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2006年4月 2日 (日)

医療を裁くことの難しさ

2006年4月2日 雨のち晴れ
インターネットへの接続環境が得られずに、1日書けませんでした。

『医療での事故、過誤を裁く事の難しさ』について、国会での応酬を聞きながら考えてみたいと思います。この応酬は、ブログ内の『医療の限界』でも取り上げました、『福島県立大野病院産婦人科医不当逮捕』事件を取り上げたものです。この中で、杉浦法務大臣は『自分は弁護士出身であるが、医療訴訟についてはかなりの知識を要求され難しい案件については医療訴訟専門の弁護士に相談していた』という要旨の発言をされています。また、枝野議員の『案件を起訴するか?どうかについては、医療に関して余り知識の深くない検察官が決めているが?起訴するか?どうかを決める知識はどうやって入手しているのか?』との質問で、『文献など読んで対応している』との答弁でした。

医療の知識について考えますと、小児科医である自分からみても医療の知識は日進月歩で進んでおり、最先端の知識にずっとついていくのは大変で、100%追いついているとは到底言えない状況です。また、医療の世界はちょっと職人気質のところもあって、『この◯◯徴候という所見は、こんな感じだ!』という、体験しなければ得られない知識(いいかえると、紙の上に表現できない知識)もあります。こういった知識は、文献やその道の成書を読んだとしても得る事はできず、ドップリ臨床に浸かっていないと習得することはできません。

このように、医療の知識というのは非常に専門性が高く、もちろん、文献などで得る事が出来る知識もありますが、少なくとも一部は通常の生活(臨床にドップリ浸かっていない生活)では理解する事が難しいものであると思います。法曹界の方々は、もちろん非常に難度の高い司法試験に通って仕事をされている訳で、当然いろいろな勉強をされ、いろいろな知識を持ち合わせているものと思うのですが、ただ、医療の知識については前述した通りドップリ浸かっていないとわからない部分もありますので臨床医には追いつけないものと考えます。

さて、例えばある医療事故が起こって患者さんが亡くなられたとします。その出来事について、担当した医師に過失がありそうか?どうか?見極めて起訴するのは法曹界の『検察官』です。この検察官の方が、現在の一般的水準の『医療の知識』に照らし合わせて、『これは、どうみても医師に過失があるだろう』というものを、きちんと見極めて『この案件は起訴する』『この案件は起訴しない』としていただければ、医師も、そして患者さん側も納得できるでしょう。しかし、これまでの考察からは検察官の医療の知識については臨床医には追いつけないものと思われます。

ここが、『医療を裁く事の難しさ』であると思います。日本においては、医療過誤も司法が裁いていますが、『他の先進国では通常、「医療過誤を裁くための専門的機関」が設置されており、まずはそちらに案件がまわり、医師側に明らかな過失がある場合、また、その他の明らかな刑法違反がある場合などは司法において適切に処理する』という流れができているようです。

この国会のストリーミングの中で最後の方に、法務副大臣が出て来て私見を述べていました。その中で『日本では、弁護士には自己統率の機構ができているが、医師には自己統率の機構がない。そういった専門機関を作るべきだ』との要旨の意見が出されましたが、これが「医療過誤を裁くための専門的機関」を意味した一言なのか?わかりません。ただ、医師の間からはこういった機関を作る事を切望した声が聞かれます。→(新小児科医のつぶやき) (ザウエリズム)

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コメント

初めまして.私が形成外科を研修していた時、お師匠さんが、「百聞は,一見にしかず」「百見は一行にしかず」(後半はお師匠さんの造語)1回やってみたことがあることは、文献や本を1万冊読んだことに値するとおしゃっていました。最近私は、脊椎麻酔を自分がかけられるっという体験をしましたが、それこそ、自分では、1000回以上おこなっていたはずの脊椎麻酔って実はこうだったんだという発見がいくつもありました。だから、いくら優秀な司法の方が、多くの文献を読まれ、勉強したとしても,臨床のたった1回の経験なしには、その内容を経験した人とおなじように理解するのは、難しいのではないかと思うのです。

投稿: ますいかい@休職中 | 2006年4月 7日 (金) 23時01分

こんばんは
ますいかい@休職中さま

コメントをありがとうございました。
おっしゃる通りと思います。臨床では経験にまさる勉強はなく、法曹界の方々(一部の臨床を経験された上、法曹界に入られた方をのぞきますが...)より我々臨床家の方が医療をより深く理解していると考えます。

記事の中でも申し上げましたが、一番問題なのは『臨床の経験のない法曹界の方々が、医療事故を取り上げてこれは起訴する、これは起訴しないと決める事ができること』で、現行の制度では、より理解の深い、いわゆる一般の臨床医の意見が反映されないことであろうと思います。

先進国では、医療の法的問題はその道の専門機関で最初に審理するところが多い様です。日本も、早急にこういった機関を作る必要があるのではないでしょうか?

投稿: befu | 2006年4月 7日 (金) 23時34分

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