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2007年3月12日 (月)

気管支攣縮と食道挿管

2007年3月12日 晴れ
熱の出ている児が多く、外来は相変わらずの混雑です。今日も終わってみると約90人ほどの数でした。

さて、麻酔に関連した悲しいニュースです。ソースは毎日新聞。

『大阪市大病院:麻酔で挿管ミス、患者が意識不明

大阪市立大病院(大阪市阿倍野区)は9日、腫瘍(しゅよう)切除手術のため全身麻酔した患者に対し、呼吸確保用のチューブを誤って食道に挿入し、患者が意識不明の状態になった、と発表した。本来、気管に挿入すべきところを誤ったうえ、麻酔医がその後の異常な兆候を見逃したとしている。同院の届け出を受けた大阪府警阿倍野署は業務上過失傷害の疑いもあるとみて捜査する方針。』

食道に気管内チューブが誤って挿入されると、自発呼吸のない患者さん(例えば、全身麻酔中で筋弛緩薬が投与された状態)では、換気ができず窒息した状態となります。特に手術の場合等に全身麻酔をかける場合は、このようなことが起こらないように、血液中のヘモグロビンという酸素を運ぶ色素がどの程度、酸素と結びついているかを測定するSaturation O2; SatO2 酸素飽和度モニターと呼気中の二酸化炭素を測定するEnd tidal CO2 ; EtCO2 呼気終末CO2モニターを使用して厳しくモニターします。また、チューブを気管に挿入できたか?を確かめるため、バッグを押して胸郭が上下する動きがあるかどうか。また、チューブ内に呼気時、水蒸気が上がってくるか。胸部聴診して左右の腋の部分で呼吸音が聞き取れるか?などのサインを確かめます。食道挿管は起こりうることですが...(私自身も数回経験しています)通常は気付いて再挿管しコトなきを得ることが多いのです。

『麻酔医はマニュアルに従ってチェックしていたが、▽聴診の際、胸の呼吸音が異常だった▽手動で酸素を送るためのバッグの手応えが異常に重かった----などの兆候があったが、「挿管で急にぜんそく発作が起こり、チューブがふさがるなどした」と勘違いし、気管支の収縮を抑える薬を投与するなどしていた。』

「換気できない」という点において、食道挿管と気管支攣縮(この記事の中のぜんそく発作)は似ています。この患者さんは喘息の既往があったのかもしれません。私も、激しい気管支攣縮を1例だけ経験しました。成人したのちの気管支喘息の患者さんで、感染に伴い激しい喘息発作が起こり、イソプロテレノールというクスリも使いましたが、徐々に呼吸状態が悪化。人工呼吸をしないとならない状態となりました。その時には、同僚の内科の先生等に手伝ってもらいましたが、挿管してバッグを押すけれども換気できない。(焦!)食道挿管だと思いすぐに抜いて、再挿管。それでも換気しにくい...。そうこうしているうちに、徐々にSpO2が下がり、徐脈へ...ここで同僚の先生と「重症の気管支攣縮だ」と気付き、とにかく考えつく処置を続けざまにして、ゆっくりじっくり換気して何とか人工呼吸器にのせることができました。

食道挿管と気管支攣縮は似ていますが、より頻度が高いのは食道挿管ですので...最初は食道挿管を疑うのではないかと...考えます。ただ、この時の手術の状況、麻酔医の先生がどのような状況にあったのか?患者さんの既往歴などは詳しく記事にされておりません。なぜ、このようなことが起こったのか?それは明らかではないというべきでしょう。

本日参照させていただいた記事です。

『大阪市大病院:麻酔で挿管ミス、患者が意識不明

 大阪市立大病院(大阪市阿倍野区)は9日、腫瘍(しゅよう)切除手術のため全身麻酔した患者に対し、呼吸確保用のチューブを誤って食道に挿入し、患者が意識不明の状態になった、と発表した。本来、気管に挿入すべきところを誤ったうえ、麻酔医がその後の異常な兆候を見逃したとしている。同院の届け出を受けた大阪府警阿倍野署は業務上過失傷害の疑いもあるとみて捜査する方針。

 同院によると手術は2月22日に実施。30歳代の女性麻酔医が、手術前の措置として麻酔薬と筋弛緩(きんしかん)薬を投与した。呼吸を補助するために軟質樹脂製チューブを気管に挿入したつもりだったが、間もなく脈拍が下がりはじめ、約20分後には心停止に近い状態になった。

