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2006年6月16日 (金)

代理ミュンヒハウゼン症候群_症例、診断

2006年6月16日 晴れ
気持ちのいい一日でした。当直明けで外来は40人ほど、1人入院でした。5時ごろになり、『これでおわりだ...』などと思っていると、救急車の音とともに、コードブルー(注1)...CPAOA(注2)のお年寄りでした。蘇生を手伝い、一段落ついて何とか帰れました。

(注1)緊急時の医師招集放送。俗にハリーコールとも呼ばれる。
(注2)CPAOA: Cardio Pulmonary Arrest on Arrival, 来院時心肺停止状態

しばらく、脱線しておりましたMSBP: Munchausen syndrome by proxyですが...今日は、日本小児科学会雑誌に症例が掲載されていましたので、御紹介します。

複数菌の敗血症を反復した代理Munchausen症候群の1例

<要旨>
敗血症を反復した代理Munchausen症候群(MSBP)症例を報告した。患児は発症時7ヶ月の女児。下痢と発熱を主訴に入院した。入院後から複数菌による敗血症を反復した。腸管や免疫能に異常なく、同様の経過で死亡した姉の存在、後に判明した母親のMunchausen症候群の既往等からMSBPと診断した。母親による点滴回路の意図的汚染と考え母児分離した。母児分離後、患児の状態は著しく改善した。MSBPは医療機関への異常な依存であるが、その原因の一端に母親自身の不幸な成長過程や家庭環境が関与していると推察される。社会全体が育児をもっと高く評価し、家族機能を補完するような支援をしていくことが急務である。
(日本小児科学会雑誌 110巻5号 681〜686 2006年)

この患者さんにある症状は、いろいろなタイプの細菌による敗血症(注3)です。入院後も、点滴して抗生物質を使用しているのに、同様なことが繰り返されます。「免疫に異常があるのか?」「腸管の異常があるのか?」調べるけれども、異常は見つかりません。残るは、点滴ラインに意図的に細菌を混入されることですが...その証明は極めて難しいと思われます。(つまりMSBPの診断の難しさです)

(注3)敗血症:血液中に細菌が入り、その細菌や産生する毒素により、生命をおびやかすような重篤な症状を惹起する状態。Septicemiaあるいは単にSepsis。

<本文中から>
血液からは消化管由来菌をはじめとする複数菌の検出が続いたため、MSBPによるIVHカテーテル(注4)の意図的汚染が強く疑われた。しかし、外傷などのように外から見てわかるものではなくビデオカメラの設置も困難である状況から、明らかな証拠はなく、強制的に母子分離に踏み切ることは困難であった。

法的拘束力をもって、母児分離に踏み切るには確固たる「虐待」の証拠が必要と思われますが、傍証は得られるが、確証を得ることができないということになります。ビデオについては確証となりえますが、養育者にわからないように設置する必要があること、設置前に弁護士などと相談して証拠として採用できる要件を整えておく必要があるようです。(子ども虐待の臨床より)

(注4)IVHカテーテル:Intravenous hyperalimentationカテーテル;中心静脈栄養カテーテル。通常の末梢点滴では余り高いブドウ糖濃度の点滴を行うことができない。長期間の絶食で体を支えていくためには、心臓の近くまで(つまり中心静脈まで)カテーテル(管)を入れて高い濃度のブドウ糖を点滴する。感染を生じると敗血症に移行しやすい。

<本文中から>
本症例の母親の「こんな原因不明の病気の子供を持つ親の気持ちがわかりますか。」という母親の涙ながらの言葉や表情に惑わされ、虚偽申告を見抜くまでにかなりの時間を要した。

この患者さんでは、発症から母児分離まで3年以上を要したとされています。診断は非常に難しく、この病気を疑うこともなかなか難しい。そういう病気ですが、重篤な転帰を迎えることもあり、小児科医として脳裏の片隅に入れておかねばならないものと感じました。

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コメント

はじめてお邪魔します。「MSBP」で検索してたどりつきました。

わたくしは、先生が(多分)お嫌いな法律家です。「見逃されやすい児童虐待MSBPの事例」法律時報77巻1号(2005年1月)というものを書きました。

他の部分も読ませていただきました。これを機会に、今後とも訪問させていただきます。


投稿: なにわ太郎 | 2006年7月16日 (日) 04時14分

こんにちは
なにわ太郎 先生

コメントありがとうございます。
私は、MSBPに関しては素人ですが、診断には、法曹界の方々のご協力がかなりの部分必要であると感じております。

先生の書かれた、「見逃されやすい児童虐待MSBPの事例」法律時報77巻1号(2005年1月)を入手して読んでみたいと思います。

<わたくしは、先生が(多分)お嫌いな法律家です。

「嫌い」というわけではありません。ただ、物事に対する感覚には溝があるだろうと感じています。その溝を埋めるために努力したいとは思っています。^ ^

これからも貴重な御意見をお寄せいただければ幸いです。

投稿: befu | 2006年7月16日 (日) 08時16分

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