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2006年4月 6日 (木)

マイコプラズマ肺炎

2006年4月6日 晴れのち雨

当地域ではアデノウィルス感染症と同時にマイコプラズマによると思われる肺炎が流行中です。マイコプラズマ肺炎はMycoplasma pneumoniae:肺炎マイコプラズマという細菌とウィルスの中間みたいな病原体により伝播されます。

マイコプラズマ肺炎はいくつかの特徴をもっています。

1つは、『市中肺炎』(入院していない健常人に起こる肺炎)のうち、かなりの割合を占めていることです。

2つ目は、『非定型肺炎(異型肺炎)』の像を示すことです。ここで、定型肺炎というのは細菌の感染により起こる肺炎とされます。定型肺炎は症状の重症度や聴診所見とレントゲン上の所見が、ある程度、相関します。非定型肺炎は発熱、咳はあるのですが元気はよく、聴診上もあまり雑音が目立ちません。『感冒』と診断してしまうこともあると思います。でもレントゲンを撮ると予想していたよりも所見がひどく、医師としては『だまされた』という感覚にとらわれる。そんな、肺炎です。

3つ目は、通常使用する抗生剤が効果を発揮しないことです。外来で使用する抗生剤は、感冒の一部に効果のあるセフェム系やペニシリン系の薬を使用します。(もちろん、発熱のある児、全てに使用するわけではありません)しかし、マイコプラズマはこういった系統の薬は全くといっていいほど効きません。

2番目と3番目の特徴から、ただの『感冒』と診断されやすく、通常の抗生剤を使用しても症状の改善がみられないことから、臨床医を悩ませることもある病気です。

的確に診断して、効果のある抗生剤(マクロライド系やテトラサイクリン系)を使用すれば、徐々に症状は改善してくることが多いのですが...最近は以下の問題が起こってきています。1.マイコプラズマの薬剤耐性(つまり、効果が期待できる薬を使用しても効かない性質)が進行しており、昔は第一選択薬であったエリスロマイシンなどの薬が効かなくなってきた。2.感染後にアレルギー反応としての胸膜炎(肺の外側で胸の内側の部分が炎症を起こし、そこに膿がたまる)を起こしたり、Stevens-Johnson症候群という全身の皮膚や粘膜がただれてしまう危機的な状況を起こしたりすることが本当に少数例ですが報告されています。また、極々まれに呼吸状態が急速に悪くなるARDS:成人呼吸窮迫症候群を起こすことがあり、この場合には救命できないこともあります。

このブログで繰り返し申し上げていることですが、医療には完全はありません。このような、よくみられる肺炎で感冒と間違われ、大抵は治っていく病気でも『絶対に治ります』とはいえないのです。医師としてできるのは、より的確に、より迅速に診断して、効果のある治療を施すのみです。

現在、複数の患者さんが入院されていますが...幸いなことに、薬が効いて症状が軽快してきています。『悪い方向に向かず、良かった』と心の中でつぶやいています。

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コメント

マイコプラズマは時に手強いですよね。診察だけで確定診断するのは難しいですし、迅速検査も子供相手に怪しい患者全員の採血検査をするわけにもいきませんし。

小児科医の先生方で第一選択薬をマクロライド系にしている先生が多いのも、理由は分かるような気がします。

マクロライド系はマイコプラズマ以外にも十分有効な薬なので、私も第1選択薬にしたいのですが、難点はマズイこと。クスリ嫌いのお子様は日に日に増えていますので、しがない開業医ではできるだけ「マズイ薬をだすセンセイ」の評判は避けなければならないので頭が痛いところです。

そうそう最悪なのはX-pなども含めてマイコプラズマ(異型肺炎)の診断を下しても、頑としてマクロライド系を飲まない患者さん。母親にはできるだけ頑張るように言うのですが、結局服用できずに入院となる事があります。

ずるいですが、そこからの強力な服薬指導はスタッフ豊富な病院におまかせしています。一回入院すると次からは必死で服用させてくれるので、教育としての入院という側面はあるのかなと思ったりもしています。

入院先のスタッフの皆様、本当にゴメンナサイ。

投稿: Yosyan | 2006年4月 7日 (金) 13時27分

こんにちは
Yosyanさま

コメントありがとうございます。マクロライド系抗生剤での御苦労、小児科医として充分すぎるほど共感できます。

当院でも、内服で効果のみられない患者さん、そして一部の内服できない(というより、頑として飲まない)患者さんが入院となっているようです。

服薬コンプライアンスやルート確保時の苦労は、小児科にとって大きな問題となりますね...

投稿: befu | 2006年4月 7日 (金) 15時54分

マイコは結構疑うまでに時間をかけてしまうことがあります。すぐにマイコ!?と思えない勉強不足の自分が悲しいところです。もっと勉強しなくちゃと、気ばかり焦ってしまいます。

投稿: あらいぐま | 2006年4月 9日 (日) 14時51分

こんばんは
あらいぐま さま

コメントありがとうございます。
百戦錬磨の小児科医にとっても、マイコは手強い疾患の一つで、他に情報(例えば、地域的に流行しているなど...)がなければ初診時に『これはマイコプラズマ肺炎だ』とはなかなかいえないものです。

私も、発熱のはっきりしない咳の続く例で、胸写を撮ったら『あらま...』ということは、まだあります。しかし、その一つ一つがとっても大事な臨床上の経験となって自分の臨床力を支えていきます。

<すぐにマイコ!?と思えない勉強不足の自分が悲しいところです。もっと勉強しなくちゃと、気ばかり焦ってしまいます。
そうですね、自分も悲しく、そして焦って来た人間です(特に研修医のあいだは...)。でも、そう思えるから臨床医として成長しますし、次回からの『糧』になると考えます。

投稿: befu | 2006年4月 9日 (日) 23時50分

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