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2006年5月27日 (土)

拒食症

2006年5月27日 雨

『Top of the world』などの世界的なメガヒットをとばしたカーペンターズのボーカル、カレンさんは32歳という若さで亡くなりました。(1983年2月4日)原因は拒食症(Anorexia Nervosa:神経性食思不振症)と呼ばれる、食事を摂らず、あるいは、食事を摂った後、意図的に嘔吐したりする事で体重減少を得ようとする病気にて「心停止した」ということです。

ここ数年で私が初診し診断した患者さんが数例おり、実質的に増加の傾向があるものと感じています。ここでは、病気の一般的事項と診断などについて触れますが、治療に関しては高度に専門的知識を必要とし、経験のある医師そしてスタッフがそろった施設でないと不可能であるため深くは触れない事とします。

いつもながら...小児科の教科書はNelson 16th ed.です。
The incidence of anorexia nervosa (AN) and bulimia has increased over the last 2 decades. It is esitimated that 1 in every 100 females, 16 - 18 yr old, has anorexia nervosa. A bimodal distribution occurs, with one peak at 14.5 and the other at 18 yr; 25% may be younger than the age of 13.
訳:神経性食思不振症と過食症の頻度はここ20年間増え続けている。16から18歳の女性100人に1人は神経性食思不振症をもっていると推計される。分布は2峰性で一つのピークは14.5歳、もう一つは18歳であり、25%は13歳以下で発症する。

DSM-Ⅳという精神疾患の診断基準では以下のようになっています。
(1) intense fear of becoming obese, which does not diminish as weight loss progresses;
(2)disturbance in the way in which one's body weight, size, or shape is experienced (e.g., claiming to "feel fat" even when one is emaciated or believing that one area of the body is "too fat" even when obviously underweight);
(3)refusal to maintain body weight over a minimal normal weight for age and height (e.g., weight loss leading to maintenance of body weight 15% below expected, failure to make expected weight gain during period of growth leading to body weight 15% less than that expected);
(4)in females, absence of at least three consective menstrual cycles when otherwise expected to occur (primary or secondary amenorrhea).
訳:
(1)過度の肥満に対する恐怖。これは、体重が減少してもなくならない。
(2)自分の体重や体の大きさ、形に対する感覚の障害。(例:やせ細って衰弱していても「まだ太っている」と訴えることや、明らかにやせているのに、体の中の一部分が「まだ太りすぎている」と信じているなど)
(3)身長や年齢から予測される最低限の標準体重を維持する事の拒否(例:標準体重の15%以下にまで体重減少が進む。その期間で増加が予測される体重増加の15%以下の増加となることなど)
(4)女性であれば、連続する3クールの月経が来ない、或は発来が予測される月経が来ない。(原発性あるいは二次性無月経)

Most youth are described as having been "model children" before the onset of the illness.
訳:病前は、ほとんどの子供が『模範的児童』と形容されるような子供である。

The death rate in AN is approximately 10% and is usually caused by severe electrolyte disturbance, cardiac arrythmia, or congestive heart failure in the recovery phase. Bradycardia and postural hypotention are common, with pulse rates as low as 20 beat/min. Both improve with nutritional therapy.
訳:神経性食思不振症の死亡率は約10%とされ、通常は重度の電解質異常や不整脈、回復期における「うっ血性心不全」が原因とされる。徐脈と体位性低血圧はよくみられ、脈拍が20/分程度まで減少する。どちらも、栄養管理による治療にて改善する。

Death from congestive heart failure is a late event and may result from unduly rapid rehydration and refeeding. On a regimen achieving a daily weight gain limited to 0.2-0.4kg, none of our patients has experienced this complication.
うっ血性心不全による死亡は過度な急速輸液や栄養負荷による晩期合併症である。1日の体重増加を0.2から0.4kgに制限した治療では、この合併症をおこした患者はいない。

以上が、神経性食思不振症の一般的特徴ですが、私のこの病気に対する感覚は『エネルギーのある病気』です。辛い(はずの...)食事制限を自分で課した上、通常であれば倒れてもおかしくないようなやせ、徐脈、低血圧でも、患者さんは平気な顔をして、ニコニコしています。だからこそ、治療が難しいということではないか?と思っています。治療は、前述の全身状態の改善と、食行動に対する行動療法がメインとなると思いますが....患者さんは「何故太らなくてはならないのか?」理解できないこともあります。その場合、カロリー摂取を控えた上(或は一旦食べたものをわからない形で吐いて)、日々の体重測定の時に、「コインを体に貼付けてのぞむ」というようなこともおこりえます。

ここまで書いてくると理解できると思いますが、治療に関しては経験のある医師が、経験のあるスタッフがそろった施設で慎重に行う必要があります。また、全体の死亡率が10%という高いものであるということを知っておかなければなりませんし、初期の徴候を見つける努力が必要と感じています。

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コメント

神経性食思不振症も扱ってられるんですか。これはまったくもって凄いと思います。私の狭い経験では一例だけ関わった事があります。関わったは大げさで触れた程度です。

当直にこの疾患の患者が服薬を拒否したと呼び出されて応対した経験です。あれやこれやと服薬するように言葉を尽くしたのですが、患者さんに逆に言いくるめられてしまい、最後は精神科のドクターに電話で泣きつく羽目になりました。

電話でタッチ交代して、ものの10分もしないうちに患者の表情が変わり、やがて「ウン、薬を飲む」と患者が言った時には正直たまげました。とうてい自分の手に負える性質の病気ではないと痛感した事だけは良く覚えています。

投稿: Yosyan | 2006年5月29日 (月) 15時33分

こんばんは
Yosyan先生

コメントありがとうございました。
<神経性食思不振症も扱ってられるんですか。
正確にいうと扱ってはいません。診断すれば、即座に専門の機関に連絡をとり可及的速やかに専門医のもとに行ける様にセットアップします。

ただ、今回週末にかけて一例初診にみえられて、BMI 13を割るような状態で、かつ比較的おとなしい患者さんでしたので、つなぎに入院していただきました。

この方も、専門医にご紹介させていただきました。

投稿: befu | 2006年5月29日 (月) 21時53分

 産婦人科医なので、時折拒食症で無月経を来した患者さんを見ることがあります。これほどやせると、なぜだかみんな同じような顔つきになってしまうし、皮膚は泥のような色だし、内診台にあげると、骨盤の形がむき出しになっているようなお尻で、恐ろしいくらいです。
もっと怖いのが彼女たちの認識のゆがみで、ひどい人になると「閉経になっているのでないのが分かれば、月経はこなくてもいい」と言い切ってしまう人までいます。ここまで歪んでいる人は少なくて、たいていは「なんとかして生理が来るようにしてくれ、子供が産めるようにしてくれ」と言ってくれますが、これが又難物。

産婦人科的にも拒食症は難敵です。

投稿: 山口(産婦人科) | 2006年6月 1日 (木) 20時06分

こんばんは
山口(産婦人科)先生

コメントありがとうございます。

神経性食思不振症は恐ろしくエネルギーのある疾患ととらえています。ボディーイメージの変化を代表とする、認識の変化、やせることにより得られる快感(いわゆるダイエットハイ)などが、そのエネルギーを後押ししています。

<もっと怖いのが彼女たちの認識のゆがみで、ひどい人になると「閉経になっているのでないのが分かれば、月経はこなくてもいい」と言い切ってしまう人までいます。

そこまでの認識の歪みが生じないうちに治療に導入できるといいのですが...ここでも、早期発見は必要であると考えます。

投稿: befu | 2006年6月 1日 (木) 21時58分

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