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2006年5月12日 (金)

新生児黄疸のはなし

2006年5月12日 曇り

今日は新生児黄疸の話です。新生児には黄疸がつきものです。(中にはほとんど可視性の黄疸のない児もいますが...)黄疸は血液中のビリルビンという物質が増えてくると、皮膚や眼球結膜(注1)が黄色く染まってみえることです。このビリルビンという物質は、赤血球の中に含まれている、酸素を運ぶために重要なヘモグロビンという物質が分解され、更にヘムという物質が分解されてくる時に生じます。通常、赤血球の寿命は120日とされています。血液の中の赤血球の量が一定だとすると、だいたい1日に120分の1程度が壊れ、ビリルビンとなっていきますが、それは肝臓で適切に処理され(これを、「代謝する」といいます)黄疸にはなりません。
かたや、新生児ではお母さんのおなかの中では、このヘモグロビンが胎児型のタイプで成人型のタイプとは違うのです。よって、産まれてからはその胎児型のヘモグロビンを成人型に変化させていかないと外界には適応できないため、急速に赤血球を壊し、新たな赤血球を作っていきます。ですから、ビリルビンが生成されて新生児には黄疸がつきものということになります。
しかし、まれにこの赤血球の壊れ方が異常にはやい児がいます。その中には、お母さんと新生児の間で血液型が不適合の場合やその他のこわれやすい赤血球をしている場合があります。(もちろん、そういう異常がなくても壊れるのがはやい児もいます。)その場合、異常に黄疸がひどくなり、そのビリルビンが脳の中の基底核というところに沈着して「核黄疸」という状態となることもあります。そして、脳性麻痺といわれる、四肢の麻痺や発達の遅れ、けいれんなどをあわせもった病気へと進行する事があります。
(注1)「しろまなこ」のこと。

通常、血液中のビリルビンが30mg/dlという値を超えると、「核黄疸」を示してくるとされていますが、それ以下のレベルではどうなのか?明らかではありません。治療は光線療法という赤ちゃんに目隠しをしたうえで、紫外線のでる電灯を使って光を当ててビリルビンを分解させる方法と、交換輸血といって赤ちゃんの血液をかなりの割合で輸血用血液と入れ替えてしまうという方法の大きく分けて二つの方法があります。光線療法は軽症には効果的で施行も容易なので頻用されますが、重症例では交換輸血を行わないと間に合わないことがあります。

「交換輸血を施行するべきだ」というレベルは学会や教科書によりまちまちで、アメリカの小児科学会では「日齢4(注2)までの正期産児は血液中の総ビリルビン値が25mg/dl以上であり、光線療法により十分な効果のない場合は交換輸血を行うべきである」としていますが、最近の新生児学の教科書では「正期産児で血液中の総ビリルビン値が20から25mg/dlのものについても交換輸血するべき」としています。
(注2)産まれてから4日目ということ。

以下の文献は、25mg/dl以上の高ビリルビンで治療をした場合、神経学的予後はどうなるか?を検討したものです。

NEJM 354; 14 May 4, 2006 p.1889

Outcomes among Newborns with Total Serum Bilirubin Levels of 25mg per Deciliter or More
訳:総ビリルビンが25mg/dl以上の新生児の予後

Background
The neurodevelopmental risks associated with high total serum bilirubin levels in newborns are not well defined.
訳:(背景)血清総ビリルビン値が高値の新生児において神経発達学的リスクは十分明らかにされていない。

Methods
We identified 140 infants with neonatal total serum bilirubin levels of at least 25mg per deciliter (428μmol per liter) and 419 randomly selected controls from a cohort of 106,627 term and near-term infants born from 1995 through 1998 in Kaiser Permanente hospitals in northern California. Data on outcomes were obtained from electronic records, interviews, responses to questionnaires, and neurodevelopmental evaluations that had been performed in a blinded fashion.
訳:(方法)1995年から1998年にかけて北部カリフォルニアの帝王切開が行われる病院で出生した、正期産児106,627人のコホートの中から血清総ビリルビン値が25mg/dl以上だった新生児140人とランダムに選択した対照群419人を選択した。予後のデータは電気的記録やインタビュー、質問票の答えや盲目的方法により行われた神経発達学的評価により集められた。

