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2006年5月10日 (水)

白血病治療と感染予防3

2006年5月10日 曇りのち雨
白血病治療と感染予防についてこれまで2回記事にしてきました。これまで、身体側からみた視点で記述していましたが、今日は視点を変えて病原体側からの考察です。そして、このシリーズのまとめを行いたいと思います。

さて、これまでのまとめですが....
1回目は「がんや白血病そのものや治療によって免疫力は低下する。そして、いろいろな病原体に侵されやすくなる。血液中の好中球数が感染のリスクを予測するのに重要である。」
2回目は「好中球が500/μlを切ると重篤な細菌感染が起こりやすくなる。無菌室等の逆隔離は感染予防において十分なデータに裏付けられていない」でした。

これからお話しすることのデータ参照元は、うちの病院の院内感染防止マニュアルです。うちの病院の...ですが、厚生労働省のガイドライン等、Evidence(理論のもと、論拠)はしっかりしているものと思います。また、繰り返しになりますが、私は小児血液の専門医ではありませんので、文献などで一般的に周知されている内容であり、臨床で一番重要であると思われる経験に基づいたお話ではないことを、おことわりしておきます。

感染経路について...
病原体の感染経路には大きく分けて空気感染、飛沫感染、接触感染の3つのルートがあるとされます。空気感染は粒径5μm以下の粒子に付着して長時間空気中を浮遊している微生物により起こされる感染です。飛沫感染は粒径5μmより大きい粒子に付着して短時間(数メートル以内)に落下してしまう微生物により起こされる感染です。接触感染は実際に接触がなければ、感染する可能性が非常に低い感染の形式です。

そして、空気感染する病原体には「麻疹(はしか)」「水痘(みずぼうそう)」「結核」などが含まれます。飛沫感染には「マイコプラズマ感染症」「溶血性連鎖球菌(溶連菌)感染症」「アデノウィルス感染症」「インフルエンザ」「ムンプス(おたふくかぜ)」等が含まれます。接触感染の代表は「O-157」「単純ヘルペス感染症」「ロタウィルス感染症(嘔吐下痢症の代表的原因ウィルス)」などです。

感染経路により予防法が示されていますが、空気感染の場合は同じ部屋や、場合によっては違う部屋にいても空気を通じて感染する事があります。そのため、入院している場合は個室に隔離し、感染予防のため医療者はN95マスク写真を装着して、処置を行います。

飛沫感染の場合は、飛沫が感染した方から数メートル以内を飛びますので、個室への隔離またはベッドを2m以上離しておき、医療者は1m以内で働く時にはマスク(通常のもの)を付けるとされています。

接触感染の場合は直接の感染や、器具を通じて感染する事が考えられ、入院患者さんは様々なレベルの隔離をとられますが、まったく隔離が必要でない事も多くあります。患者さんに使用する器具をできるだけ専用にし、医療者は、ガウンの着用や、手袋、手洗いを徹底することとされています。

ここで、白血病治療後に細胞性免疫が低下している場合に問題となるのは、重症のウィルス感染症や結核などが多いと思われます。特に、水痘は時に非常に重篤な経過をとり、場合によっては生命をおびやかすような事例も報告されています。よって、発疹がでている方との接触は避ける(もちろん発熱している方とも...)、咳が出ている方との接触も避けること、流行している感染症に対して情報をもっておくなどの方策でかなりの割合の感染は防げるのではないか?と考えます。

ただ、標準の感染予防は必要です。その中には、手洗い、マスク(人ごみにいるとき、家族が咳をしているときなど)、お布団は清潔にしておくなどの一般的な方策が含まれます。

ここで、拙ブログに寄せられた、小児血液専門医のコメントを拝借させていただきます。
「感染症はWBC(好中球数)と密接に関係があるのは、ご指摘のとおりで、ゼロから数百ぐらいまででも上昇すれば終息傾向に向かう事が多く、1000も越えれば外泊や一時退院を考えたと記憶しています。

