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2007年2月

2007年2月28日 (水)

民事と刑事のあいだのねじれ

2007年2月28日 晴れ

まずは、この事故で亡くなられた当時31歳の妊婦さんと御遺族の皆様に深甚なる哀悼の意を表します。

民事裁判と刑事裁判との間で、過失の認定に「ねじれ」があると感じることがあります。そして、この裁判でも...

『出産時の処置ミスで名古屋市の主婦=当時(31)=を死亡させたとして、業務上過失致死罪に問われた同市の産婦人科医K被告(48)の判決公判で、名古屋地裁の伊藤新一郎(いとう・しんいちろう)裁判長は27日、「被告に過失があったとは認められない」などとして、無罪(求刑罰金50万円)を言い渡した。』

この事件では、民事裁判では被告に7700万円の支払いを命じる判決でした。

『名古屋市港区の産婦人科で00年8月、同市中川区の主婦(当時31歳)が出産直後に死亡した事故を巡り、主婦の夫と長男が担当医らを相手取り、総額約1億 2700万円の損害賠償を求めた訴訟で、名古屋地裁は14日、担当医に計7700万円の支払いを命じた。加藤幸雄裁判長は「被告の個人診療所は(出産時の)大量出血に対す る必要な体制が整 っておらず、高次医療機関への搬送を決断すべき注意義務に違反した」などと述べた。』

判決の中にはこのような過失の否認が含まれています。

『伊藤裁判長は判決理由で、子宮の裂傷による大量出血が死因とした検察側の主張に対し「医師の証言などから、裂傷の存在には疑問がある」と指摘。設備の整った病院へ搬送しなかったことについても「転院させても確実に救命できたか疑いがある」と退けた。』

同じ事件を扱った民事裁判と刑事裁判。一方は「転院させなかった過失」を認め、一方では「過失があったとは認められない」との判断です。判断の基準が違うのか?法律に素人の私にはわかりません....。

さて、マスコミが報道した旦那さんの言葉...
『閉廷後、夫(33)は「過失がないなら、何で亡くなるのか。妻に報告できない」と話した。』

本当にこのようにお話になったのか?これは不明です。しかし、これだけは言えます。残念ながら、医療の世界では過失がなくとも命が失われることがあります。精一杯努力しても救えないこともあります。それが、医療の限界なのです。我々、医療者はこの限界を引き上げるべく、日々努力しますが...それでも所詮人間のすること、100%の安全を手にすることはできないのです。

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2007年2月23日 (金)

哀悼の意...過労死された小児科医の先生へ向けて

2007年2月23日 曇りのち晴れ
まずは、31歳という若さでこの世を去らねばならなかった...この同業の先生に心より哀悼の意を捧げたいと思います。そして、のこされた家族の方々の残念な思いは、いかばかりのものか?言葉にできません。

さて、読売新聞の記事(2月23日)

『北海道労働局が、道北地方の公立病院などに勤務していた男性小児科医(当時31歳)の突然死について、過度な時間外労働による過労が原因として、遺族が申請していた労災を認め、遺族補償年金の支給を決定していたことが23日、分かった。』

医師の現在の就労状況を考えると、過労死が起こるのは仕方がないかもしれないと思っています。私自身、同程度の時間外労働をこなしており、いつ自分が?という思いもあります。しかし、過労死の認定がなされたことは、遺族の方々にとってはある意味の救いとなったのではないかと感じます。

『同労働局によると、医師の過労死が労災認定されるのは珍しいという。』

その通りです。医師は時間外で働いて当たり前という暗黙の了解があるのでしょうか?医師も人間です。なぜ、他職種と同様な基準で認定しないのでしょうか?その部分を深くえぐった報道を期待します!

『労働局などによると、男性は公立病院に2002年4月から03年7月まで臨時職員として勤務し、同年8月から正職員になった。同年10月1日からは北海道富良野市の民間病院に勤務し、同6日に自宅で心疾患のため突然死した。
 男性は、公立病院で頻繁に夜間呼び出しされるなど、時間外労働が月100時間を超す過密勤務で、民間病院でも長時間勤務を余儀なくされていたという。04年11月、遺族が旭川労基署に労災申請していた。』

労災認定まで2年と3ヶ月。時間外労働が100時間を超える過密勤務は、医師であれば大抵の方は経験しています。そこまでしなければ、この国の医療水準を保っていけない。その状況をこそ問題にすべきです!

