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2006年5月 3日 (水)

急性リンパ芽球性白血病の予後

2006年5月3日 晴れ 比較的静かな一日
急性リンパ芽球性白血病(ALL: Acute lymphoblastic leukemia医療者の間では急性リンパ性白血病などともいいます)は、小児の悪性腫瘍の中では一番多い病気です。治療に反応しやすく、5年生存率は8割程度あるともされています。特に、年齢と初診時の白血球数、脾臓や肝臓が腫れる等の臓器腫大の有無等について検討し重症度が予測されますが、比較的軽症な群では良好な予後を期待できるとされています。しかし、治療して寛解(腫瘍細胞がある程度以下まで低下した状態)に入っても、再発する事はあります。
白血病の病気の形として大きく分けて、骨髄型とリンパ型がありますがリンパ型の再発の特徴として、骨髄だけでなく他の臓器(脳や精巣などなど)での再発といったことが比較的多くみられます。そこで、特に重症と予想される群については、最初の治療の時に、放射線を脳、脊髄やその他に照射して再発を抑えようとしていました。
(私は現在、このような白血病の患者さんを診る機会がありませんので、最新の治療方法はどうなっているのか知りません。また、今回の記事については、患者さんからの御質問に適切に答える事ができない可能性があり、特に「治療中の患者さん」からの御質問はお受けできないことを申し添えさせていただきます。)

以下の文献は急性リンパ芽球性白血病の予後についての2003年の知見です。

Extended Follow-up of Long-Term Survivors of Childhood Acute Lymphoclastic Leukemia
訳:小児期リンパ芽球性白血病の長期生存者の追跡調査

Background
Children who survive acute lymphoblastic leukemia are at risk for leukemia-related or treatment-related complications, which can adversely affect survival and socioeconomic status. We determined the long-term survival and the rates of health insurance coverage, marriage, and employment among patients who had attained at least 10 years of event-free survival.
訳:背景
小児期に急性リンパ芽球性白血病にかかり、生存した患者は生存率や社会経済的に思わしくない影響を与える可能性のある白血病関連あるいは治療関連の合併症のリスクを負っている。我々は、少なくとも10年以上event-free(特に病気せずに過ごす事)で経過した患者に生存率、医療保険の加入率、結婚、就職を調査した。

Methods
A total of 856 eligible patients were treated between 1962 and 1992 in 13 consecutive clinical trials. Survival rates, the cumulative risk of a second neoplasm, and selected indicators of socioeconomic status were analyzed for the entire group and for patients who did or did not recieve cranial or craniospinal radiation therapy during initial treatment.
訳:方法
1962年から1992年にかけて行われた13の臨床試験で、総数856人の患者が治療された。生存率、二次的に発症する腫瘍の累積リスク、社会経済的指標をすべての患者において、初期治療時に頭蓋照射あるいは頭蓋脊髄照射を受けた群と受けない群に分けて検討した。

Results
Fifty-six patients had major adverse events, including 8 deaths during remission, 4 relapses, and 44 second neoplasms (41 of them radiation-related); most of the second neoplasms were benign or of low grade of malignant potential.
訳:結果
56人の患者に大きな思わしくないeventが起きていた。そのうち寛解中に8例の死亡があり、4例が再発、44例に二次的に発生した腫瘍を認めた。(そのうち41例は放射線治療に関連していた)、二次的に発生した腫瘍のほとんどは良性あるいは軽度悪性であった。

The risk of a second neoplasm was significantly higher in the 597 patients who received radiation therapy (irradiated group) than in the 259 patients who did not received radiation therapy (non irradiated group) (P=0.04; estimated cumulative risk [±SE] at 20 years, 20.9±3.9 percent vs. 0.95±0.9percent)
訳:二次的に発生する腫瘍のリスクは597人の放射線治療を受けた群が259人の放射線治療を受けなかった群に比べて有意に大きかった。(20年の累積リスクでの比較では放射線治療群は20.9±3.0%、非放射線治療群では0.95±0.9%であった。)

