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2006年4月28日 (金)

発熱と解熱剤

2006年4月28日 晴れ

昨日は国会の参考人質疑をみて、涙が出そうになりました...。


さて、今日は「発熱と解熱剤」について考えてみます。


まずは、発熱の定義ですが、発熱:pyrexia, feverは「病気などで体温が異常に高くなる事」とされます。通常、体温が37℃以上は「熱がある」されますが、特に幼弱な小児では環境に体温が左右されやすく37.5℃以上で「明らかな発熱」としています。


さて、発熱の原因ですが...これはいろいろなものがあります。一番最初に頭に浮かぶのは、感染によるものです。感染とは何らかの病原体(注1)が体の中に侵入した状態で、体はそれを排除するために免疫反応を起こしますが、その過程で発熱するものです。その他、自己免疫性のもの(注2)、腫瘍が関係するもの、環境温度が高いために体温が高くなるもの(注3)、悪性高熱や悪性症候群とよばれる筋肉が異常に収縮して高体温となる状態などが含まれます。


(注1)いわゆるバイ菌です。
(注2)自分をあたかもバイ菌のようにみなして免疫反応がおこるもの;膠原病といわれるものはこの中に入ります
(注3)軽いものは「うつ熱」といわれますが、体温の制御中枢がやられて異常に体温が上昇するものは熱射病ともよばれ、致死的となります

また、発熱の中でも一番多いのは感染症に伴うものと思われますが、その発熱の意味について考えますと...前述した通り「バイ菌を排除するための免疫反応が起こり、その過程で発熱する」というものです。体の中で、バイ菌と戦う能力を増すために発熱しているとも考えられます。
それを、説明するために私がよく用いているのが「低体温療法(脳低温療法)」です。「溺水にて心肺停止状態で搬入された」などの非常に重症で厳しい転帰が予想される児などに対して行われる、この治療は「脳を保護するため」の治療です。血圧や心拍などの厳重なモニター下で人工的に体温を下げて、35℃ぐらいに維持します。急性期を乗り越えるまでこれを続け徐々に復温するといったものですが、これを行うと免疫力が非常に落ちます。治療中に肺炎等の感染症が重篤となり、それが原因となって亡くなる事もあるとされています。
つまり、「発熱すべき時に体温が下がると免疫力は落ちて感染症が治りにくくなる。」といった考え方ができるかもしれません。(すべてがこれに当てはまるとはいえません...)


一方、昔からよくいわれている事に「高熱が出ると頭がおかしくなる」といったものがあります。この言い伝えはどこからでてきたのか?定かではありませんが、発熱するものの中には「脳炎」や「化膿性髄膜炎(注4)」などの神経学的後遺症(注5)を遺すものがあり、昔の診断技術では正確に診断できなかったこれらの病気で、発熱したのち知能の障害をきたした患者さんがいたということなのではないかと思われます。通常は、「発熱だけでは頭はおかしくなりません、ただし42℃以上の発熱や脳や脳の周りにバイ菌が直接入った場合はそうではありません。脳や脳の周りにバイ菌が入った場合は通常、発熱とは別のけいれんや意識がおかしいなどの症状がみられることが多く、通常の会話ができている場合はあまり心配はいらないのではないかと思っています。」という趣旨の説明をして理解いただいています。


(注4)細菌が脳の外側を包んでいる髄液という液体のところに入る状態
(注5)難聴や知能の障害、てんかんなどを含む後遺症です


解熱剤を使用するべきか否か?ですが、発熱のみで食欲や元気にあまり影響していないようであれば使用すべきではないと思われます。ただ、発熱すると子供はたいてい食欲がおち、水分摂取量も落ちてきます。(そうでない患者さんもいっぱいいます)発熱するということは、必要とする水分の量も増える事であり、まったく水分を摂れない状態は余り良い状態ではありません。この時に、解熱剤を使用すると状況が好転することがあります。そういった場面で使用するのは良い事であると考えています。


