工呼吸器にもキチンと乗って、数日間で気管チューブを抜くことができました。

善かれと思ってしたことが、稀な副反応で、思わぬ経過をとる。医療の世界では、こういったことがママあります。全てを見通すことはできません....。

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コメント

よく救命できましたね.お疲れさまでした.
麻酔科医のいない病院だとダントリウムを置いていないことの方が多いですし,麻酔科医のいる病院でも十分量の備蓄がないこともままあります.
我々麻酔科医でも滅多に使うことがないため,溶かし方を知らない先生も多いです.絶対に電解質を含んだ溶液で溶かそうとしてはいけません.溶けないのです.蒸留水を使用しなければならないのですが,それでも溶かすのに苦労します.早く投与したいのになかなか溶けず焦ってしまうものです...

投稿: Level3 | 2008年5月18日 (日) 00時29分

こんばんは
Level3さま

コメントをありがとうございました。ずいぶんと脚色しておりますので実際のストーリーとは異なったフィクションとなっておりますが...。ダントロレンは使用しました。仰る通り、一瓶20mgのダントロレンを溶解するのに、ワッサー60mlを使用する。というのは余程精通していないと知らないことでしょうね...。

また、在庫があっても期限切れとなっていたりしますので、薬剤科にはダントロレンに関しては定期的に期限切れをチェックし必ず補充する様に指導することも必要でしょう。

投稿: いなか小児科医 | 2008年5月18日 (日) 21時16分

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