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2008年4月15日 (火)

いいコトばかりではない

2008年4月15日 晴れ

新緑がまぶしく、生命が「萌えいずる」といった風情です。

さて、DPCはdiagnosis and procedure combinationという和製の略語で、米国の包括医療制度のDRG/PPSを手本にしています。この疾患で、この処置を行った時に、入院日数がココまでならば一日当たりコレだけの診療報酬を出します。その入院日数を超えれば、段階的に減額するというような制度です。
つまり、「どれだけ安く診療を行ったか?」が、その医療施設の収入に直結する制度となります。

良い面は、優れた医療者が合併症を少なくして、安価に医療を遂行した場合に手取りが多くなることです。例えば、同じ虫垂切除術を行い、ほとんど合併症なく、手術の他に支出となる医療を行わなかった場合は合併症が生じた場合に比較して報酬が増えます。しかし、逆にコスト意識が過剰となり、安価すぎる粗悪な材料を使用したりする可能性は十分にあります。その結果として、患者さんに不利益が生じることも考えておかなければなりません。

実際、米国ではマイケルムーア監督の映画「sicko」よろしく、医療は既に一つのビジネスとなっており、持たざる者は医療を受けることはできません。そして、2本の指を切断した患者さんは「お金がないため」一本しかつなぐことができない....。この状況の中で、DRGが行われているとしたら...想像に難くないでしょう。コストをどれだけカットするか?の競争です。

毎日新聞の記事は、DPCを一点の曇りもないように礼賛しているようですが....。どんな制度にも問題点はあり、その問題点を引き換えにバランスよく長所を示さないとフェアーではありません。DPCは、導入により医療費総額を減らすことができるでしょう。しかし、それにより「型にはまらない、合併症の起こりやすい患者さん」には医療を受ける機会を奪うことにもなりかねません。

(上)診療を標準化 入院費削減も

『DPCとは、病名や症状、治療内容別のリストに従って、1日当たりの入院医療費を決める仕組みだ。2003年に導入が始まった。病院などが保険者に医療費を請求する際には、患者の入退院の情報や合併症、薬の種類や検査の回数などを、コード化して提出する。このため、特殊なソフトを使えば、大量の記録を簡単に解析できる。

 総合病院だけに常勤医師は約120人と多い同病院がDPC対象病院になったのは2006年4月。DPCデータを活用し、嚥下性肺炎の患者にどのような治療が行われているのかを分析した。すると、医師により検査やリハビリの開始時期、投与する抗生剤の種類などに違いがあることが判明。これらの結果をもとにパスを改良し、昨年7月に新しいパスが完成した。

 「検査のタイミングなども最適になるよう標準化した」と椛島課長。相澤孝夫院長は、「医師や診療科によって診療内容が違うことが、DPCデータであぶり出せた。データなので、現場の医師や看護師にも説得力があり、あるべき医療に近づけることができる」と、成果を強調する。』

確かに、標準化するメリットはあるでしょう。しかし、医療でお相手するのは生身の人間です。ご承知の通り、人間は千差万別...一人として同じ人間はいないのです。治療に対する反応も、十人十色...突き詰めて標準化することは不可能です。入院期間が長くなったり、治療に要するコストが高くなると病院の収入に打撃を与えるため、DPCでの報酬をより多く手にするには、標準化するのが大変な患者さんを診ないこととなります。

『コストダウンにも寄与している。その代表が、政府が後押しをしながら進まない後発医薬品の普及だ。

 03年にDPCをスタートさせた聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)では、院内で使用する約1900品目の医薬品のうち、約220品目を、先発医薬品と同等の薬効を持つが値段は半額ほどの後発医薬品に切り替えた。通常、医薬品は使っただけ医療費を請求できる出来高制だが、定額制のDPCでは、コストを抑えないと収益が出ないためだ。

