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2007年4月25日 (水)

テオフィリンの話題_経験そして考察

2007年4月25日 晴れ
テオフィリンの話題を続けます。

まず、私はこの病院に勤務して7年目となりますが、最初の2年間には気管支喘息の治療としてテオフィリンを使用していましたが、訳あってその後、処方するのをほぼヤメた状態です。

テオフィリンは非常によいクスリです。別の病院に勤務していたとき、結構重症のアスピリン喘息の患者さんがいました。もう成人されていたのですが、時々、発作重積状態となり入院が必要でした。そして、アスピリン喘息(注1)の方に時々おられるのですが、治療として用いられるステロイドに対して、過敏性をもち発作が増悪することがあります。この方も、そのような体質でした。
ある日、発作が重積して入院されてきました。ステロイドが使用できない状態で、通常量のアミノフィリン(注2)を使用していましたが...更に発作は増悪。人工呼吸も止むなしの状態に近づきました。しかし、この方にある病院で試みられて発作を頓挫させられた治療があり、それをしてみることとなりました。それは、アミノフィリンをすごく大量に使用してみるということでした。「こんなにいれてもいいのか?」と思える様な量でしたが...ステロイドは使用することなく、発作は頓挫。数日後には退院できたようなことでした。

(注1)アスピリン喘息:アスピリン喘息はアスピリンだけでなく、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)(市販品ならバファリン、セデス、ノーシン)や、NSAIDsが含まれる注射薬、座薬、湿布や塗り薬などで誘発される喘息。
(注2)アミノフィリン:テオフィリンは単独では水に溶けにくいので、エチレンジアミンという成分と混ぜて溶けやすくした注射剤。

その救われたテオフィリンを使用しなくなったいきさつは次の通りです。
この病院に勤務し始めたときぐらいには、テオフィリンとけいれんの関連についていろいろなことを聞き始めていました。とりあえず、その時点までの私の喘息治療にはテオフィリンはなくてはならないものであり、使用をつづけていました。そして、テオフィリン内服中のけいれんについては経験がありませんでした。

ある時、けいれん重積で40分ほど続いた児がいました。喘息があり他院にてテオフィリンが処方されていました。この児は、気管内挿管を要さずにけいれんは止まりました。そして、テオフィリンの血中濃度は治療域でした。「こんなこともあるだろう」ぐらいの感じでしたが、念のため、この児にはテオフィリンは飲ませないほうが良いかもしれないとのことを伝えました。その後も、私の治療は変わらずテオフィリンは治療の選択肢の一つでした。

その一年後ぐらいに、当院でテオフィリンを処方している児に、けいれん重積が起こり、他院で気管内挿管されることが2例続きました。どちらも、後遺症はみられず軽快しましたが...そのうち1例で、家族と若干のトラブルとなりました。血中濃度はどちらも治療域でした。

その間にも、1例...テオフィリン投与中に無熱性けいれんがあり、けいれん後の意識障害が遷延した例がありました。家族とのトラブルを経て、「これは、テオフィリンを使用することを控えなければならないかも...」と考えるに至り、その後は、いろいろな代替手段を使用して現在まできています。

トラブルとなった患者さん以外は、ありがたいことに今も通って来てもらっています。そして、その児たちの年余の経過をみることができました。最初のけいれん重積で40分続いた児と、最後のテオフィリン投与中に無熱性けいれんがあり、けいれん後の意識障害が遷延した児は、後にBECCT:benign epilepsy of children of centro-temporal EEG foci、中心・側頭部(脳波)焦点小児良性てんかんという予後が比較的良好なてんかんを発症しました。もう1例は特に大きな異常なく過ぎています。

以上のことを総合して考えてみると、「テオフィリンはてんかんなどのけいれんをおこしやすい体質の児に使用すると、けいれん重積をおこすことがある。」(これは血中濃度が治療域であってもです。)ということではないかと思います。そういったものがすべてヘテロジェニックにテオフィリン関連けいれんとして包含されてきているのではないのか?あくまで私見ですが...そう思えます。

ただ、「けいれん重積型急性脳症」の群にテオフィリン投与が認められる割合が非常に高い。ということについては、どうなのか?これだけで...テオフィリンと件の急性脳症との関連を認めるべきなのか?はっきりしません。しかし、日本小児科学会のワークショップでこのデータが呈示され、学会雑誌にも掲載されているということを考えると...今後、テオフィリンを処方する場合には、「こういったこともあるんだ...」と説明する必要が生じたのかもしれません。

