« 1人で再開... | トップページ | 復活しました。 »

2006年8月25日 (金)

産科崩壊への火種

2006年8月25日 晴れときどき雷
雨は降らなくても、雷がすごかった一日でした。急性胃腸炎の患者さんが入院し、無熱性けいれんの児のMRIを撮影できました。(やっとこさ、眠ってくれました...)

さて、いささか荒れた印象を与えるタイトルの記事です。
助産行為 「法律には限界ある」堀病院長が開き直り(毎日新聞)

『「法律に基づいてやるには限界がある」。保健師助産師看護師法違反容疑で神奈川県警に家宅捜索された堀病院の堀健一院長(78)は、同県警の調べに、看護師らに助産行為をさせていたことを開き直って認めた。同病院の助産師数は同規模の病院より極端に少ない。厚生労働省は「助産行為は医師と助産師しかできない」との見解だが、公然と反旗を翻した格好だ。
 ◇院長「看護師の内診は必要悪」
 堀健一院長(78)は24日夜、横浜市瀬谷区の同病院で報道陣の質問に答え、「患者が来るのに助産師が足りない。看護師が内診をすることは必要悪だ」と強調した。今後の対応についても「(看護師らによる内診を)続けなければどうすればいいのか。看護師による内診をやめたら明日から患者を全部やめなければいけなくなる」と語気を強めた。
 堀院長によると、同病院では開院した1959年から40年以上にわたり、院長の指示で看護師による助産行為を続けていた。数年前、厚労省が看護師の助産行為を違法とする通知を出したため助産師を募集したが、集まらなかったため、看護師の助産を続けていたという。
 堀院長は看護師による助産の危険性について「分娩(ぶんべん)に入るまでを看護師にさせていたのであって、お産の取り上げは医者がやっていた。看護師が内診をしてもお産の安全性に影響はない」と主張。さらに「ウチだけが特殊なのではない。ほとんどの病院でもやっている。この機会に法律を見直さないと立ちゆかなくなる」と持論を展開した。【堀智行、池田知広】
 ◇看護師まかせの医療ミスは、全国で少なくとも14件
 「出産数日本一(年間約3000人)を誇るユニークな産婦人科を目指して頑張っています」。堀院長は、ホームページでそうアピールしている。堀病院の05年の分べん数は2953人。産婦人科医は院長含め7人、助産師が6人。ところが、分べん数が2074件の東京都葛飾区の産院は、産婦人科医6人、助産師111人▽約2000件の分べんがある東大阪市の産科病院は産婦人科医が8人、助産師が約35人いるなど、堀病院より多くの助産師を配置している。
 安全な出産を目指す市民団体「陣痛促進剤による被害を考える会」(愛媛県今治市)の出元明美代表は「(捜索を受けた堀病院は)助産師が一切助産行為をしていなかったという関係者の話も聞いている」と話す。84〜05年、助産師ではなく、看護師や准看護師らが助産行為を行い、胎児や母親が死亡するなどの医療ミスが、全国で少なくとも14件発生しているという。
 しかし、産婦人科医の間では、一部の診療所などで、看護師が医師の指示を受けて助産行為を行っていることは、公然の事実。厚生労働省は04年に「医師の指示下でも看護師の助産行為は違法」との見解を示しているにもかかわらず、医師の指示があれば、看護師の助産行為はできるという医師らが多くいることが、この問題の背景にある。
 出元代表は「(堀病院は)助産経験が豊富で、誤った行為を指摘できる助産師より、医師の言うことを素直に聞きやすい看護師の方が任せやすかったのではないか。安全な出産について医師が真剣に考え、適切に助産師を雇用する意識改革が不可欠だ」と批判。厚労省看護課は「助産行為は特別な技能と専門知識が必要で、医師の指示下でも助産師以外はできない。安全で安心なお産を実現するため、医療機関側は適当な人数を確保して運営してほしい」と話している。【工藤哲、玉木達也】』

現在の産婦人科を取り巻く状況は、「絶滅を待つ稀少動物」に例えられるかもしれません。私立の産科施設で、助産師さんを定数通り雇用できているところはどれだけあるでしょうか?実は私の家族も、看護師さんの内診ののち、産科医あるいは助産師さんの付き添いでお産を済ませています。
日本の産科医療を考えると、現実問題として24時間365日の拘束勤務が要求される現場において医師あるいは助産師が別の分娩に入っていて内診ができないことはよくあることと思われます。それでも、助産師さんが行うべきであることは、「法律から明らか」なのですが、それではそれだけの数の助産師さんを毎年養成できているのでしょうか?

助産師さんは看護師さんの免許を取得して、更に1年以上の勉強をして国家試験に合格してはじめてなることができます。少し前までは、3年で看護師さんになっていたのですが、最近の傾向として大学と同じ4年で看護師さんになるところが増えています。更に、助産師さんや保健師さんになるためには更に1年勉強が必要です。

助産師さんの毎年の養成数はどの程度であるか?これは、正確な数を把握していません。しかし、現場で不足が指摘されていることなどからも、充分な数の助産師さんはできていなかったのではないかと考えます。(あるいは、充分な数の養成はあっても現場に定着しないのか?これまた、問題であります。)不足はずいぶん前からいわれていたことであると思いますが、それに対し適切な方策を講じてこなかった厚生労働省のことはこの記事からは伝わってきません。マスコミはその使命として、中傷により報道される側を虐待するだけではなく、「何故、助産師が不足していたのか?」などの、もう少し深くえぐった報道をするべきです。