Results
Peak bilirubin levels were between 25 and 29.9 mg per deciliter (511μmol per liter) in 130 of the newborns with hyperbilirubinemia and 30 mg per deciliter (513μmol per liter) or more in 10 newborns; treatment involved phototherapy in 136 cases and exchange transfusion in 5.
訳:(結果)ビリルビンの最高値が25から29.9mg/dlであった高ビリルビン血症群の新生児は130例、30mg/dl以上の新生児は10例であった。治療は光線療法が136例で施行され、交換輸血は5例で施行されていた。

There was no case of kernicterus.
訳:核黄疸を起こした新生児はいなかった。

There was no significant difference between groups in the proportion of children with abnormal neurologic findings on physical examination or with documented diagnoses of neurologic abnormalities.
訳:理学所見で神経学的に異常を見いだされた児及び神経学的異常を診断された児の割合は(高ビリルビン血症群と対照群の間で)有意な差はなかった。

Fourteen of the children with hyperbilirubinemia (17 percent) had "questionable" or abnormal findings on neurologic examination, as compared with 48 controls (29 percent).
訳:高ビリルビン血症の子供のうち14例(17%)が神経学的評価にて異常や境界域異常を指摘されたが、対照群では48例(29%)であった。

Within the hyperbilirubinemia group, those with positive direct antiglobulin tests had lower scores on cognitive testing but not more neurologic or behavioral problems.
訳:高ビリルビン血症のグループでは直接coombs試験陽性の児において理解力の試験で低得点の傾向がみられたが、その他の神経学的や行動上の問題はなかった。

Conclusions
When treated with phototherapy or exchange transfusion, total serum bilirubin levels in the range included in this study were not associated with adverse neurolodevelopmental outcomes in infant born at or near term.
訳:(結論)正期産児で光線療法や交換輸血によって治療された場合、この研究で検討された血清総ビリルビン値は「神経発達学的に望ましくない転帰」と関連していないといえる。

平たくいうと、「血清総ビリルビン値が25mg/dl以上であっても、交換輸血や光線療法を適切に行っていれば、神経学的後遺症を遺さずに回復するだろう」ということと思われます。

追記です。

文献の訳の中でKaiser Permanente hospitalsを帝王切開が行われている病院と訳しましたが、Kaiser Permanente病院群?と訳すのが正解かもしれません...

続きを、拙ブログ:遷延性黄疸に記しております。

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コメント

befu様

白神です。私の子は新生児ではありませんが未だ幼い子供です。骨髄移植後の合併症で肝不全を起した際のTB値があまりにも高く、いろいろ検索しました。通常の判断では2〜3mg/dlを越えると黄疸になるとありましたが、数値が二桁をマークし始めると「新生児黄疸」の情報が多く検索されました。

ニュートンドクターによれば、「毒性が高いので、10をこえると、神経的な症状が出ます」とありました。
http://www.newton-doctor.com/kensa/kensa04a.html

不安に嘖まれる日々でしたが、適切な処置を行なって戴き、現在黄疸はほとんど消え、病室で元気に(?)過しています。晩期障害で心配することはいろいろ多いのですが、この高ビリルビンに対する後遺症は、今回の話、とても参考になりました。いつも有り難うございます。

投稿: 白神 | 2006年5月13日 (土) 08時21分

新生児黄疸も付き合いの深い病気ですね。うちの大学系列ではアンバウンド・ビリルビンの数値を非常に重視していまして、TBと必ずセットで検査をし、光線療法や交換輸血の基準にしていました。

光線療法はともかく交換輸血は厄介ですね。未熟児ではやたらと基準値が低いですから、すぐに交換輸血ラインに近づきます。とはいえ交換輸血はこれでもかと言うぐらい厄介ですから、光線2面照射をした上に、クベースの他の面にアルミホイルを巻き付けてギンギンギラギラで治療した事が思い出されます。

それでも交換輸血となると泣きそうな思いでするのですが、A lineがすぐ詰まるのです。取り直すのは至難の業ですから、慎重に慎重に瀉血するのですが、それでも出なくなったら・・・泣きっ面に蜂でした。