最後に、再びこの同業の先生の御冥福を祈りたいと思います。どうか、天国ではゆっくりとお休みください。

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2007年2月18日 (日)

2月18日という日

2007年2月18日 曇り

追記します(2007年2月18日):新小児科医のつぶやき:2.18にて企画されているキャンペーンに私も賛同いたします。尚、この件につき、ご賛同の意をお持ちの方はどうぞコメントに書き込んで下さい。一般の方々大歓迎です。

『我々は福島事件で逮捕された産婦人科医の無実を信じ支援します。』

昨年の2月18日、福島県立大野病院産婦人科医の先生が福島県警に逮捕拘留されました。逮捕のきっかけとなった事故は当時29歳の妊婦さんが全前置胎盤のため帝王切開にて分娩したところ、不幸にも前回の帝切の切開線にかからない後壁付着の癒着胎盤となっており、当該医師はその時点で考え得る最善を尽くされましたが、妊婦さんは術中突然おこった致死性不整脈により亡くなられたというものです。
福島県立大野病院はこの事故のあと、外部の人間も含めて事故報告書を作成しており、当該医師についても行政処分をおこなっております。しかし、逃亡の恐れ、証拠隠滅の恐れという考えもつかないような理由により、その産婦人科医の先生は福島県警に逮捕拘留され、業務上過失致死、医師法違反にて刑事起訴されています。その、第1回公判が先程開かれておりますが....拙ブログでも、この事故については予見が不可能であること、胎盤を剥離することは適切な処置であること、大出血に際しても考え得る適切な処置を行っていることなどから、過失は存在しないと考えております。また、異状死体の届出義務を記した医師法第21条に抵触するとの起訴理由については、そもそも異状死体の定義について現在定まったものがないこと、また、事故後当該医師は大野病院院長と協議しており、届け出義務は当該医師にはなく、院長にあったものと考えます。

そして、1年後の本日。この不当な逮捕を風化させないためにも、取り上げたいと思います。

1年前の本日、福島県警は福島県立大野病院産婦人科医師を不当に逮捕、拘留しました。これは、極めて強権的で許すべき行為ではありません!

拙ブログでこの事件を扱ったエントリーは以下の通りです。

弁護側冒頭陳述
検察側冒頭陳述
ブログ御紹介
お詫び(誤解)
死因は?
公判の続報
公判が始まりました。
福島県立大野病院事件の続報
大野事件の続き...
大野事件の続き
はじまりました。
産科婦人科学会の見解
医療と司法という記事
産科の状況
警察という組織
医療の限界

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2007年2月15日 (木)

通達と現状との乖離

2007年2月15日 晴れ
暖かくなってきました。しかし、インフルエンザは徐々に流行し始めました。

さて、神奈川県の堀病院を舞台に繰り広げられた「無資格助産事件」。その幕切れはあっけなかったものでした。
拙ブログ:理想と現実のはざま

しかし、予想されたことではありましたが...厚生労働省からはまだくすぶった意見が出されます。日本の周産期領域の現状を見ようともしない官僚の意見は現場にはどのように響くでしょうか?

某掲示板からの記事。

『病院(横浜市)の無資格助産事件で、横浜地検が院長らを起訴猶予処分としたことについて、辻哲夫(つじ・てつお)厚生労働事務次官は1日の定例会見で「医師の指示があっても、看護師などが内診を行うのは違法という見解に変わりはない」と述べた。』

この辻サンには市中の産婦人科診療所で数日間寝泊まりしていただきたいと切望します。現状がどのようなものか?助産師さんが確保できるのか?霞ヶ関に閉じこもっておられずに現場を見て下さい!と言いたいですね。日本の周産期を潰すも、生かすも、あなたの一言が大きな影響を与えますよ.....メンツを保とうとする場面ではありませんよ!

