« 厚生労働省の大なた | トップページ | 勧めません »

2006年8月12日 (土)

無過失補償制度

2006年8月12日 晴れ一時雷雨
今日も来ました、夕立。雷を伴って、バケツをひっくり返したような雨でした。

「無過失補償制度」は、「医療行為自体に過失がない場合で、医療事故が生じてしまった場合、公的にその患者さんに対して補償する制度」と理解しています。今回紹介する記事は、脳性麻痺に対する補償制度の確立を厚生労働省に提言したというものです。脳性麻痺は出産時の仮死状態などでも生じる可能性はありますが、現在の進歩した産科医療のなかでは、そのうちの多くが「出産時の原因で生じるものではない」ということです。

日本の法制度の中では、医療側に過失がない場合、患者さん側が大きな後遺症を持つことになったとしても、補償されません。特に、脳性麻痺の場合、障害をもって産まれた児を養育するには、多額の費用が必要ですし、両親の大きなエネルギーも必要です。医療側に過失のない場合はこういった患者さんの場合も補償の対象にはならないのです。当然、辛い、苦しい生活が待っています。場合によっては、「この児を産まなければよかった」などと考えてしまうこともあるでしょう...。

脳性麻痺はある一定の確率で生じてくることがわかってきています。その患者さんに対して、「医療側の過失の有無にかかわらず、一定額の補償をしましょう」という制度の提言です。

出産時事故で障害、公的補償制度要望(読売新聞)

「医師会、原案公表
 日本医師会は、出産時の事故で脳性マヒとなった重度の障害者に、医師の過失の有無にかかわらず補償金を支払う公的な「無過失補償制度」の原案をまとめ、8日公表した。
 厚生労働省に同案を提出し、法制化を要望している。
 生後5年までに一時金2000万円を支払い、6年目以降は介護料や逸失利益を年金形式で支払う内容。基金の財源は、国から年間60億円の支出を受けることを想定し、妊産婦からの負担も検討している。しかし産科医の自己負担については「国民の同意が得にくい場合は、1分娩(ぶんべん)1000円を集める」と触れるにとどまり、厚労省は「当事者同士の負担が当然で、国費負担はなじまない」としている。
 この制度は、訴訟による負担を敬遠し、産科医のなり手が減っていることなどから同医師会が導入を検討している。」

個人的に、こういった制度は必要であると考えますし、実現すべきと考えています。しかし、この記事からは読者に少し誤ったイメージを伝える可能性があります。

<出産時の事故で脳性マヒとなった重度の障害者に、>という部分がありますが、脳性麻痺の原因の多くは出産時の事故とは関係ない様です。

<厚労省は「当事者同士の負担が当然で、国費負担はなじまない」としている。>という部分がありますが、この制度自体は「過失の無い事故により生じた脳性麻痺の児を救済するための制度」であるのではないかと考えます。この目的のどこが、国費負担がなじまないのでしょうか?首を傾げたくなります。

<この制度は、訴訟による負担を敬遠し、産科医のなり手が減っていることなどから同医師会が導入を検討している。>という部分も、この制度の目的は「過失の無い事故により生じた脳性麻痺の児を救済するため」ではないかと思います。明らかに産科医の救済とは違う目的であるものなのに、この記事では産科医の救済のためにこの制度を提言したようなイメージを読者に与えます。

マスコミから流れる情報は色が付けられていると感じます。

追記です。この提言に関してある産婦人科医のひとりごと:「分娩に関連する脳性麻痺に対する障害補償制度」の制度化を提言(日本医師会)のなかで貴重な意見が述べられています。

|

« 厚生労働省の大なた | トップページ | 勧めません »

コメント

無過失補償制度については反対論が根強いですね。「なんでも無過失にしてしまい、医者のモラルハザードが崩れる」という主張も結構ポピュラーです。また「脳性麻痺という明らかな障害出ているのに、無過失とは聞いてあきれる」なんてのもどこかで読んだような気がします。

医者と患者では立場や受け取り方が違うので、こういう主張がある事に真摯に耳を傾けなければなりませんが、この距離というか、溝は果てしも無く遠く、深いような気がします。

ネットで意見を散見しても、一時期よりは創設もやむなしの声は増えましたが、未だに強硬な反対論も多く、提案の趣旨は医師としてもちろん賛成ですが、実現への気運はまだまだ遠いような気はします。

こういう展開は好ましくありませんが、無過失補償制度を作らないと、日本から産科が滅びる瀬戸際にでも追い込まれないと難しいかもしれません。

医師の実感として産科は崩壊の瀬戸際に近づいていますが、世間の実感としては少々不便程度です。これが世間も瀬戸際と感じるまで近づけばどうなっているのか。考えるだけで怖ろしいことです。

投稿: Yosyan | 2006年8月13日 (日) 15時08分

こんばんは
Yosyan先生

コメントありがとうございました。
いろいろな問題点はあるのですが、日本の現状を考えると、無過失保障制度は必要な気がします。

被害者の訴訟提起の場を奪うとの意見もありますが、それよりも事故で後遺障害をもった方々の救済が優先されると考えてしまいます。

投稿: befu | 2006年8月14日 (月) 21時10分

私の、息子は今年5才になります。切迫早産(29週4日・出生体重1588g)による、バリバリの脳性まひ児。医療事故か母体の異常かも分からない場合はどうなるのだろう・・・あてはまらない子供や家族の事は考えてくれないのかな?安心して、妊娠・出産とは口ばかり・・・などとつい思ってしまいます。

投稿: チンコロ | 2007年8月15日 (水) 23時22分

チンコロさま

こんにちは
レスが大変遅くなり申し訳ありません。

>医療事故か母体の異常かも分からない場合はどうなるのだろう・・・あてはまらない子供や家族の事は考えてくれないのかな?

スウェーデンでは、この無過失補償制度が既に動いています。この制度の目的が、救済ならば....全例で補償するべきであろうと考えていますが、財源の問題等越えなければならない問題が山積しています。


日本が福祉国家であるならば、こういった事業をきちんとやって行くべきです。

投稿: 管理人 | 2007年8月21日 (火) 11時15分

ありがとうございます。どのようになって行くのかを、見極めねば・・・と思うことにします。正直、裁判しようか、どうしようか?などなど考えは巡ります・・・

投稿: チンコロ | 2007年9月 4日 (火) 21時57分

チンコロさま

脳性麻痺の原因の多くは周産期管理によるものではなく、母体内での出来事によるものであるとされている様です。過失がなくても、このような将来にわたり、多大な労力と、費用をかけてみていくことになる児に対しては、福祉の観点からいうと、相応の手当をするべきであろうと考えます。

この部分をないがしろにして、制度を作るのであれば、患者さん、そして、医療者双方が不幸になります。現在の日本では、経済的補償が得られるのは、過失を認定できたときのみですね....。過失がなくとも、一定の割合で生じてくる、このような疾患をどのようにフォローするか?国の施策を見守りたいと思います。

投稿: 管理人 | 2007年9月 8日 (土) 22時48分

度々の返信ありがとうございます。納得のいかない事が多いですが、まずはしっかり子育てを頑張りたいと思います。

投稿: チンコロ | 2007年9月 9日 (日) 23時07分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/101068/11404438

この記事へのトラックバック一覧です: 無過失補償制度:

« 厚生労働省の大なた | トップページ | 勧めません »