 「医療水準を落とさずに、合理的な医療を推進しようという意識が強まる」と、同病院の増原慶壮(けいそう)薬剤部長は指摘する。

 DPCデータを分析すれば、個々の病院の医療の中身などを詳しく比較することもできる。東京医科歯科大の川渕孝一教授(医療経済学)は「病院にとって、医療の質と経営の質を同時に高めるのは難しい。DPCデータによって、これまで医療界が経験したことのない他流試合が可能になり、両者の質を高めるきっかけになる」と話している。』

ジェネリック医薬品(後発医薬品のこと)は、生物学的同等性試験という先発の医薬品との薬効での違いはありませんということを確認する試験を行い、それをパスしたものです。DPCが導入された際、医薬品のコスト削減のため、大きく導入されるでしょうね....。しかし、このジェネリック...問題も若干あるのです。「本当に同じ薬効があるのか?」これは、はっきりいってわかりません。(でも大多数は大丈夫な様です。)後発品メーカーは先発品のメーカーにくらべ、会社の体力が小さいところも多く、その供給体制に不備はないのか?医薬品の情報提供には問題がないのか??

医療費を削減するために、ココまでする必要があるのか??

他流試合はできるが、本当に比較する病院間での患者層は同じなのか??

DPCは本当に一点の曇りもないほど礼賛すべきものなのか??

幸いにして、この記事には(上)という注釈がついています。(上)があれば、(下)あるいは(中)があるはず。続編ではもう少し踏み込んでDPC、それから医療費の削減について考えてほしい。

先進国の中で、公共事業費が社会保障費よりも多いのは、日本ぐらいかもしれません...。

本日参照させていただいた記事です。

『(上)診療を標準化 入院費削減も
病状・治療別に費用算定

 病状などで1日当たりの入院費を決める新しい医療費支払い方式が、急速に広がっている。「診断群分類(DPC)別包括評価」と呼ばれ、採用する病院は1433病院、全国約9000病院の2割に迫る勢いだ。病院はどう変わるのか。現状と課題を探った。(阿部文彦、写真も)

入院日数

 長野県松本市の相澤病院(471床)は、眼科を除くほぼすべての診療科をそろえる大規模な民間総合病院だ。3月初旬の夕方、病院内の一室に、医師、看護師、薬剤師、理学療法士などが集まった。

 「この新しいクリニカルパスを使うと、退院までの日数が短くなり、期間のばらつきも小さくなります」と、同病院診療情報管理課のスタッフが説明する。「クリニカルパス」(パス)とは、入院から退院までに治療、処置する手順を示した診療計画書のことだ。

 この日は、高齢者に多い嚥下(えんげ)性肺炎についてパスを検討。従来のパスだと在院日数は28・4日プラスマイナス16・3日だったが、新しいパスでは23・5日プラスマイナス8・9日になったことが報告された。

 「DPCの記録から抽出したデータを使い、パスを改良した成果が出た」と、同課の椛(かば)島博彰課長は話す。

院内の差

 DPCとは、病名や症状、治療内容別のリストに従って、1日当たりの入院医療費を決める仕組みだ。2003年に導入が始まった。病院などが保険者に医療費を請求する際には、患者の入退院の情報や合併症、薬の種類や検査の回数などを、コード化して提出する。このため、特殊なソフトを使えば、大量の記録を簡単に解析できる。

 総合病院だけに常勤医師は約120人と多い同病院がDPC対象病院になったのは2006年4月。DPCデータを活用し、嚥下性肺炎の患者にどのような治療が行われているのかを分析した。すると、医師により検査やリハビリの開始時期、投与する抗生剤の種類などに違いがあることが判明。これらの結果をもとにパスを改良し、昨年7月に新しいパスが完成した。

 「検査のタイミングなども最適になるよう標準化した」と椛島課長。相澤孝夫院長は、「医師や診療科によって診療内容が違うことが、DPCデータであぶり出せた。データなので、現場の医師や看護師にも説得力があり、あるべき医療に近づけることができる」と、成果を強調する。