外泊中や一時退院中の感染はあったでしょうが、それで入院まで要する様な事はあまり記憶に無く、あっても外来レベルでほとんど終わっていた様に思います。」

拙ブログの記事急性リンパ芽球性白血病の予後に寄せられたコメントの設問は...
「この感染のおそれに対して安心できる「カッチリ」とした基準を考査する事は難しいでしょうか。お時間のある時に取り上げて戴ければ幸いです。」でした。

その答えになっているかどうか?はわかりませんが...以下にこのシリーズをまとめます。
1.好中球数が500/μlを切ると重篤な感染を起こす事が考えられる。1000/μlを超えるとほぼ安心できる。
2.ヒトから感染する感染症で恐ろしいのは重症のウィルス感染や結核などであり、これには「発疹が出ている方との接触を避ける(もちろん発熱している方とも)」「咳が出ている方との接触も避ける」「流行している感染症について情報を持っておく」などの方策でかなりの感染を防げると思われる。標準的な感染予防は必要である。

などが、一般的に言える事なのではないか?と考えます。

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コメント

befu様

連載して戴いた事に対して、心よりお礼申し上げます。本当に有り難う御座いました。

私の子の場合、無菌室から一時退院した事がありました。ずっとマスク・帽子・ゴム手袋・エプロン着用で接していた日々から、自宅に帰りマスク無し・手袋無し、極々普通の接し方で一緒に食事をし、次の日に、また無菌室へ送り届けました。もちろん退院できる程の一時回復ではあったのですが、「他人からの感染症」への配慮は、言う方も聞く方も、バラバラの伝わり方だと感じました。同病の親御さんによる掲示板の発言でも、同じような心配をされている方が大勢おります。「少しばかり過剰なのでは、敏感すぎるのでは」と思える節があります。それはそうです、我が子の事で医療処置に直接参加できる訳では無し、オロオロするばかり、出来る事は少ないですから、守るべき事には「絶対」と言える程気を使ってしまいます。なんとか少しでも気持ちの負担を軽減させる手だてはないか、というのがそもそもの切掛けではあります。befu先生のブログを、気軽に便利に使ってしまったのではないか、と罪責感が残っておりましたが、「気にしないで下さい」という言葉に救われました。

私の子はまもなく一般病棟に移る予定です。好中球で言えば常に1000は超えていますが、決して万全の状態でもありません。移動に際して、

・病種により大部屋ブロックを分けているので罹患している人達に接する可能性はかなり低い。
・仮に罹患している人が近づいても2m程度までなら大丈夫。(飛沫防止は90cm[3feet]という説もありました)
・万が一感染しても通常外来の処置でいけるものが多い事。

さらに重たい事を考えると、Yosyan先生がCRP50のお話をされていましたが、これまた隣室のお子さん(私の子は無菌生活が長いので、隣が都度都度入れ替わりました)で移植後、CRP50超の状態になった時があり、適切な処置の結果、見事回復し一般病棟へ移りました。医療水準は発達し続けていると思います。

私は、最初の項目で、ほとんど大丈夫なんだ、と家族には伝えていました。勿論、子供に接する機会が多い両親・家族は、徹底的に手洗い・うがいを行い、マスク着用(N95マスクを初めて拝見しました!)、インフルエンザ等の流行時期には特に注意深くすべきではあります。今回の連載を何度も読み込んで、理解を深め、参考にさせて戴きたいと思います。

ご専門外の所、ポイントをわかり易くまとめて戴き、再度感謝の言葉を述べたいと思います。befu先生に出会えた事を心から喜んでおります。今後ともよろしくお願い致します。

投稿: 白神 | 2006年5月11日 (木) 17時37分

こんばんは
白神さま

コメントありがとうございました。

<私の子はまもなく一般病棟に移る予定です。
良かったですね。ただ、これからも長い闘病生活はあるとは思いますが...

私は一般的なことを文献等から得て、御紹介する程度しかできませんので、主治医の先生とも良くお話の上、いろいろな方針を決めていかれてください。

また、コメントには過分なお褒めの言葉をいただき、本当にありがとうございました。
お子様の御快癒を祈らせていただきます。

投稿: befu | 2006年5月12日 (金) 00時13分

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