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2006年10月17日 (火)

破綻

2006年10月17日 晴れ
今回の記事を記すにあたって、我が子を見ることなく亡くなった32歳の妊婦さんと御遺族の方々に深甚なる哀悼の意を表します。

日本の周産期医療は一部の地域では破綻に至っているようです。
米国のドラマ、ERの中でChicago countyのDr. GreenはERでの分娩で子癇発作により妊婦が死亡する事態を経験します。病院内のカンファレンスで吊るし上げにあい、その後、訴訟に負けて巨額の賠償金を払うはめになった(昔みたので、記憶があいまいですが...)。

子癇:eclapmsiaは妊娠中毒症によりけいれん発作を生じたものとされています。非常に稀ではありますが、重症子癇の中には脳内出血を伴い、母体死亡に結びつくものがあります。参照した記事はまさに、そのような患者さんを取り上げたものです。でも、子癇発作は通常は脳内出血を伴うことは少なく、急速墜娩とはなるようですが、けいれんがおさまり意識が回復すれば徐々に状態が回復へ向かうことが多い様です。

この妊婦さんは子癇発作+引き続く意識障害で搬送先を探した様ですが18カ所を探しても受け入れ先が見つからない状況でした。明らかに日本の一部では、周産期医療がうまく回っていません。そして、このような状況になったのは、いろいろな原因があるとは思いますが、産科医療における訴訟リスクの高さ、新臨床研修制度により科目間の偏在が大きくなったこと、更に追い打ちをかけるように現場の勤務状態が極度に悪化し現場から医師を含む周産期に関する医療職が、まさに「逃散」していることで地域の周産期医療を支える屋台骨がやせほそり、そして折れていっているということではないかと考えます。

マスコミと社会の無理解が、これ以上続けば...他の地域でもこのような例が出てくるのではないかと危惧します。

<分べん中意識不明>18病院が受け入れ拒否…出産…死亡(毎日新聞)

『奈良県大淀町立大淀病院で今年8月、分べん中に意識不明に陥った妊婦に対し、受け入れを打診された18病院が拒否し、妊婦は6時間後にようやく約60キロ離れた国立循環器病センター(大阪府吹田市)に収容されたことが分かった。脳内出血と帝王切開の手術をほぼ同時に受け男児を出産したが、妊婦は約1週間後に死亡した。遺族は「意識不明になってから長時間放置され、死亡につながった」と態勢の不備や病院の対応を批判。大淀病院側は「できるだけのことはやった」としている。
 妊婦は同県五条市に住んでいた高崎実香さん(32)。遺族や病院関係者によると、出産予定日を過ぎた妊娠41週の8月7日午前、大淀病院に入院した。8日午前0時ごろ、頭痛を訴えて約15分後に意識不明に陥った。
 産科担当医は急変から約1時間45分後、同県内で危険度の高い母子の治療や搬送先を照会する拠点の同県立医科大学付属病院(橿原市)に受け入れを打診したが、同病院は「母体治療のベッドが満床」と断った。
 その後、同病院産科当直医が午前2時半ごろ、もう一つの拠点施設である県立奈良病院(奈良市)に受け入れを要請。しかし奈良病院も新生児の集中治療病床の満床を理由に、応じなかった。
 医大病院は、当直医4人のうち2人が通常勤務をしながら大阪府を中心に電話で搬送先を探したがなかなか決まらず、午前4時半ごろになって19カ所目の国立循環器病センターに決まったという。高崎さんは約1時間かけて救急車で運ばれ、同センターに午前6時ごろ到着。同センターで脳内出血と診断され、緊急手術と帝王切開を実施、男児を出産した。高崎さんは同月16日に死亡した。
 大淀病院はこれまでに2度、高崎さんの遺族に状況を説明した。それによると、産科担当医は入院後に陣痛促進剤を投与。容体急変の後、妊娠中毒症の妊婦が分べん中にけいれんを起こす「子癇(しかん)発作」と判断し、けいれんを和らげる薬を投与した。この日当直の内科医が脳に異状が起きた疑いを指摘し、CT(コンピューター断層撮影)の必要性を主張したが、産科医は受け入れなかったという。
 緊急治療が必要な母子について、厚生労働省は来年度中に都道府県単位で総合周産期母子医療センターを指定するよう通知したが、奈良など8県が未整備で、母体の県外搬送が常態化している。
 大淀病院の原育史院長は「脳内出血の疑いも検討したが、もし出血が判明してもうちでは対応しようがなく、診断と治療を対応可能な病院に依頼して、受け入れ連絡を待っていた」と話した。
 一方、高崎さんの遺族は「大淀病院は、総合病院として脳外科を備えながら専門医に連絡すら取っていない。適切な処置ができていれば助かったはずだ」と話している。』