『その上で、辻次官は「医師と助産師の協力関係がより円滑となるような環境整備が必要だ」と指摘。助産師の数を増やすために、定時制の助産師の養成過程を設ける考えを示した。』

助産師さんを増やすために、定時制の助産師養成過程を設けても増えないと思いますね...助産師さん...。今の現場にはそんなことをする余裕のある看護師さんはいないと考えます。ホント、市中の産科診療所で数日間寝泊まりして下さい....。

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2007年2月12日 (月)

立派な行い

2007年2月12日 晴れ
今日は夜空が一段ときれいです。星もくっきりと見えていて...。このような日に天に召された、あの踏切事故の警察官さんは、きっときっと天国へ行けるでしょう。

恐らく、自殺企図があったのだろうと思います。39歳の女性が電車の往来の激しい踏切に繰り返し進入します。それを、身をもって阻止しようとした、この警察官の行いは立派以外のなにものでもありません。最後には、猛スピードの急行電車に二人ともはねられて、駅のホームに叩き付けられました。自分の職責に対する頑固なまでの思い入れ...。そして、他人に対する愛。それが、自分を犠牲にしてまでも、この女性を助けようとした行為の原動力であったのではないかと考えます。

ある話を思い出します。第二次大戦中のお話です。アウシュビッツというところにある、ユダヤ人強制収容所にコルベ神父という神父も収容されていました。そこでは、毎日ユダヤの方々が毒ガスなどの方法で殺されていっていました。そしてある日、妻子のある男性がガス室送りとなることになりましたが、男性は「私には妻と小さな子供がいる。何としてでも生き延びたい。」と泣きました。それをきいたコルベ神父は「私がかわりに死にましょう。」と答え、自分は餓死室という部屋に入れられ、飲まず食わずの末、亡くなったそうです。亡くなるまでの間、神父は賛美歌を滔々と歌い続けていたとも伝えられています。また、異例の早さでカトリックの聖人に認定されてもいます。この話を聞いて思ったのは、人間を愛することの究極の形は、「その人のために犠牲となり死ぬことなんだ。」ってことです。

亡くなられた警察官さんは、このコルベ神父に通ずる、大きく強い人間愛を示されたと感じます。亡くなられた警察官さんの御冥福を祈ると同時に、「大きな人間愛を世間に伝えてくれてありがとう」と感謝したいと思います。天国に行かれてからは、ゆっくりとお休みください。

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2007年2月 3日 (土)

大山鳴動して鼠一匹

2007年2月3日 晴れ
『大山鳴動して鼠一匹』という諺を辞書でひくと、『前触れの騒ぎばかりが大きくて、実際の結果の小さいことのたとえ。〔「大山」は「泰山」とも書く〕』という意味がでてきます。

まずは、この事例において亡くなられた妊婦さん、そして、御家族の方々に深甚なる哀悼の意を表します。

奈良県大淀病院において32歳の妊婦さんが分娩中にけいれんし意識障害が出現。子癇発作、脳内出血の合併等を考慮し転送先を探しましたが、合計19カ所の施設で受け入れることができず、国立循環器病センターにて約1週間後に男児を出生後亡くなられた事例において、毎日新聞は当初、遺族側からの取材のみの偏った情報でスクープ記事にしました。その後は、過熱報道となり結局、大淀病院産婦人科は分娩取り扱い停止となり、奈良県南部の産科医療に多大な悪影響を与えました。

ココにきて、検察は立件をあきらめたようですが、あまりの後遺症の大きさに、ただ呆然とするのみです。日本の周産期医療はどうなっていくのでしょうか?報道にも倫理、節度が必要と感じます。

