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2006年10月20日 (金)

CTを撮れば状況が変わったか?

2006年10月20日 曇り
今日も奈良事件を引っ張ります。

はじめるにあたって、一つだけ...
拙ブログ:真相にて引用させていただいたphysicianさまの記事は、私個人として奈良事件の真相に近いものを示しているものと考えております。しかし、ある方より「出所のはっきりしない情報を使用するのはどうか?」という内容の御提案をいただいております。確かにその通りであり、こういった問題を取り扱うにあたって、確固たる基礎のある事項を使用して議論を展開すべきであると考えます。
ただ、「あくまで参考としてこういった情報がある」というかたちでの御紹介はできると思っておりますので、御紹介の前にオコトワリを入れて紹介していこうと考えております。

御提案をいただいた方には、ネット上のエチケットについて御教示いただき感謝しております。^ ^
また、拙ブログの記事には追記で、「あくまで参考としての情報です。」と入れさせていただくことといたします。

さて、毎日新聞の記事です。
<奈良妊婦死亡>搬送先探し、診断不正確で遅れか

この記事をみると、『同センターは「脳内出血と正確に診断されていれば、別の病院に打診し、もっと早く搬送先が見つかったはず」と指摘。大淀病院で「脳内出血」と診断されなかったことが、転送先の決定を遅らせた可能性がさらに強まった。』という下りがあります。

妊娠中毒症を説明するサイトでは子癇発作を「妊娠中毒症によって起こったけいれん発作」としています。そして、子癇発作は「妊娠中毒症(子癇前症ともいう?)の最重症のパターンで通常脳内出血を伴わず、分娩前中後においてけいれんを来すもの。」と要約できるのではないかと考えます。ただ、一部の重症の子癇では脳内出血を合併するという記述がいくつかのサイトでみられますので、子癇発作+脳内出血というパターンはありうることであると考えます。

子癇発作の治療はけいれんを抑えるため通常は硫酸マグネシウム(マグネゾール)を投与(通常のけいれんには使用しません、これが妊娠分娩における医療の特殊性の一部をあらわしていると感じます)し、できるだけ刺激をしない状態(破傷風の治療に似たところがあります)として状態が落ち着けば急速遂娩(帝王切開のことが多いと考えます)ということになると思います。要約すると、けいれんのコントロールと帝王切開の施行であると考えます。(この部分は私が専門家でないため乱暴な展開かも知れません...)この場合は、頭部CTで頭蓋内に出血があるかどうか?を確かめる必要は必ずしもなさそうです。また、頭部CTを撮るためには患者さんを移動させなければならず、それが刺激になりけいれんを誘発する可能性があると考えます。

必要な人員と施設は、けいれんの抑制と全身管理が必要であり、麻酔科医、(けいれんの抑制に慣れた)内科医、産婦人科医2名、通常はICU管理でしょうね...。また、新生児に対するNICUも必要かもしれません。付け加えますが、子癇による母体死亡は10%程度はあるようです。いなかの病院では管理できないと感じます。

また、子癇発作+脳内出血の場合はどうなるか?ですが、脳内出血により片麻痺や瞳孔不同などが顕著に表れていれば、当然頭部CTを撮りにいくと思います。しかし、子癇の治療の場面で記述しましたが、刺激をできるだけ避けることが必要であり、頭部CTは患者さんの状態悪化と引き換えに行うものと判断できるかもしれません。そして、脳内出血を診断できたとして、大淀病院の脳神経外科は一人です。緊急帝王切開と脳外の手術を行うことは不可能と感じます。どこかの高次医療機関にお願いするのが通常の対応でしょうね。

必要な人員と施設は、脳神経外科医2人以上、麻酔科医、産婦人科医2人以上、全身管理にたけたICU担当医数名。新生児に対するNICU、新生児科医数名。子癇+脳内出血の状況であれば母体の死亡率は跳ね上がると考えられます、既にいなかの病院でのキャパシティーは当然、超えていると感じます。

子癇発作の場合と子癇発作+脳内出血の場合で比較すると、脳内出血を伴っている場合の方が、紹介先の人員、施設ともに高度なものが要求されるのではないかと推測されます。子癇発作のみの場合でも、受け入れができなかったのに、それ以上のものを要求するとなると...もっと門戸は狭まるのではないか?と素人考えですが感じられます。この新聞記事の内容には賛同することができません。

これから先はホントの「私見」です。
繰り返しになりますが、妊婦さんを救えなかったことは本当に残念なことです。そして、受け入れることができる施設を探すのに数時間を費やし、その間の御遺族の方々のお気持ちを察するとたまらなくなります。しかし、現状では「この程度」なのです。日本の周産期医療はいろいろな原因で、衰退の一途をたどりつつあります。この事件の報道を追っていっていると、日本の周産期医療のシステムの問題に鋭くメスを入れるものは少なく、担当した医師や病院の責任を追及するものが余りに多いと感じます。なぜ、このような問題が生じるのか?日本の周産期医療はどうなっていっているのか?を深く報道してほしい。真実を見極めて欲しいと願うばかりです。

