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2006年9月20日 (水)

ある若い頃の経験

2006年9月20日 晴れ
ようやく秋晴れといった感じです。台風の被害に遭われた方々には心よりお見舞い申し上げます。

さて、今日は以前にも少し記事にしたことがあったかもしれない話です。でも、最近の新聞記事に触発されて、現場の話をしてみたいと思います。

いまから、10年以上前のコトです。私は、医師になって3年目、2年間の初期研修を終えて、何と一人で小児科医長として赴任です。今から考えると余りにも未熟で、新生児に対する気管内挿管の経験も余りありませんでした。その病院には、産婦人科が併設されており、当時年間60例ほどの出生がありました。出産時には必ず呼ばれ、出生後のフォローをするならわしとなっていました。

その病院の職員さんが妊娠しており、産休に入っていましたが、あるとき腹痛と胎児仮死徴候で緊急帝王切開の運びとなりました。何が起こったのか?とにかく胎児仮死徴候はひどく、児心拍は60台です。産婦人科医は前立ち(第一助手)に外科の先生を得て、30分程度で新生児は出生。

今でも憶えていますが、だらりとして真っ白の赤ん坊です。当然、啼泣は聴かれず、呼吸なし、心拍は僅かに100以下で聞こえる状態です。とにかく、換気ということで気管内挿管を試みますが、声門がピッチリしまっていて、チューブが入らない!細いチューブなら...ということで、3.5mmから3.0mm、2.5mmと挑戦して何とか挿入できました。少し漏れがありますが、何とか胸が上がるまで換気できる状態に....その後、ルートを何とかとって、10%ブドウ糖とメイロン(重炭酸ナトリウム:重曹)を点滴。クベース(保育器)で加温。何とか心拍は100以上になり、体色は良好になりました。

この時点で、呼んでいた新生児用のドクターカーが到着。その病院の新生児の部長が乗ってきてくれました。蘇生に手間取って大変だったのだけど、「うまく蘇生できている」「でも、このチューブは細いな...」とのことで、その場で3.5mmに交換してくれました。

児に障害が残らなければいいが...と心配していたのですが、特に障害は残らず通常の生活を送っています。ホントよかった....

術後に聞いた話では、胎盤早期剥離であったようです。比較的発見が早かったのか?お母さんの方も、全身状態は、そう悪化せずに済みました。

胎盤早期剥離は、全分娩の約1%に起こるとされる、赤ちゃんが産まれる前に子宮の壁から胎盤がはがれてしまう状態です。はがれる面積にもよりますが、その面積が大きければ、赤ちゃんに酸素が行かなくなり、胎児仮死(赤ちゃんが苦しくなる)や酷い場合には子宮内で胎児(赤ちゃん)が死亡してしまいます。子宮とはがれた胎盤の間には血液がたまって、それが再び(子宮から)血管内に入るようなことになると、血管内で血液が固まるような状態(播種性血管内凝固症候群:DIC)となることもあります。これは、非常に重症な状態で、細い血管が固まった血液でつまってしまい臓器の障害が出ます。また、血液が固まる時に使用する凝固因子が消費されてしまい、本来出血に対して機能する血液が固まる作用が障害されてしまいます。

以上、説明してきたとおり胎盤早期剥離は産科合併症の中でもかなり危ないものです。発症がわかったならば、30分以内に緊急帝王切開にて胎児を娩出することが必要です。(←この部分は追記にて訂正しています。)それに備える体制を作るためには、24時間365日産科医と新生児科医、麻酔科医、そして産科に携わるco-medical staffを調達する必要があります。

追記です。

緊急帝王切開が必要なのは、剥離された面積が広く胎児仮死が生じている場合であるとのことです。謹んで訂正させていただきます。

尚、この物語はフィクションとなっております。

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コメント

久しぶりに書き込みます。胎盤早期剥離といっても程度の差はかなりあります。当院だって外来から直接手術室直行、緊急帝王切開にしても胎児は死亡、母体救命はかろうじてという例もありましたが、一方で出血は多いものの胎児はバリバリに元気!術前検査と手術説明した上で待機し、無事に経膣分娩した例もあります。必ず全員緊急帝王切開という書き方だとちょっと誤解を招くかも。
もっとも、経産婦で急速に陣痛がついて母体はなんともなく経膣分娩したけれど、それでも新生児死亡になったこともあります。この時はおそらく一気に全面剥離となったのでしょう。念のため胎盤を病理検査に提出しましたが、やはり早期剥離でした。

投稿: 山口(産婦人科) | 2006年9月20日 (水) 22時21分

こんばんは
山口(産婦人科)さま

コメントありがとうございました。
<必ず全員緊急帝王切開という書き方だとちょっと誤解を招くかも。

御指摘ありがとうございました。そうですね、剥離されている面積で胎児の状態は変化するものであり、胎児仮死がある場合は早急に緊急帝王切開ということですね。

追記で訂正させていただきます。

投稿: 管理人 | 2006年9月20日 (水) 22時34分

早剥には嫌な思い出がいっぱいありますよ。
病棟で産科管理を受けていた妊婦さんに起こって死産となったこともあります。
先日、自分のブログに書いた120kmを母体搬送されてきた患者さんは早剥でした。幸いながら全面剥離ではなく、ほんとぎりぎりセーフでした。
お産では何が起こるかわからないですね。
今週、地元の新聞でお産を自然にとの特集をやってるんですが、その内容のひどいこと・・・。
言っても仕方ないかと思いつつも、意見をしようと検討中です。

投稿: 小児がんと生きること管理人 | 2006年9月21日 (木) 19時43分

こんばんは

小児がんと生きること管理人さま

コメントありがとうございます。現場での分娩の怖さが伝わるコメントですね。助産所での自然な出産を進めている記事もある様ですが、少なくとも早剥に関しては、処置が間に合わない可能性があると考えます。(院内に産婦人科医が常駐している状態での院内助産所はこの限りではありません。)

投稿: 管理人 | 2006年9月21日 (木) 22時02分

トラックバック有り難うございます。
読んでいてドキドキしちゃいました。本当に赤ちゃんが助かって良かったですね・・・。
私の怖かった思い出も、そのうちちょっとずつ書いていこうかな。私たちがどんな気持ちで日々お産に向き合っていこうか少しは分かってもらえるかも知れないですね。

投稿: mariko | 2006年10月 1日 (日) 11時15分

marikoさま
こんにちは

コメントありがとうございます。

もう既に、10年以上前のことで、まだまだヒヨッコのころの話ですが...その時は怖かったですね。幸いに結果が良かったから、そこまで「悪い思い出」ではないですが...結果が悪ければ自分を責めていたでしょうね...。

>私の怖かった思い出も、そのうちちょっとずつ書いていこうかな。

「医療には限界がある。」ということを理解していただくには、現場での経験をわかりやすく伝えることが一番かも知れません。機会があれば、先生のブログにも御紹介されてはいかがでしょうか?^ ^

投稿: 管理人 | 2006年10月 1日 (日) 16時28分

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