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2006年9月30日 (土)

心のう穿刺

2006年9月30日 晴れ
今日も秋晴れでした。

今日はこのような記事が...
防衛医大病院・医療事故:主治医と指導医、不起訴処分に−−さいたま地検 /埼玉(毎日新聞)

『所沢市の防衛医大病院で01年、心臓付近に針を刺してたまった水を抜く心のう穿刺(せんし)の処置を受けた男性(当時48歳)が急死した医療事故で、さいたま地検は29日、業務上過失致死容疑で送検された当時の主治医(37)と指導医(41)を嫌疑不十分として不起訴処分にした。地検はさいたま検察審査会の不起訴不当の議決を受けて再捜査していた。
 審査会の議決書などによると、同病院血液内科にいた主治医と指導医は01年10月23日、白血病だった男性に心のう穿刺を施した。その際に男性がけいれんを起こし、主治医は誤って心臓に約1センチの傷をつけ、男性は循環不全で死亡した。審査会は心のう穿刺は「専門の循環器科医に依頼すべきだった」などと指摘したが、地検は「基本的な手技で高度な技術や経験は必要ない」としていた。
 事故を巡っては、県警が04年2月、主治医と指導医を業務上過失致死容疑などで書類送検。同地検は05年3月「刑事責任を問うほどの過失ではない」と不起訴処分にしたが、遺族の申し立てを受け、審査会は06年3月、不起訴不当を議決していた。
 不起訴処分について遺族は「残念です。言葉がみつかりません……」と震える声で話した。』

心臓はその外側に心膜といううすい膜で覆われた形となっています。そして、心臓と心膜の間に何らかの原因で液体(心嚢水という)がたまると、量にもよりますが心臓を圧迫して心タンポナーデという状態が発生することがあります。この状態は、心臓が充分に膨らむことができない状態となり心拍出量が減少し、頻脈となって、場合によっては心臓が止まってしまうこともある重症な状態です。

酷い場合は、分刻を争うような状態であり、素早く処置をしなければ救命できない場合もあります。処置はこの記事に出てくる「心のう穿刺」で、うまく吸引できない場合は、「心のう切開」を行うこともあります。「心のう穿刺」は胸の中心にある胸骨の先っちょに剣状突起という突起がありますが、その脇から心臓に向けて針を刺す手技です。心のう水が貯留していれば、心膜を破れば心のう水がひけてきます。余り深く刺すと、心臓に達してしまうので超音波や針につけた心電図モニターなどで確認しながら慎重に行うものです。

さて、記事からは当時48歳であった白血病の患者さんはどのような重症度であったかは判然としません。しかし、心のう穿刺という手技を選んだことは、やはりかなりの心のう水がたまっていたのだと思います。残念なことに、施行中、患者さんにけいれんが起き、きわめて慎重に行っているにも関わらず心臓を傷つけてしまった。そして、患者さんは出血によるショックで亡くなられたということであろうと感じます。

「心のう穿刺」は時として、今目の前にいる医師が施行しなければ、その患者さんが亡くなってしまうということもある手技であると思います。この場合は、専門の循環器の医師を呼んでいる余裕はありません。また、この患者さんが充分時間的余裕があり、循環器の医師に手技を委ねていたとしても、そのときに「けいれん」が起これば、結果は同じであったかもしれません。

患者さんが亡くなったことは本当に悲しいことです。我々は医療者としてこの事実を重く受け止めなければなりません。しかし、この事例に関しては、「避けることのできなかった医療事故」であろうと感じます。

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コメント

新生児科医であるわたしも心のう穿刺の経験があります。四肢から中心静脈までカテーテルを挿入する際に心タンポナーデとなってしまうことは稀に起こります。このことですらも医療過誤となってしまうのかもしれませんが、急激に起こった心タンポでは自分で心のう穿刺をせざるを得ません。NICUで心のう穿刺をこの15年の間に3回経験しています。いずれも救命できました。1000g程度の児もいましたから大変なプレッシャーでしたが、もう今やらなきゃ死んでしまうという状況です。余裕がありそうな1歳細菌性心外膜炎の心タンポを心臓血管外科のある病院に搬送したこともあります。専門外だからと搬送し、その途中で患者さんが亡くなっても業務上過失致死とはならないでしょう。守りの医療は必ずしも患者さんに利益をもたらさないですね。

投稿: 小児がんと生きること管理人 | 2006年10月 1日 (日) 10時52分

こんにちは
小児がんと生きること管理人さま

コメントありがとうございました。現場の様子が非常によく伝わります。1000gの赤ちゃんに心のう穿刺とは...
心膜と心筋のあいだの距離もほとんどないのでは?と感じます。

「医療の限界に近い領域での判断の重さ」を一般の方々に理解していただくのは難しいとは考えますが、先生や私のブログ等を通して少しでも伝わればいいなと思っております。

これからも、貴重なコメントをお寄せいただくと幸いです。

投稿: 管理人 | 2006年10月 1日 (日) 16時11分

家族の言い分が辛いですね...。

投稿: physician | 2006年10月 2日 (月) 00時50分

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