この「医師あるいは助産師さんしか内診することは許されない」という規定を遵守していくと、日本の産科施設のうち、かなりの割合で「お産ができなくなる」という事態が起こることが予想されます。「助産師さんでなくとも、ある一定の経験を積んだ看護師さんは内診できる。」などの抜け道を早急に作らなければ、絶滅危惧種である日本の産科医療は予想以上の早さで絶滅してしまうでしょう。

そうならないことを祈っております。

追記です。

参考になる記事です。

周産期医療の崩壊をくい止める会

ある産婦人科医のひとりごと:神奈川県警による堀病院強制捜索に関して(周産期医療の崩壊をくい止める会)

|

« 1人で再開... | トップページ | 復活しました。 »

コメント

 司法も、マスコミも、面白がって現場批判するだけでなく、有効な対策を考えて欲しいものです。批判するだけなら簡単です。問題は現実とすり合わせてどこで解決案を見つけるかです。

 しかし陣痛促進剤の被害の会代表の方のコメントはひどいですね。知識のある助産師より看護師の方が批判されないから看護師をやとうですか。。。おっしゃることはもっともですが、現状の助産師不足はご存知なのでしょうか。
 そしてこの方がこう思うのはかまわないですがこれをあたかも真実を知る代表的な意見のようにとりあげるマスコミの見識を疑います。

投稿: 医療って | 2006年8月26日 (土) 00時50分

 すいません、誤って送信してしまいました。
 もっともだというのは
>適切に助産師を雇用する意識改革が不可欠だ

 で、この方のコメントの前半部分は謂れの無い誹謗中傷だと思います。

投稿: 医療って | 2006年8月26日 (土) 00時52分

助産師問題はどこかで噴き出すかと思っていましたが、まさに最悪の状況で出現したと感じます。私が指摘するまでも無く、助産師不足の現状には綺麗に知らぬ顔を決め込み、通達と法令に違反した一点のみを強調された報道になっています。

ただ今回の事件で気になるのは、記事によると50人もの捜査員が投入されたそうです。これが助産師問題のためだけに投入されたのなら、少し大げさすぎるように感じるのは私だけでしょうか。

真の狙いはおぼろげながら見えるような気はしますが、もう少し事件の推移を見守りたいと思います。

投稿: Yosyan | 2006年8月26日 (土) 10時34分

はじめまして。どうもこの病院には裏がありそうだというのは私も感じるところです。しかし助産婦さんの問題はこの病院を人身御供にするのではなく、社会全体で考えなくてはならない問題だとすべきなので、とりあげられることは悪くなかったと思います。ただでさえ成り手の少ない3K職場の看護師で、その上給料はよいかもしれないけれど数が少なくて拘束時間が長くなりそうな助産婦さんになりたい人は少ないですよね。お産が病気じゃないからと保険がきかない状態なのだから、助産婦さんを介助につける病院はお産費用が余分に高くなるなどの処置が必要なのではないでしょうか?看護師さんだけならいくら経験値が高くても安いとか・・・

投稿: クーデルムーデル | 2006年8月26日 (土) 10時46分

こんにちは
医療って先生

コメントありがとうございます。
報道からは、どうしても医療側が悪者ですね...お決まりのパターンではありますが。
助産師不足は以前より指摘されていたことなのに、それを放置していたのはどこなのでしょうか??

マスコミの方々には深い洞察を期待するのみです。(悲)

投稿: befu | 2006年8月26日 (土) 11時48分

こんにちは
Yosyan先生

コメントありがとうございます。
助産師の問題は、核心を突くための手がかりなのかもしれませんね...

微妙に報道もニュアンスが変化してきています。

投稿: befu | 2006年8月26日 (土) 11時51分

毎日新聞がまたもや糾弾記事を書いたようです。15年ほど前に堀病院で母体死亡を起こした人の母親が、「真実を知りたい」といっているとか。看護師内診と母体死亡は関係ない!といってやりたいですね。堀病院の助産婦は少ないですが、「赤ちゃんを取り上げる一番おいしいところを、全部医師がやる」ので助産婦はやりがいがなく定着しなかったとどこかの新聞で書いてました(どこかは忘れましたが。)だったら肝心の所は全部医師がやっているから、分娩関連死亡はすべて医師の監督下に起きているわけです。それをいかにも看護師内診と関連ありそうな書き方をするというのがいやらしいですね。

投稿: 山口(産婦人科) | 2006年8月28日 (月) 13時10分

こんばんは
クーデルムーデル先生

コメントありがとうございました。
また、レスが遅くなり申し訳ありません。

病院の内部の状況はわかりませんのでコメントを避けますが、助産師の問題はこれもかなり深刻であると感じています。新聞の記事では、一部「助産師は足りている」といったニュアンスですが...これは、誤った世論の誘導であると感じています。

先生のいわれる、助産師に何らかの特典をつけるというのには賛成ですね。「なりたい職種」でなければ、増えるもの期待薄ですので....

これからも貴重な御意見をお寄せください。

投稿: befu | 2006年8月28日 (月) 22時44分

山口(産婦人科)先生
こんばんは

コメントありがとうございます。

どうも、毎日新聞は論点がずれている様です。今日、拙ブログで記事にしましたが、「助産師は足りている」というニュアンスの記事がありました...
「世論を間違った方向に誘導するのは罪である」と感じています...(悲)

投稿: befu | 2006年8月28日 (月) 22時48分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/101068/11607014

この記事へのトラックバック一覧です: 産科崩壊への火種:

» 神奈川県警による堀病院強制捜索に関して(周産期医療の崩壊をくい止める会) [ある産婦人科医のひとりごと]
コメント(私見): 昨日来、ニュースで大々的に取り上げられているこの病院は、年間 [続きを読む]

受信: 2006年8月26日 (土) 09時42分

« 1人で再開... | トップページ | 復活しました。 »