最後に、本日参照させていただいた新聞記事の内容です。

『奈良県大淀町立大淀病院で意識不明となった妊婦が搬送先の大阪府内の病院で死亡した問題で、同県立医科大病院(橿原市)から搬送先を探すよう求められた府立母子保健総合医療センター(同府和泉市)が、府内の7病院に受け入れを拒否されていたことがわかった。同センターには、妊婦が子癇(しかん)発作であると伝えられたため、それに対応できる病院を探したと証言している。同センターは「脳内出血と正確に診断されていれば、別の病院に打診し、もっと早く搬送先が見つかったはず」と指摘。大淀病院で「脳内出血」と診断されなかったことが、転送先の決定を遅らせた可能性がさらに強まった。
 この問題では、県立医大病院を含め、少なくとも奈良県内で2カ所、大阪府内で17カ所の計19病院が受け入れを拒否。これまで県立医大病院が大半の病院に打診したとみられていたが、一部を同センターが担っていたことになる。
 同センターの末原則幸・産科部長によると、8月8日午前2時半ごろ、大淀病院の依頼で搬送先を探していた県立医大病院から受け入れ打診の電話があった。「頭痛があり、子癇発作らしい」との内容だったが、脳内出血の可能性を示す症状の説明は一切なかった。同センターは満床だったため、要請を断った。
 医大病院から「一緒に探してほしい」と求められたため、府内で受け入れ先を探した。しかし、満床や人手不足などの理由で7病院に拒否され、同4時半ごろになって、国立循環器病センター(同府吹田市)に決まった。妊婦は同6時ごろ到着し緊急手術を受けたが、8日後に死亡した。
 大淀病院は、妊婦を子癇発作と診断した。しかし、専門家によると、子癇発作は、けいれんの後に脳内出血を起こすことがあるが、脳内出血の場合、一般的に頭痛の後に意識がなくなり、けいれんする。妊婦は頭痛を訴えた後に意識不明に陥り、けいれんを起こした。
 大淀病院では内科医が、脳内出血かどうかを診断できるCT(コンピューター断層撮影)の必要性を主張したが、産科担当医が受け入れなかったという。
 末原部長は「脳内出血で母親の命が危ないと分かっていれば、産科より救命救急センター、大学病院を中心に搬送依頼した。搬送先が決まるまで待つ時間があるなら、CTを撮る時間もあったのではないか」と指摘している。』

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» 地方医療の崩壊 [サイバーキッズクリニック]
今回は、『奈良県の妊婦さんの死亡問題』 について、である。 母親、赤ちゃん、そして御家族の事を考えると、胸が痛い・・・。 心から御悔やみ申し上げたい。 自分自身は、非常に悲しい出来事であり、記事を書く事を迷... [続きを読む]

受信: 2006年10月20日 (金) 22時52分

» 受け入れ拒否。 [グダグダよし坊のダラダラ日記]
こんばんは、風呂上りでいい気分、よし坊です。 [続きを読む]

受信: 2006年10月24日 (火) 00時54分

» 大淀病院で出産した女性が死亡 [徒然なるままに、翁覚書]
産婦人科の医師が不足していることが、全国で問題になっていることについては、少し前にも書きましたが、奈良県大淀町の町立大淀病院で出産後に脳内出血のため女性が死亡していたことがわかり、問題になっています。... [続きを読む]

受信: 2006年10月24日 (火) 17時41分

コメント

全く同感ですね。
CTを撮るリスク、時間。
撮ったとしても、この病院では対処が出来ないこと。
脳出血と診断がついても、先生もおっしゃる通り、必要なのは脳外科医が増えるだけなので、早く病院が決まったとはとても思えません。
脳出血と診断がついたら、脳外科の病院に送って産婦人科や小児科はなくても良いとでも思っているのでしょうかね。

投稿 Dr. I | 2006年10月21日 (土) 00時58分

おひさしぶりです。コメントさせていただきます。子癇発作の際は、必ず緊急帝王切開せよとはなっていません。むしろ、発作落ち着いて、降圧できていれば、経腟分娩も考慮する、となっています。もし、センターの部長さんがそのことをご承知の上、この発言があったすれば、CTで脳内出血がなければ、そちらで見てください、下から産ませてください、ということなのでしょうかね?しかし、実際問題として、母体の痙攣発作は、脳内出血であろうが、子癇発作だろうが、帝切して早くだして、母体管理に専念する、と考えるほうがいいのでは?と個人的には思います。もし、そうお考えの部長さんであれば、責任のなすりあいの“におい”がします。

