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2006年6月17日 (土)

予防接種による感染

2006年6月17日 雨

今日は地域の輪番でした。午前中は外来です。

B型肝炎、国に責任 集団予防接種で感染 最高裁が賠償命令という記事が朝日新聞に出ていました。

いまでは考えられないことですが、その時代は集団接種の予防接種に注射針の使いまわしをしていました。B型肝炎はある程度年長になってからの感染は一過性のものとなり、新生児期や乳児期の比較的早い時期での感染は永続的な慢性感染となることが知られています。原告の方々は不幸なことに、注射針の使い回しにより、他の感染児より水平感染(注1)したのではないかと考えられます。今でこそ、慢性B型肝炎はインターフェロンや特殊な抗ウィルス剤などが開発され、ずいぶんと治療成績は上がってきましたがそれでも完治する(つまり、体からウィルスがいなくなること)患者さんはほとんどいません。

(注1)水平感染:同胞や他の人から病原体が感染すること。これに対し垂直感染は母児間の感染を指す。

予防接種は感染症の駆逐のため非常に重要な役割を演じてきました。特に、麻疹や百日咳、ジフテリア、ポリオなどについては目覚ましい効果をあげ、先進国ではほとんど患者さんがいなくなるような状態までになってきました。予防接種はこのように感染症に対して「善かれ」と思って行われていることですが....その方法において若干でも瑕疵があれば後になりこのような事象が起こってくる。非常に皮肉なものです...。この被害にあわれた方々には、「本当にお気の毒であった」という気持ちでしかありません。

ただ、時々思うのは...「世の中のものすべては完全であり得ない」ということです。言い換えると、「この世の中に完全なる善(或は悪)というのはない」という感覚でしょうか...。完全なる善は一神教の「神」のような観念的な部分でしか存在し得ないし、その反対の悪もいわゆる「悪魔」のような想像上のものにしか実現できないということです。

この考え方の極地はちょっと危ないものですが、「戦争」に関してもこれを完全な悪とすることができないということになります。戦争は当然、多くの人命を奪い、領土を荒廃させ、場合によってはその土地に長期間人間が住めない状態になったり、今後の世界戦争については「核」が使用された場合は人類のみならず、地球上の生命の滅亡が起こることが危惧されます。これを完全な「悪」とせずに何とするか?ですが....地球上に共存できる生命の数が決まっているとすれば、「効果的に人類の数を調整できる方法」としてみれば「戦争」の悪さは薄れてみえるかもしれません。(ここでは、例えとして戦争を使用していますが、私自身は戦争等にまきこまれたくもないし、起こってほしくないと思っている一小市民です。)

「神」でない「人間」である医師が行う医療も同じです。患者さんに対して「善かれ!」と思って行っている処置は現在ではevidenceに支えられているものがほとんどですが、全ての患者さんに100%を保証することはできません。つまり、処置は「完全なる善」ではあり得ないことになります。当然、医師の技量もありますし、患者さん側の要因、その時点ではまだ理解されていない「処置による副反応」などがあり、処置により起こることを100%予想することは残念ながらできないのです。

悲観的なことを書いてきましたが、医療の技術は日進月歩、数年前までは諦めざるを得なかった患者さんの状態でも改善させたり、完治させることができるような目覚ましい進歩もあります。徐々にではありますが、医療のレベルは向上してきています。これは、医療者の献身的な努力もありますが、貴重な患者さんの犠牲からも大切な情報を得て少しずつ少しずつ進歩させているものなのです。

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コメント

フィブリノゲン製剤によるC型肝炎について判決が出ました。私が医者になるほんの少し前まで「止血に効果あり」として盛んに産科婦人科で使われていた製剤での事件ですので、ほんの少し早く医者になっていれば加害者になっていたかもしれません。
 製薬会社の責任が一番重い気はします。最初に情報が集まるところだし、医師が薬についての情報を得るのはその頃だとMRさんが主体で、論文レベルで日常的に血液製剤による肝炎などのチェックをできる医師は少なかったでしょうし。
 しかし当時産婦人科学会は使用停止に反対していたという話で、生物製剤(特に人血からの)の危険性の認識不足ですね。血液で肝炎が感染するのは周知の事実だったのだし、ならば血液から作られる薬だって危ないというのは分かりそうなものだけど。そう考えると国や製薬会社だけでなく、投与した医師もなにがしかの責任はあるように思えます。

投稿: 山口(産婦人科) | 2006年6月22日 (木) 20時16分

こんばんは
山口(産婦人科)先生

コメントをありがとうございました。
フィブリノゲンによりC型肝炎に感染されたお母様から出生した児を、つい先日診察させていただきました。垂直感染を心配されており、HCV抗体のチェックを希望されていました。幸いなことに感染は成立しておらず事なきを得ていますが....このような問題もあるものだなとつくづく感じ入ってしまいました。

このほどの、福島県立大野病院事件でも『出血』が問題となり、産科をされている先生は結構な割合で新鮮血を使用したことがあると聞いております。産科には『出血』がつきまとっている印象です。フィブリノゲンのような凝固因子製剤は産科医の先生方からみれば、『頼みの綱』と見えていたとも思います。

しかし、危険性は末端の実際に使用している臨床医には伝わらなかった。製薬会社はこのような高価な薬の危険性については触れたくもなかったでしょう。産婦人科学会はどういう立場だったでしょうか?と考えを進めると....
患者さん、そして、自分の身を守るためには新しいものを勉強して取り入れていくしかないのだなという結論にたどり着きました。

医師は生涯勉強ですね....ありがとうございました。

追伸 お母様も産後に行われたIFN治療が奏効し完治されていた様です。また、お子様は年長児でしたのでHCV抗体陰性⇒感染は成立していないと考えております。

投稿: befu | 2006年6月22日 (木) 21時56分

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