次は解熱剤は何を使用すべきか?が問題となります...
日本小児科学会の提言では、 以下ちょっと長いです。


「インフルエンザに関連しておこる脳炎・脳症に対するジクロフェナクナトリウム及びメフェナム酸の使用について、本学会の見解は以下のとおりである。

 1999、2000年のインフルエンザ脳炎・脳症研究班(森島恒雄班長)の報告では、解熱剤を使用していない症例でもインフルエンザ脳炎・脳症は発症しており、その死亡者が5分の1を占めているところから非ステロイド系消炎剤が脳炎・脳症を引き起こしていることは証明されていない。
 しかし、1999年のデータに比して2000年のデータではインフルエンザ脳炎・脳症が発症した場合の致命率についてはジクロフェナクナトリウムは有意差を持って高くなっている。一方、メフェナム酸に関しては2000年の調査でははっきりした傾向は認められなかった。
 また、他の非ステロイド系消炎剤の使用については、調査症例数が少なく、現段階でその関連性が明確になっていないので、さらに調査が必要である。
 一般的に頻用されているアセトアミノフェンによる本症の致命率の上昇はなく、インフルエンザに伴う発熱に対して使用するのであればアセトアミノフェンがよいと考える。
 以上より一部の非ステロイド系消炎剤はインフルエンザ脳炎・脳症の発症因子ではないが、その合併に何らかの関与をしている可能性があり、インフルエンザ治療に際しては非ステロイド系消炎剤の使用は慎重にすべきである。
 今後も本症の原因を含めてさらに研究班の継続した調査を要望する。」


ということで、以前は結構使用されていたジクロフェナクナトリウム、メフェナム酸については基本的に小児の解熱剤に使用すべきでないとの勧告が”この後”提出されています。また、アスピリンについてはReye症候群という、脳症+肝機能障害で致死率の高い病気の発症との関連がいわれており、小児では「川崎病」以外では使用されなくなっています。小児の解熱剤はアセトアミノフェンを使用する。これが、現在の標準となっています。

追記です。

ジクロフェナクナトリウムはボルタレンなどの商品名。
メフェナム酸はポンタールなどの商品名。
アスピリンはバファリンやバイアスピリンなどの商品名です。(注:市販の小児用バファリンはアセトアミノフェンが主成分であったと思います。)

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コメント

バイト先には、鼻水をたらしてのどの赤いこともがよく来ます。大体、医師が日替わりなので、全医はバナンを出していることが多いのですが、私はそれを切ってしまうことがいいです。のどがあまりにも赤いときは、溶連菌を疑って結構頻繁に培養を取ったほうがいいのでしょうか?その結果が出るまではペニシリン系でいいのでしょうか?
ご教示ください。

投稿: あらいぐま | 2006年5月 3日 (水) 21時01分

こんばんは
あらいぐま先生

コメントありがとうございます。

溶連菌感染症は感染後2週間程度が溶連菌感染後急性糸球体腎炎を起こす事が稀にあり、AMPCなどのペニシリン系薬を10日間内服していただくことが多い病気です。
現在は、ストレップAテストなどの迅速検査があり、疑えば咽頭から迅速で検査提出し20分程度で結果が判明しますので、投薬の是非を決めています。
ただ、先生も御存知と思いますが、healthy carrierなどの問題もあり、全例に長期内服をすすめるのか?には異論もある様です。

溶連菌感染症の「のど」は見慣れてくると、「これはあやしい」という所見がわかるようになりますが...最初は軟口蓋の著しい発赤があれば、検査を提出するようにしていればよいと思います。

咽頭炎で発熱を伴う時には、私もペニシリン系をファーストチョイスとしています。ただ、当たり前ですが10日間は出しません。せいぜい3日間で発熱が持続すれば再来する様、指導しています。

また、IM(伝染性単核球症)では、ABPCを使用するとアレルギー反応により症状の悪化を来す可能性があります。よって、顔面の浮腫、頚部リンパ節の腫大、扁桃の膿苔付着などを認める場合は、ABPCを含む抗生剤(例えばSBT-PC:ユナシンなど)の投与は控えています。

投稿: befu | 2006年5月 3日 (水) 22時39分

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