「泰山鳴動して鼠一匹」、まさにこの諺の如くです。

奈良妊婦死亡:転送先探し難航の末、立件は見送り

 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、意識不明となった妊婦の高崎実香さん(当時32歳)が転送先探しが難航した末、死亡した問題で、奈良県警は、業務上過失致死容疑での同病院医師らの立件を見送る方針を固めた。死因となった脳内出血と、担当医が診断した子癇(しかん)発作との判別は困難で、刑事責任を問えないと判断した。今月中に遺族に捜査の経緯を説明し、最終判断する。
 病院側は問題発覚直後の会見で、「脳内出血でなく、子癇発作の疑いとした点で判断ミスがあった」と発言。県警は任意で提出されたカルテなどを基に専門家約20人に意見を求めたが、脳内出血と子癇発作は、意識喪失やけいれんなどの症状が似ているため識別が困難との意見が大半を占めた。さらに、遺体が司法解剖されず、法医学的な証拠に乏しい点も捜査を難しくしたとみられる。
 高崎さんは昨年8月8日午前0時ごろ、分娩(ぶんべん)中に意識不明に陥った。19病院に受け入れ不能とされた。結局、約60キロ離れた国立循環器病センター(大阪府吹田市)に搬送され、男児を出産後、死亡した。』

この事件について拙ブログで取り上げたのは以下のエントリーです。

Blogの御紹介
感情は向けられるべき所がある
周産期医療の空洞化
マスコミの理解力
問題は国会へ...
一休み
ペンは剣よりも強し
国の認識
受け入れは可能であったか?
CTを撮れば状況が変わったか?
体制不備への着目
真相?
破綻2
破綻

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2007年2月 1日 (木)

朝令暮改

本日 2稿目となります。

昨年4月の診療報酬改定で看護師を多く雇い入れて、病棟の患者さん7人に1人の看護師さんが配置できるようにすると、診療報酬が割り増される仕組みを取り入れました。通常の人件費で雇い入れた場合、病院の利益がますため、都市部の大病院などでは大量採用がすすみ、あおりを受けた弱小病院は看護師不足に悩まされるという状況が生じました。

そして、これは厚生労働省の思惑とは違うものであったようです。「結構、これを満たす病院が多いじゃないか...医療費を抑制したいのにこれでは抑制できなくなる。」と考えたかどうかはわかりません。まさに、朝令暮改の方針変更です。

『看護師不足が深刻化している中小病院を救済するため、厚生労働相の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協)は31日、受け持つ患者数で診療報酬の単価が変わる看護師の配置基準者数の運用を見直すよう求める建議書をまとめ、柳沢伯夫厚労相に提出した。』

『このため、建議書は、「1人で7人」の配置ができる医療機関を、手術や手術直後の手厚い看護が求められる入院患者が多い病院に限るよう変更するよう要望した。』

これで、病院間の格差は益々広がるような気がします。

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理想と現実のはざま

2007年2月1日 晴れのち曇り時々雪

昼頃より急速に冷えました。曇天となり、ふと窓をみると雪が舞っていました。

さて、神奈川県掘病院で繰り広げられた、「無資格助産事件」。院長はじめ合計11人が書類送検されるという事態に発展しましたが、現在の周産期医療の状況を考慮して、起訴猶予となったようです。突然、降って湧いたような騒ぎが勃発し、日本の周産期医療に与えた影響は計り知れないものがあると感じます。しかし、あっけない幕切れです。

『最高検などと協議し、違法としたが、社会情勢から刑事罰を科すケースに当たらないと判断したとみられる。ほかの医療機関でも同様の行為が相次いで明らかになっており、捜査による医療現場の混乱回避を優先させたといえる。』

なぜ、このような大騒ぎをする必要があったのでしょうか?何か、裏で蠢くチカラを感じます。助産師さんが内診を行なうというのが理想ではあると感じますが、実際に現場では不足しているのであり、そして法に触れることかもしれませんが、実際には看護師さんが内診することで何とか現場は回っているのです。理想を追い求めることは必要でありそのための体制作りをするべきではありますが、すべてを厚生労働省の通達通りに摘発していくと、日本の周産期医療は破綻します。現実を認め、そして将来的にどこに落としどころを持っていくか?という見極めが必要であると考えます。そして、それは検察の方々ができる問題ではなく、国が責任をもって策定していかなければならないものといえます。

『内診について厚生労働省が02年と04年の2度、「看護師では違法」とした通達を出しているのが根拠となった。』

いつもそうなのですが...官僚の皆様方は、「現場を知らなすぎる」のでは?このような強制力のある通達を出せば現場はどうなるのか?出す前に考えてほしいと思います。しかし、これで本当に終わるのだろうか?ちょっと心配です。

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