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日本の医療体制をまた見直すべきときが来たのではないでしょうか。 [続きを読む]

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受信: 2006年10月19日 (木) 19時17分

» 奈良の産婦人科医 [「やぶ医師のつぶやき」~健康、病気なし、医者いらずを目指して]
妊婦受け入れ拒絶で調査=業過致死の疑いもー奈良県警奈良県の大淀町立大淀病院で8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明となった妊婦(32)が約20病院から受け入れを断られた末、搬送された大阪府内の医療施設で脳...... [続きを読む]

受信: 2006年10月20日 (金) 01時35分

» ベッドがなくても受け入れて欲しかった。 [とりあえず俺と踊ろう]
先日の18病院受け入れ拒否について。 「ベッドがなくても受け入れて欲しかった」 ご遺族はそう思っていらっしゃるようだ。  相変わらず、マスコミは医療攻撃を強めている。 朝から小倉さんが吠えていた。 「ベッドがなくても、受け入れることくらいできるだろう」 ここに、一般人と医療従事者の間にある言葉の壁を感じた。 この言葉の壁に関しては、一般人と医療従事者のどちらが悪いか考えると、圧倒的に医療従事者が悪い。 「ベッドに空きがない」 これは、単に物理的にベッドがないとい... [続きを読む]

受信: 2006年10月21日 (土) 01時22分

» 奈良事件で考えるべきこと [今日手に入れたもの]
奈良の県立病院で妊婦さんが分娩中に頭痛を訴え、意識不明になり、転送を18もの病院で断られ、最終的にお亡くなりになったという、悲しい事件がありました。 いつも覗かせてもらっている、新小児科医のつぶやき、ある産婦人科医のひとりごと、いなか小児科医、などで詳細、および何日かにわたり、問題が検討されています。 経過をまとめてみます。 1.妊婦さんが分娩中に頭痛をうったえ、意識を失った。(午前0時)産科医と内科医とで診察した上、陣痛に伴う意識消失発作と診断し、経過観察とした。 2.その後痙攣をおこし(午前1時... [続きを読む]

受信: 2006年10月25日 (水) 19時22分

コメント

子癇発作がおそろしいものだというのは学生の時も教わりましたが、結局見ることも発作後生まれた子供も見ずにここまできました。

それにしても今回のケースはお気の毒とはいえ、一方的な話ししか伝わってこないのでなんとも言えないですね。子癇が先か脳内出血が先かで全く意味合いも違いますが、亡くなってしまうほどの脳内出血であれば脳幹部出血かあるいは大量の出血による脳ヘルニアと推測され、脳外科が何をしようともダメだった可能性が高いですよね。

おそらく結論はでないでしょうから、訴える方も訴えられる方も疲れ果てるだけになりそうです。

それにしても母体搬送ってどこでもそうですが、難しいですよね。

投稿 クーデルムーデル | 2006年10月18日 (水) 09時00分

こんばんは
クーデルムーデルさま

今回の報道も徐々に妙な方向へと向きつつある様です。(悲)ベースにあるのは、日本の周産期医療の脆弱さであると感じているのですが、報道はその方向に向かず、悪者探しに向いていきます。

報道の記事からは、どのような真実が隠れているのか?はっきりしませんが...『仮眠をとっていた』『救えたはず』という言葉をみると、寒くなってきます。

子癇発作とそれに稀に合併する脳内出血。死に至るほどの出血。日本の周産期医療が破綻に向いていること。などを重点的に報道していただきたいと感じます....

投稿 管理人 | 2006年10月18日 (水) 23時11分

ちょっと医師叩きばかりの方向が変わったかと、思ったんですが。
やはり、NHKで一回か二回放送しただけで、マスコミの無責任な医師叩きの方向が変わるはずもないんですね。
残念です。

医療のシステムに関して、これをきっかけに話が進めばな、とは思いますが。

TBもさせて頂きました。

投稿 Dr. I | 2006年10月20日 (金) 01時35分

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