 同病院では、平均入院日数を4年前に比べて2日間短縮した。疾病ごとに定額というDPCの特徴を生かし、「胃がんの化学療法なら3割負担で4万7000円」など、入院費の概算を公表、患者の利便性向上も図っている。

コスト意識

 コストダウンにも寄与している。その代表が、政府が後押しをしながら進まない後発医薬品の普及だ。

 03年にDPCをスタートさせた聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)では、院内で使用する約1900品目の医薬品のうち、約220品目を、先発医薬品と同等の薬効を持つが値段は半額ほどの後発医薬品に切り替えた。通常、医薬品は使っただけ医療費を請求できる出来高制だが、定額制のDPCでは、コストを抑えないと収益が出ないためだ。

 「医療水準を落とさずに、合理的な医療を推進しようという意識が強まる」と、同病院の増原慶壮(けいそう)薬剤部長は指摘する。

 DPCデータを分析すれば、個々の病院の医療の中身などを詳しく比較することもできる。東京医科歯科大の川渕孝一教授(医療経済学)は「病院にとって、医療の質と経営の質を同時に高めるのは難しい。DPCデータによって、これまで医療界が経験したことのない他流試合が可能になり、両者の質を高めるきっかけになる」と話している。』

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コメント

 臨床を経験すればするほどこのDPCには違和感しか浮かびませんね。例外が認められるということも判りますが、これで済むなら医者なんていらんやろと思います。でも実際には千差万別の人体に対し胸騒ぎ一つで病気の糸口を掴んでいく医者がどうしても必要なんです。

 そんな臨床経験の豊富な医者を増やすことこそ世のため人のためになると確信しております。それでもなんでもうまくいくわけではありません。なんでも治せると思うのは人間の思い上がりでしかなく、画一のロボット的医療で対応できるほど医療は確実性のあるものではないでしょう。それはブラックジャックという漫画においてすら語られていることです。

 コストで考える医療ほど無味乾燥な世界はないですね。

投稿: クーデルムーデル | 2008年4月16日 (水) 10時34分

DPCは無駄な検査、治療の多い医師を標準レベルにまで引き戻すには有用だと思います。そのような医師とは、一言でいえば腕の悪い医師とでもなるのでしょうか(これもまた表現が適当ではないが)。

現状の治療は効率よく行い、利潤を上げることのできる医師(腕のいい医師というのかな)は、さらに奥まで見通して、それに必要な治療をすることも、よくあります。利潤ばかりを追求するとその先の行為が鈍るであろうと懸念します。

仰るとおり、DPCには光と陰があります。

投稿: 雪の夜道 | 2008年4月16日 (水) 11時49分

こんばんは
クーデルムーデルさま

コメントありがとうございます。また、レスが遅れまして申し訳ありません。

>コストで考える医療ほど無味乾燥な世界はないですね。

DPCは結局、厚生労働省の考えた、医療費抑制策であるといえます。一部には、効率化により患者さんの利益になることもあるようですが...。その反面という部分も当然あります。利潤を追求しすぎると、本来の医業の目的を忘れ突っ走る。そして、型にはまらない患者さんは置き去りにされる。ということが起こりうると感じます。

新聞では、手放しに賞賛している様に感じられますが、影の部分をもっと正確に表現するべきだと思います。

投稿: いなか小児科医 | 2008年4月19日 (土) 21時44分

雪の夜道さま

こんばんは
レスが遅れましたこと、申し訳ありません。

DPCは一部の高機能で専門分化が進んだ病院では行われるべきであろうと感じています。その他の、地域に密着した病院では、医師の裁量の範囲を広げておかないと、パスからはずれる患者さんを救えないようになるのでは?と危惧します。

確かに、一部では効率化が進み良い面もあるでしょう...。拡大しすぎて、DPCでなければ生き残れないというような制度にすると、救われない患者さんたちが出てきそうです。

投稿: いなか小児科医 | 2008年4月19日 (土) 21時49分

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