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2006年4月 8日 (土)

起訴困難となった条件

2006年4月8日 晴れ

『北海道立羽幌病院で2004年2月、女性医師(34)が男性患者=当時(90)=の人工呼吸器を外し死亡させたとして殺人容疑で書類送検された事件』で検察側は起訴困難との見通しを示した様です。愛媛新聞記事

当時のカルテを複数の医師が鑑定した結果、当時患者さんの血圧は著しく低く、いわゆるショック状態で、人工呼吸器を外しても、外さなくても数十分後には亡くなっていたとの見方を示したためといわれています。

当時の記事を調べると....
『調べでは、病院側は昨年2月14日午後、食事をのどに詰まらせ、心肺停止状態となった男性患者に人工呼吸器を装着した。その後、女性医師は「脳死状態で回復の見込みはない」と家族に人工呼吸器を外すことを提案。翌15日午前、人工呼吸器を外して男性患者を死亡させた疑いが持たれている。
 女性医師は調べに対し、「家族の負担も考えて(呼吸器外しを)相談した。合意は得ていた」と供述したという。
 道警は、神奈川県の東海大医学部付属病院事件の横浜地裁判決(95年)が示した「安楽死」の4要件などを基に、今回のケースが違法性を問われない「安楽死」に当たるかどうか、慎重に検討した。
 この結果、女性医師が他の医師の意見を聞かず、独断で人工呼吸器を外した▽本人の意思を確認せず、家族への病状の説明も不十分だった——などの点を重視し、殺意を立証できると判断した。』

この患者さんの状況を医師側からみると、
1.患者さんは90歳という超高齢の男性で体のすべての予備力が乏しくなっていた。(恐らく嚥下[飲み込む能力]障害もあった。)
2.食事をのどに詰まらせて、心肺停止状態となった。
3.適切な蘇生処置が行われ、蘇生に成功したが、低酸素による脳障害(恐らく脳幹部の障害)が起きて自発呼吸が停止した。
4.そのため、蘇生のために入れた気管チューブを抜かずに人工呼吸器を装着した。
5.脳幹部障害のため、vital sign(血圧、脈拍などの生命徴候)も不安定な『脳死』に近い状態であった。
6.再び病前の日常生活に戻ることはできない、それどころかあと数日あるいは数時間のうちに亡くなるであろうことを、臨床経験の豊富な主治医は読み取り家族へ説明する。
7.家族からの強い希望もあり、人工呼吸器のスイッチを切った。
という状況であったのではないかと思われます。

全ての情報を信用していいのか?は別として、当時の記事から見ても、これだけの事が読み取れます。医師側からすると、『仕方がなかった...』でも、『不用意だった』としかいえません。『横浜地裁判決(95年)が示した「安楽死」の4要件』にしても、『本人の意思を確認する』必要性を指摘しており、このような突発的に起こった事例で『本人の意思』を確認できない場合は、この行為は『法的に擁護されない』という認識がなかったのかもしれません。

『人工呼吸器を止めても、止めなくても、この患者さんは数十分のうちに亡くなっていたであろう』ということが、この事例での起訴困難となった条件ですが...今後は、『どのような状況で、どういう要件をクリアすれば医師が法的に擁護される尊厳死となるのか?』を、もっと明確にすべきだと思います。日本各地でこういう患者さんと対峙している医師はたくさんいて、これからもなくなることはありません。
きちんとした基準を作らない限り、懸命に患者さんと、その家族に尽くした医師が刑事的に起訴されるということが、これからも起き続けるでしょう。

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コメント

少し、ニュアンスが違いますが、呼吸停止のときに、家族に挿管の医師を確認するということは行われていますよね。これと、どの程度違うことなのか、どうしてそんなにニュースで騒がれるのか、私にはよく理解できないのです。

投稿: あらいぐま | 2006年4月10日 (月) 20時46分

こんばんは
あらいぐま先生

挿管する場合に、家族へ意思を確認する時間的余裕がある場合とない場合がありますが、挿管してレスピレーターを装着して、心拍が維持できている状態は患者さんが『生きている』状態です。自発呼吸がなくて、臨床的に『脳死』の状態(厳密に脳波やABRを評価したものとは違います)であったとしても、その状態からレスピレーターを外すというのが問題です。

今回の、羽幌などのニュースは、その部分で騒がれているものと思われます。

ただ、ガンの終末期など、家族や本人に告知がなされ、よくinformされた状態で『延命治療を希望しない』場合は、挿管しないで見守っていくのがスジだと思います。その場合に、本人の希望に沿わず、挿管、心マして心拍が戻り、あとの数日間から数週間、人工呼吸となれば、それはまた問題で、『エホバの証人』の信者に輸血をした事例と同じ扱いとなるかもしれません。

まとめると、『延命や救命のために挿管をしたならば、現在の日本の状況を考えると、仮に臨床的に脳死であったとしても、患者さんが「亡くなる」まではチューブを抜いてはならない。』ということになると思います。

投稿: befu | 2006年4月10日 (月) 21時41分

追記しますが...

決して、このような状況が『良い』わけではありません。医療者や患者さんの生の声を反映した、法の整備が進むことを期待しております。

投稿: befu | 2006年4月11日 (火) 08時35分

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