投稿 yuchan | 2006年10月21日 (土) 09時38分

いなか小児科医さんのおっしゃる通りと思います。

周産期医療の体制の不備、もともと整っていなかった周産期医療がさらに崩壊しかかっている、現場の医師が防衛医療になぜ走らなければいけないのか?すべての責任を現場の医師に押しつけ、個人攻撃するマスコミには憤りを禁じ得ません。
今回の件には患者も医療者も互いに大きなショックを受けています。マスコミの役割は集団いじめではないでしょう。良識のある報道人は存在しないのでしょうか。

投稿 小児がんと生きること管理人 | 2006年10月21日 (土) 11時15分

悪質だと思われる箇所
・搬送システムが整っていないのがわかっていたはずなのに41週の失神した妊婦を放置したこと

投稿 Who is hannnin | 2006年10月21日 (土) 20時40分

こんばんは

みなさまコメントをありがとうございます。

>Dr. Iさま
脳出血と診断がついても、先生もおっしゃる通り、必要なのは脳外科医が増えるだけなので、早く病院が決まったとはとても思えません。

まったく仰る通りと考えています。この報道には悪意を感じてしまいます。

>yuchanさま
もし、そうお考えの部長さんであれば、責任のなすりあいの“におい”がします。

私も何かそのような感じがして...ただ、報道の記事からでは本当のコトはわかりませんね。

>小児がんと生きること管理人さま
周産期医療の体制の不備、もともと整っていなかった周産期医療がさらに崩壊しかかっている

今回の事件の一番の問題点は、「日本の周産期医療のシステムは崩壊しかかっている」ということですね。産婦人科医個人の攻撃や、受け入れることのできなかった病院をあたかも魔女狩りのように報道攻撃するのでは根本の問題は絶対に解決しないと思います。ブログで声を上げても僅かなチカラにしかなりませんが、やらないよりやる方がよい、塵もつもればナントカと考えています。

投稿 管理人 | 2006年10月22日 (日) 16時59分

Who is hannninさま

コメントをありがとうございました。

>搬送システムが整っていないのがわかっていたはずなのに41週の失神した妊婦を放置したこと

「放置した」という日本語が私の理解する範囲であれば、「そのままにして置いておくこと」(大辞林)となりますが....内科医とともに診察を行い、「陣痛による失神」と診断して経過を観察したことは「放置した」ということになるのでしょうか??

そして、これからは私見でございますが、Who is hanninさまがいわれる「放置した」時点では、いろいろな可能性が考えられると思っています。子癇の可能性、陣痛による失神(一次性ショックとも表現されますが...)、心臓由来の可能性、そして僅かな可能性ながら頭蓋内出血の可能性などなど...陣痛によるものであれば、そのまま経過観察でも自然に回復したものと考えます。内科医の先生と二人で診察し、その時点では陣痛によるものと判断し、モニターを行いながら、助産師も付き添いの上、慎重に経過を観察したのであると思っておりますが...

それでも、Who is hanninさまは、「放置した」とされるのですか?

投稿 管理人 | 2006年10月22日 (日) 17時19分

この問題で一番大事なのは、そもそもお産には常にリスクを伴い、防げないこともある。このことを普通の方に知ってもらうことでしょう。母子ともに無事に出産して当たり前という風潮は改めてもらわないと産科医になる医師いなくなるでしょう。

投稿 内科医 | 2006年10月23日 (月) 20時10分

初めまして。

つたない記事ですが、TBを送らせていただきました。
お邪魔でしたら、お手数ですが、消去なさってください。

それでは、失礼いたします。

投稿 よし坊 | 2006年10月24日 (火) 00時59分

こんばんは
コメントをいただきありがとうございます。

>内科医さま
そもそもお産には常にリスクを伴い、防げないこともある。このことを普通の方に知ってもらうことでしょう。

その通りですね。福島事件にしても、この奈良事件にしても、分娩(あるいは医療全体といっていいと思います)には完全なる「安全」はないのだと...
善かれと思ってしている処置が時にその患者さんの命を奪うこともある。医師は所詮、人間でありますが、神に近づくために日々努力しているヒトでもあると一般の方に理解いただければ、ここまで荒廃しないで済むのでは?などと考えてしまいます。

>よし坊さま
こんばんは
お久しぶりです。

こちらからもトラックバックさせていただきました。これからもよろしくお願いします。

投稿 管理人 | 2006年10月24日 (火) 21時23分

失礼いたしました。

以前にTBを頂いていました。
完全に失念しておりました。

こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします。

投稿 よし坊 | 2006年10月24日 (火) 22時46分

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