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2006年4月26日 (水)

マスコミというフィルタ

2006年4月26日 曇りのち雨

フィルタ(filter)という言葉を辞書でひもといてみると....

「1 濾過器。濾過装置。
2 スペクトルのある範囲だけを取り出す装置。色ガラス板・色素溶液などを用いることが多い。濾光器。
3 電気回路などにおいて、特定の周波数範囲を通過させたり阻止したりする装置や回路。濾波器。
4 紙巻きタバコの吸い口に取り付け、ニコチンややにを吸着させるもの。
5 カメラで、撮影時にレンズの前あるいは後ろに置き、特定の条件に合う光のみを透過・吸収・屈折・拡散させるもの。色フィルターのほかに、フォグ・ロー-コントラスト・ソフト-フォーカス・多画面・偏光などのフィルターがある。 」

要約すると、「それを通す事により、通す前と違った特性を通したものに与えるもの」という事になると思います。

話は少し変わりますが、私たち医療者が患者さんに対して検査や、治療について説明をしますが....その説明の仕方によっては、同じ検査や治療であっても違った印象を受けると思います。一つ例をあげますと....

【小児科でよく行う『検査のための鎮静』についての説明です。】

1.「これから行う検査は頭部CTといって頭の中に出血や腫瘍等の病変がないかどうか写真にして確かめる検査です。お子様は、まだ小さいため、検査中に動いてしまい検査ができません。そこで通常、鎮静といって一種の麻酔剤を少量使って眠らせた状態で検査をします。この鎮静は麻酔剤ですので眠くなるのと同時に呼吸が弱くなる事があり、100%安全なものとはいえませんが、鎮静剤を使用した後は緻密な観察をして何か変化があれば呼吸を補助する等の対策をとろうと思っています。また私の経験上の話ですが、この鎮静剤で呼吸が弱まりすぎて何か処置を要したということは経験ありません。鎮静剤を使用してこの検査をお受けになりますか?」

2.「これから行う検査は頭部CTといって頭の中に出血や腫瘍等の病変がないかどうか写真にして確かめる検査です。お子様は、まだ小さいため、検査中に動いてしまい検査ができません。そこで通常、鎮静といって一種の麻酔剤を少量使って眠らせた状態で検査をします。この鎮静は麻酔剤ですので眠くなるのと同時に呼吸が弱くなる事があり、100%安全なものとはいえません。他の施設では、別の鎮静剤でですが呼吸が止まってしまい大変な事になったという報告もあります。鎮静をした後は危険ですので、私がつきっきりで観察します。何かあればすぐに対処します。鎮静剤を使用してこの検査をお受けになりますか?」

1.と、2.は同じ内容の処置を説明しており、途中までと最後は一緒の文言です。でも、読まれた方は恐らく違った印象を受けるのではないかと思います。(尚、この説明はこの記事のためにかなり脚色して作っており、実際に私が仕事で使用している内容とはかなり違ったものである事を付け加えておきます。)このことから導きだされるのは、同じ内容を同じ人が説明しても、受け取られる印象はかなり違う事があるという事です。

ここで、マスコミが一つの事象を報道する場合を考えてみます。例えば、「F県にあるF県立O病院の産婦人科で、どうしても帝王切開で産まなければならない妊婦さんを帝王切開で出産させたところ、運悪く術前に予想する事がほとんど不可能な大出血を起こす病態であった。その執刀医は最善を尽くしたが残念ながら、母児ともに助からなかった。のちにその執刀医は業務上過失致死という罪状で逮捕された。」という事象を、「F県警は◯月◯日、平成●年×月◯日に行った帝王切開手術で術中の大量出血により当時●歳女性及び胎児を失血死させた業務上過失致死にてF県立O病院の産婦人科医師を逮捕した。」としか報道しませんし、タイトルには「F県立O病院医療ミスで逮捕」というような人を魅き付けるような題がつきます。深くを知らない一般の読者には、「この医者は悪いやつだ!」というような感覚が残ると思います。

なぜ、マスコミを通すと真実とはかけ離れた印象をあたえるのか?これが、まさに今日のタイトルの「マスコミというフィルタ」です。マスコミは真実をすべて修飾せずに伝えている訳ではありません。また、すべてを伝える事など最初から不可能なのです。私たち、マスコミから情報を得るものたちは、その点をよく理解して報道の内容を受け取る必要があります。ものごとを受け取る時には「ちょっと待てよ、この理解でよいのか?」と考える癖をつけることが「マスコミというフィルタ」に惑わされない手段になると思います。

追記です。このブログ弁護士のため息:刑事弁護についてのQにもマスコミとのつきあい方について貴重な御意見が書かれています。

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コメント

マスコミは自らの事を「社会の木鐸」と自負します。社会の木鐸の解釈にはやや幅がありますが、一般には社会が間違った方向に進みそうな時、木鐸を鳴らして警鐘する役目であると考えればよいかと思います。

木鐸を鳴らすには当然ある一定の基準が必要です。問題はその基準を誰がどういう風に決めているかです。この基準は憲法で決まっているわけではありません。国会で決められたものでもありません。有識者会議みたいなものでもありません。一マスコミ社員が自分の考えで決めているのです。