そうそう最近ではビリベットが普及して、一般産科病院の光線療法はラクになりました。先生のところにもありますか?効果は本式よりやや落ちるかもしれませんが、お母さんへの見た目がずっとmildで喜ばれました。

投稿: Yosyan | 2006年5月13日 (土) 14時49分

こんばんは
白神さま

移植の時に高度な肝障害が現れたのですね...いまは黄疸もひいたとのことで何よりです。

さて、新生児と黄疸についてお話しましたが、高ビリルビンで核黄疸のような永続的に脳障害を起こすのは新生児期がほとんどの様です。専門的な話となりますが、脳は血液脳関門といわれる、一種のバリアーを持っています。これは、血液中の物質がそのまま脳に移行しないようにブロックする仕組みですが、この仕組みが特に新生児期ではまだしっかりと働いていません。核黄疸では、まだ血液脳関門が確立されていない時期にかなりの量のビリルビンにさらされ、脳内にビリルビンが入ってきて重要な部分を侵してしまうという機序が働いている様です。

成人では肝臓の機能がそこまで障害されていない、でも「黄疸だけは強い」という状態がありますが、この場合はうまく減黄(黄疸を減らす事)できれば、後に大きな障害を遺さずに回復する事も多い様です。

投稿: befu | 2006年5月13日 (土) 22時34分

こんばんは
Yosyan先生

コメントありがとうございました。

<光線療法はともかく交換輸血は厄介ですね。未熟児ではやたらと基準値が低いですから、すぐに交換輸血ラインに近づきます。

私は、余り新生児の経験がありませんが、交換輸血は大変だった事は思い出します。新生児のA-line、それも未熟児は大変でしたね...大量に輸血を施行すると、血清Caが下がるので、カルチコールを必要としますが輸血のラインからはいくことができず、また1本ラインが...なんてことが....

また、今は一体型の機械もあるようですが、輸血はポンプ、瀉血は手作業というのも気を使いました...

<そうそう最近ではビリベットが普及して、一般産科病院の光線療法はラクになりました。先生のところにもありますか?

実は、うちには産科がありませんで(日本の地域医療の現状をよく反映しています...)新生児の管理からは解放させていただいています。ただ、近くの産科から時々送られてくる、生後5日から1週間程度での先天性心疾患には少し苦労していますが....

「ビリベッド」これ便利ですね...(驚)

投稿: befu | 2006年5月13日 (土) 22時51分

ご相談です。訪問先のベビーのことです。
出生後33日目、39Wで3040gで出産、退院時も黄疸は普通と書かれていたのですが、やや黄疸が強いようにかんじると母が心配されています。
一ヶ月健診に3日前にいっており、このときには何もいわれな
かったようです。

結膜がはっきりと黄色いのです。
皮膚色は、母がとても色白なのでよけいに黄色い感じが目立ち
ます。
夜間のみミルクを100ほど、あとは2Hごとくらいに母乳の
みでがんばっています。WT4100g(42g/D増加)でした。
便は普通の黄色いものがでていて白色便はマイナスです。

母乳性黄疸で結膜まで黄色くなることはあるのかな、とわから
なくて・・・
もしご指導いただけたらありがたいです。


投稿: ひろろ | 2006年6月27日 (火) 00時09分

こんにちは
ひろろ さま

コメントありがとうございました。新生児の遷延性黄疸についての御質問ですね...本日中に母乳黄疸も含めて遷延性黄疸について記事にしたいと考えております。

お話を聞く限りでは、母乳黄疸でよいのでは?と考えますが、可視性の黄疸が見られるのであれば、とりあえずは一度精査(血液検査:血清ビリルビンの分画やcoombs試験などの....)を勧めてはいかがでしょうか?

母乳黄疸であれば、通常は一時的に母乳を中止するなどの処置以外で、あまり大きな処置が必要であることは少ないと考えますが...私が実際に診ていませんので...何卒、御高配お願い致します。

投稿: befu | 2006年6月27日 (火) 09時53分

ひろろさま

拙ブログ:遷延性黄疸に続きを記述しております。参考となれば幸いです。

投稿: befu | 2006年6月28日 (水) 02時12分

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