今も、テオフィリンは使えていません。このワークショップの座長は、「この問題を解決するには、前向きのblind studyが必要だ。しかし、日本の現状を考えると、倫理的に恐らく許されないであろう。」ともいわれていました。

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コメント

 reportどうもありがとうございました。白熱した討議が繰り広げられた事でしょう。しかし最後の座長の言葉「blind studyは倫理的に許されない。」というものには納得しかねます。

 実際にテオフィリンを使わなくてはダメな患者さんは大勢います。β刺激剤の吸入/内服/貼布およびステロイド投与では苦しいまま数日過ごす事になる児も実際の臨床の場で多いです。テオフィリンと痙攣の因果関係を調査することをためらっている場合ではないでしょう。小児科学会主導で大規模スタディーを組むべきと思います。

 全例使いましょうなどという無茶な事は言いませんが、喘息患児にテオフィリンを使用するという選択肢を残してほしいです。間違っても欧米でのエビデンスがないからなどという不毛な論理でテオフィリンが使用禁止とならないよう願うばかりです。
 

投稿 クーデルムーデル | 2007年4月26日 (木) 00時27分

テオフィリンは確かに使うのに細心の注意が必要な薬剤です。痙攣誘発の可能性についてもそう簡単に因果関係の確実な証明は容易で無いと考えます。

一方で喘息もまた手強い疾患です。テオフィリンからステロイド吸入への置き換えは私もやっていますが、全例が順調なわけではありません。 クーデルムーデル様が御指摘の様に、テオフィリン以外のフル治療を行なってもコントロール不良の患児は確実に存在します。

私が一番懸念するのは喘息治療に対するテオフィリン投与を薬狩りのように排除してしまう事です。悪魔の薬のように扱い、投与して痙攣の症状が発症したら医師が極悪人の扱いになってしまう事です。

テオフィリン投与の前にステロイドを選択するガイドラインはそれなりに認めるとしても、ステロイドでもコントロール不良の症例にまでテオフィリン投与の道を断ってしまうのは、大きな不利益を患者にもたらすと考えています。

最近の薬剤に対する副作用の懸念は、タミフル問題を見てもわかるようにヒステリーに近い現象が起こります。タミフル問題を第2の薬害エイズに例える愚者が大手を振って歩いています。テオフィリンもまたその道を歩まないようにだけひたすら願っています。

投稿 Yosyan | 2007年4月27日 (金) 10時58分

こんばんは
クーデルムーデルさま

>テオフィリンと痙攣の因果関係を調査することをためらっている場合ではないでしょう。

まさにその通りに思います。

>全例使いましょうなどという無茶な事は言いませんが、喘息患児にテオフィリンを使用するという選択肢を残してほしいです。

現在のところは、ガイドラインでの使用順位が下がったという段階ですが、マスコミのヒステリックな騒ぎ方は、私の経験のようにテオフィリン使用中の児にけいれんが生じた場合、トラブルを招く可能性が少なからずあります。その部分がコワいところですね...。

私自身は、このエントリーでも述べている通り、けいれんをおこしやすい素因をもっている児には、ひょっとするとけいれんを止まりにくくする可能性があるのか?とは思っていますが、後遺症を生じる様な急性脳症の経験はなく、ある程度の安全性を確認できるガイドラインができれば(私自身が..)使用を再開してもよいのでは?と感じています。

投稿 管理人 | 2007年4月28日 (土) 20時06分

こんばんは
Yosyanさま

いつもコメントをいただきありがとうございます。

>私が一番懸念するのは喘息治療に対するテオフィリン投与を薬狩りのように排除してしまう事です。悪魔の薬のように扱い、投与して痙攣の症状が発症したら医師が極悪人の扱いになってしまう事です。

このエントリーでお示ししたのは、まさにそれに類似する経験です。このままであれば、「テオフィリン関連けいれん」という、本当にあるのか?ないのか?わからないような疾患概念にしばられ、使用できなくなる可能性があります。

マスコミはタミフルに対してもそうですが、ココゾとばかりに食いつくでしょうね...冷静な対応手段が欲しいところです。

投稿 管理人 | 2007年4月28日 (土) 20時11分

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