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2006年9月 1日 (金)

死は避けられたか?

2006年9月1日 晴れ
今日から新学期。そのためか、外来はスキスキでした。

神戸新聞に以下の記事が載っていました。

県立淡路病院 患者死亡、4100万円賠償(神戸新聞)

『兵庫県立淡路病院(洲本市)で抗生物質の投与を受け、直後に死亡した淡路島内の男性=当時(62)=の遺族らが「病院が適切な措置を怠った」として、県を相手に約六千百万円の損害賠償を求めた訴訟で、神戸地裁の橋詰均裁判長は三十一日までに、県に約四千百万円の支払いを命じる判決を言い渡した。県は控訴せず、判決が確定した。
 判決によると、男性は二〇〇四年三月、前立腺がんの疑いで同病院に入院。患部の組織の一部を採取する検査に備え、抗生物質の点滴を受けたところ、直後にアレルギー反応による「アナフィラキシーショック」に陥り、三日後に死亡した。
 橋詰裁判長は「看護師がすぐに点滴を中止し、医師が処置すれば、患者の死は避けられた。看護師はアナフィラキシーの危険性の認識が十分ではなく、医師も容体の異変を知りながら病室に駆けつけなかった」として、原告側の訴えを認めた。
 中島英三・県病院局長は「裁判において県の主張が認められず、大変残念。判決内容を真(しん)摯(し)に受け止め、今後いっそう医療安全対策の強化に努めたい」とコメントした。
 男性の妻は「同じような不幸が起きないよう、病院職員は緊張感をもって従事してほしい。そうでなければ、本当の勝訴にならない」と話している。判決確定を受け、遺族側は、県に謝罪や再発防止策の徹底を求める申し入れ書を提出した。県は「対応を検討中」としている。』

アナフィラキシーショックは即時型アレルギー反応の最重症型で、全身の血管壁の透過性亢進が起こり、じんましん、喉頭浮腫、循環不全(ショック)などが起こる、臨床的に最も恐ろしい状態の一つとされています。その原因は多岐にわたり、食物や動物、昆虫の毒、薬などあらゆるもので起こる可能性があります。
抗生物質とアナフィラキシーショックとの関連は古くから指摘されており、以前は「皮内反応」という、ごく少量の(これから使用予定の)抗生物質を皮内に注射して、赤く腫れてこないか?をみていました。しかし、この方法では「これからアナフィラキシーショックが起こること」を予測することができないことが多く、また、赤く腫れたとしても本当にアナフィラキシーショックが起こるのは、ごく一部であることもわかってきました。
そして以前のことですが、抗生物質使用前にこの皮内反応をせずに投与したことが、患者さんの死につながったとのことで争われた訴訟もあった様です。(今は、皮内反応をしなかったということで争われることはなくなったと思われます。日本感染症学会が抗生剤使用についてガイドラインを呈示したからです。)

さて、この記事からは充分な情報がありませんので、どういった状況であったか?は、はっきりとはわかりません。ただ、裁判長のことばに「看護師がすぐに点滴を中止し、医師が処置すれば、患者の死は避けられた。看護師はアナフィラキシーの危険性の認識が十分ではなく、医師も容体の異変を知りながら病室に駆けつけなかった」とありますが...医療に100%はありません。「患者さんの死は避けられた。」というのははっきりいって嘘です。医療に絶対はないのですから....「患者さんの死を避けることができた可能性が高い」というのであれば納得できます。

コメントの最初の段に申し上げましたが、アナフィラキシーショックは臨床上、最も恐ろしい状態の一つです。あらゆる手を尽くしても、最終的に死の転帰をとることも充分にありえる状態です。そして、抗生物質を投与した時にアナフィラキシーショックが起こるのを予見する方法は現時点ではありません。(ただ、可能性が高いことを予測する方法はあります。それは充分な病歴聴取です。)そして、一旦起これば、迅速かつ適切な処置で患者さんを救えることもあれば、残念ながら救命不可能な場合もあります。

「医師も容体の異変を知りながら病室に駆けつけなかった」何か別の駆けつけれなかった事情があったのでしょうか?それがなくて、駆けつけなかったのであれば充分に責任はあるものと考えます。

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コメント

なんでこんなに医療訴訟って多くなったんでしょう。
医療者サイドを抜きにして、冷静に判断しても不可避と思われることさえも、裁判沙汰になってしまっているような気もします。
訴訟って何で起こるのでしょう?
医療者側の怠慢?真意の追求?次回事故の防止?お金の問題を含め遺族のこれからの保障?コミュニケーションの不足(説明が足りない)?単に言いがかり?
最近の青少年、少女の犯行を含め、ワイドショー的に扱うメディアの問題もたぶんにあると思うのですが・・。
それにより、医療者側が萎縮し、防衛医学に徹し、いい医療サービスを患者さんに提供できなくなるのではないかと、危惧します。

投稿: yuchan | 2006年9月 2日 (土) 11時50分

こんばんは
yuchanさま

コメントありがとうございます。

コメントの件では御迷惑をおかけしました。今後とも何卒よろしくお願いします。

さて、仰る通り、不可避な出来事かも?と思うような医療事故に際しても訴訟で責任を追及するのが、最近の風潮ですね....
それが、現場の士気をどれだけ殺いでいるのか?法曹界の方々、マスコミの方々にはわからない様です。

投稿: befu | 2006年9月 2日 (土) 23時05分

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