マスコミは私企業です。社会の公器とも自称していますが、一皮剥けば利益追求集団です。マスコミの利益とは新聞社なら一人でも購買者が増える事、テレビなら一人でも視聴者が増える事です。それが最大の目的で、その目的を追求しているといえます。

目的達成のためには購買者、視聴者が買いたいような、見たいような報道をする事が最重要になります。つまり購買者、視聴者に迎合するものが望ましい事になります。従って嫌がられても正論を書くという事は例外的というか、珍事に近いことになります。

マスコミにとって医療の扱いは関心の低い分野ではないかと思います。関心の低い分野での記事にはさして力は入れていません。力を入れないというのは、間違っても嫌がられる正論記事は書かず、純粋な迎合記事以外出てこないという事です。

医療におけるマスコミの木鐸基準は極めて単純です。医者は常に悪玉であり、事故は医療界挙げて隠蔽する体質である。患者は医療の権力に泣き寝入りする弱者であり、善玉である。医療裁判はすべて真相では医者が悪く、患者が負けるときは医者の隠蔽体質を突き崩せなかった悲運であると。

このステレオタイプのスタンスからはみ出す事はまずありません。そうする事が購買者、視聴者の関心を惹きつけますし、反感を買うような敗訴した患者を叩く事は決してしません。

私のマスコミへの感想は、日本には社会の木鐸に相応しいマスコミはなく、せいぜいイエロージャーナリズムに毛の生えた程度であると思います。

投稿: Yosyan | 2006年4月27日 (木) 14時21分

こんばんは
Yosyan先生

いつも、的確なコメントをありがとうございます。そうですね、考えてみれば当たり前の事で、マスコミは大衆迎合なんですね。「骨のあるジャーナリズムはマスコミにはない。」とするべきでしょう。

投稿: befu | 2006年4月27日 (木) 21時23分

マスコミは大衆迎合と言っても良いですし、多数派に阿ると解釈しても良いと思います。医療問題で常に医者が叩かれるのは医者が少数派であるとひがんでも良いと思います。

患者に較べれば医者なんて微小なほどの少数派ですし、医者が不買運動をしても影響力は無に等しいです。さらに言えば少数派の声を抹殺する権利も握り締めています。

それでもマスコミ対策は重要です。先生も含めてマスコミの報道に憤慨している者は多いです。マスコミを敵視している医者も多数います。

しかし何のかんのと言っても世論はマスコミに誘導されます。マスコミにある程度公平な報道をしてもらおうと思えば、医者を支持する声を少数派であっても無視できない勢力にする必要があります。

そのための手段としてWEBがあると思います。ここは既製のマスコミの手が及び難い分野です。先生も含めて医者がブログを書く事で、医者を身近に感じる人は増えていると思います。

マスコミの扱いが変わるようにするには、こういう地道な努力の積み重ねで支持勢力を増やす事が肝要かと思います。

ただし道は遠そうですが・・・

投稿: Yosyan | 2006年4月28日 (金) 15時04分

こんばんは
Yosyan先生

<そのための手段としてWEBがあると思います。ここは既製のマスコミの手が及び難い分野です。先生も含めて医者がブログを書く事で、医者を身近に感じる人は増えていると思います。

ありがとうございます。
このブログは、根底のテーマとして『医療の不確実性』というものをなるべくわかりやすく、みていただこうという趣旨でやっているつもりです。医師は神様ではない、医療に100%はありえない。そして、医師は神に近づくため努力をしている。ということを少しでも多くの方にわかっていただければと思っています。
(PS 私は『神』ということばを多用しますが、あまり信心深いわけではなく、信仰もありません...)

投稿: befu | 2006年4月28日 (金) 21時55分

こんばんわ
TBしたら、なぜか同じものがふたつ行ってしまいました。お手数ですが、ひとつ消していただくとありがたいです。
この朝日の社説の大衆迎合ぶりはひどいですねー。

投稿: 最凶 | 2006年5月17日 (水) 00時21分

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» 子どもは不死身か?その2 [出もの腫れもの処嫌わず]
 メディアにとって子どもや産婦ってのは、まさに健康とハッピーのシンボル。だからそれに死のイメージがまとわりつくことは、すごーく嫌ってるよーに見えるぞ。CMやドラマなんかの扱いはまさにそーだし、それが極端になったのがハリウッド映画で、子どもが死ぬシーンなんてめったに無いもんね。  で、なんでこーなるか考えてみると、その方がメディアにとってトクだからに違いない。だってだれもが無条件に健康でハッピーな感覚を抱いてくれるイメージがあれば、人々の意識をコントロールできるから。たとえば、ある商品をこーゆーイメー... [続きを読む]

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» 朝日新聞社説を嗤ふ [出もの腫れもの処嫌わず]
 以前、「ガン患者$ミリオネアという言葉を創った男」さんとこで、当ブログをご紹介いただいた時、最凶を桐生悠々という戦前のジャーナリストに例えていただいちゃったんだけど、何者だかよく分からなかったんだな。どーやら岩波文庫で伝記が出ているらしいので、陶器市にお客が来ていない間に読もうと思って図書館で借りてきたら、あまりにお客が来ないんで、しっかり読み込むことができましたよ。とほほほほ。    ま、関心のある人は本を読んでもらうとして、「ミリオネア…男」さん(勝手に略してすいません)に例えられたことが、恥... [続きを読む]

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