The death rate for the irradiated group slightly exceeded the expected rate in the general U.S. population (standardized mortality ratio, 1.90; 95% confidence interval, 1.12 to 3.00), whereas that for the nonirradiated group did not differ from the population norm (standardized mortality ratio, 1.75; 95% confidence interval, 0.34 to 5.00).
訳:放射線治療群の死亡率は合衆国の一般人口の予想死亡率をわずかに超えていた。(標準化死亡率 1.90、95%信頼区間1.12〜3.00)これに対し、非放射線治療群では一般人口との間に差がみられなかった。(準化死亡率 1.75、95%信頼区間0.34〜5.00)

The rates of health insurance coverage, marriage, and employment in the nonirradiated group were similar to the age- and sex-adjusted national average.
訳:非放射線治療群において、医療保険の加入率、結婚率、就職率は国の年齢及び性別をあわせた平均とほぼ同等であった。

Despite having health insurance rates similar to those in the general population, men and women in the irradiated group had higher-than-average unemployment rates (15.1% vs. 5.4% and 35.4% vs. 5.2%, respectively), and women in the irradiated group were less likely to be married (35.2% vs. 48.8%)
訳:放射線治療群の医療保険加入率は一般人口と同様であったが、放射線治療群の男性及び女性は非就職率が高かった。(放射線治療群男性15.1%、一般男性5.4%。放射線治療群女性35.4%、一般女性5.2%)また、放射線治療群の女性は結婚率が低かった。(放射線治療群女性35.2%、一般女性48.8%)

Conclusions
Children with acute lymphoblastic leukemia who did not recieve radiation therapy and who have attained 10 or more years of event-free survival can expect a normal long-term survival. Irradiation is associated with the development of second neoplasms, a slight excess in mortality, and an increased unemployment rate.
訳:結論
小児期に急性リンパ芽球性白血病に罹患し10年以上異常がなく過ごした患者で放射線治療を受けていないものは普通の長期生存を予想する事ができる。放射線治療は二次的に発生する腫瘍の増加、死亡率のわずかな上昇、非就職率の上昇と関連している。

[New England Journal of Medicine 349:p640-649, 2003]

この文献では、選んだ患者さんは10年以上異常がない生存者ということで、治療が成功しやすい比較的軽症な患者さんたちであったのではないか?と思われます。そのような、「良好な予後を期待できる患者さんに対しては、後に障害を遺す可能性のある治療は選択しないようにする」というのが根底に流れる考え方であろうと思います。そして、「このような、尊い犠牲の上に医療は一歩一歩進歩するのだな」と思いを新たにします。

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コメント

はじめまして、白神と申します。ALLではありませんが白血病の子をもつ父親です。最近このブログを見つけて拾い読みしておりました。今日は白血病の話題だったのでコメントさせて戴きます。

白血病の子をもつ多くの親御さんが「感染症」に対して非常に過敏になっています。とても幅の広い話題ですが、過敏になる対象が「他者からの感染」です。一般病棟で化学療法を行なっている最中、無菌病棟から一般病棟に移った直後、一時退院の時などは特にその傾向があり、他人とのコミュニケーションに対し神経をすり減らしてしまう場面も多いかと思います。この感染のおそれに対して安心できる「カッチリ」とした基準を考査する事は難しいでしょうか。お時間のある時に取り上げて戴ければ幸いです。

投稿: 白神 | 2006年5月 4日 (木) 08時54分

こんばんは
白神さま

コメントをいただきありがとうございました。白血病と戦っておられるお子様がいらっしゃるとの事、治療に関しては長く、苦しく、辛いこととお察し申し上げます。

<この感染のおそれに対して安心できる「カッチリ」とした基準を考査する事は難しいでしょうか。

との御質問ですが、この記事の中でも申し上げましたが、私自身が小児血液を専門にしておりませんので経験をもとにした適切な御指導をして差し上げる事は難しいと思っております。ただ、一般的な範囲での「治療中の感染予防」について、これまで文献によって周知されているものについては近日中にまとめた上、記事にしたいと考えております。

今しばらく、時間をいただけましたら幸いです。

最後に、お子様の治療がつつがなく成功する事を祈らせていただきます。

投稿: befu | 2006年5月 4日 (木) 21時41分

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