 駆け付けた別の麻酔医が食道への挿管に気づいたが、正常に戻すまでの約30分間、低酸素状態が続いた。このため患者は脳に損傷を受け、現在も意識不明のままという。

 麻酔医はマニュアルに従ってチェックしていたが、▽聴診の際、胸の呼吸音が異常だった▽手動で酸素を送るためのバッグの手応えが異常に重かった----などの兆候があったが、「挿管で急にぜんそく発作が起こり、チューブがふさがるなどした」と勘違いし、気管支の収縮を抑える薬を投与するなどしていた。

 同院は「重大なミスを起こし申し訳ない」と陳謝し、詳しい原因究明を進めるとしている。』

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コメント

 私は医者になって3年目にこの気管支攣縮で目の前にいる患者さんの命を持って行かれました。何をしても反応せずでした。病院到着前に気管支拡張剤を十数回吸っていたようで、気管挿管でバックを押しても全く胸が上がりませんでした。

 おそらくこういう経験をした医者だったのではないでしょうか。自分が食道に挿入してしまうことなどないという奢りがなかったかどうかは自問自答するべきでしょう。ただ全身麻酔を施し、筋弛緩剤を使った後での挿管と、苦しんでいるawake状況での挿管は、手技の困難さも緊急性も段違いだと思います。

投稿: クーデルムーデル | 2007年3月13日 (火) 09時01分

こんにちわ。
今回の事件は、同じく麻酔を専門としているものとして、とても心が痛む事件です。
我々が知りえない様々な事情があったのかもしれませんが、手術室における命の番人を自負する麻酔科医にとっては、この事件はあってはならないことです。「患者さんの命を守る」どころか、その命をおびやかしてしまったのですから。特に挿管は、麻酔科医にとって、もっとも得意とし、そして基本的な手技です。そこに過信とオゴリがあった可能性は否定できないと思います。
 
基本的な部分でのミスだけに、その信頼の回復には時間がかかるかもしれませんが、全力をつくしてもらえるよう願っています。。

投稿: doradora | 2007年3月13日 (火) 12時04分

こんにちは
クーデルムーデルさま

コメントありがとうございます。
>私は医者になって3年目にこの気管支攣縮で目の前にいる患者さんの命を持って行かれました。何をしても反応せずでした。病院到着前に気管支拡張剤を十数回吸っていたようで、気管挿管でバックを押しても全く胸が上がりませんでした。

気管支喘息の挿管は難しい。クーデルムーデルさまも身をもってしっているようですね...。β刺激剤の過吸入は喘息死の重要なファクターであるとあらためて感じられます。

今回の件は、食道挿管であったとのことですね...。それに気づくことができれば、このような残念な結果にならずに済んだのに...。と思います。

投稿: 管理人 | 2007年3月14日 (水) 15時27分

こんばんは
doradoraさま

コメントありがとうございます。

>特に挿管は、麻酔科医にとって、もっとも得意とし、そして基本的な手技です。そこに過信とオゴリがあった可能性は否定できないと思います。

食道挿管ではないという過信があったのかもしれませんね...。悲しいことです。つくづく思うのは、いつも謙虚でなくてはならない、そして、客観的でなくてはならないということです。先入観にとらわれない様にする努力がひつようということですね...。

投稿: 管理人 | 2007年3月15日 (木) 00時08分

 あまり修羅場をくぐっていない医師はパニックになることがあります。特に女性に多いように感じます。

 私は以前逆の症例を経験しました。看護師に呼ばれて他の麻酔科医の担当する部屋に行ったところ、食道ブジーの症例の子供が真っ黒になっていました。術者は食道挿管だとわめいています。担当麻酔科医はパニックになっていて何も出来ません。とりあえず再挿管しましたが、ほとんど換気出来ません。もちろん確実に気管挿管しています。胸部の打診で気胸が強く疑われ、写真を撮ったところ立派な緊張性気胸でした。 何のことはない、術者がブジーで食道に穴を開けたのです。

 今回もパニクッてしまって、何も考えられなくなったのではないでしょうか。

投稿: bamboo | 2007年3月15日 (木) 18時35分

bambooさま
こんばんは

コメントありがとうございます
>今回もパニクッてしまって、何も考えられなくなったのではないでしょうか。

その可能性もあるかと思います。自分でも気管支攣縮がおこったときには、かなり焦りました。近くに同僚の先生が居てくれなかったら...落ち着きをなくしていたかもしれません...。

投稿: 管理人 | 2007年3月16日 (金) 23時05分

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