« 警察という組織 | トップページ | 診療録 »

2006年4月18日 (火)

気管支喘息

2006年4月18日 晴れ

今日は気管支喘息についてです。

気管支喘息という病気をNelsonという小児科の教科書で調べてみると。

There is no universally accepted definition of asthma, it may be regarded as a diffuse, obstructive lung disease with (1) hyperreactivity of the airways to a variety of stimuli and (2) a high degree of reversibility of the obstructive process, which may occur either spontaneously or as a result of treatment.

(訳)気管支喘息について普遍的に受け入れられている定義はないが、おおよそ以下の特徴を満たすものである。(1)様々な刺激に対して気道の過敏性を持つ閉塞性の肺疾患で(2)その閉塞機転が自然にあるいは治療によって可逆的であるもの。

ここで、ヒトが呼吸するところを考えてみます。鼻あるいは口から、外の空気を吸います。それは、のど(咽頭、喉頭)を通って、気管に入ります。気管は胸の中で左右の気管支に分かれます。そこから肺に入るのですが、更に分岐(二つに分かれる事)を繰り返して最後は小さな小さな肺胞という風船に入ります。この肺胞で、外の空気から酸素を血液中に取り入れて、体で不要になった二酸化炭素などを外に出しているのです。肺胞以外の、気管支などでは酸素を取り入れたり、二酸化炭素を外に出したりはできません。

気管や気管支で空気が通りにくいと、肺胞に空気が達しにくくなるため、苦しくなり、最悪の場合は窒息します。気管支喘息の定義の中で「閉塞機転」ということばがでてきますが、これは気管支や更に分岐した細気管支が細くなるという事です。気管支、細気管支が細くなれば、空気が通りにくくなり苦しくなります。これが、気管支喘息の発作です。

「過敏性を持つ」というのは、例えばカゼをひいたときなどの気道に炎症があるときや、気温の変化、強い臭いなどの刺激がある時に発作が起こりやすいという事です。「可逆性」ということは、発作が起こっても治らない訳ではなく、発作がないときには普通にしているということであり、さらに再び繰り返すという事でもあります。


可逆性があって、発作のないときには普通にしていることから、以前は『気管支の周りに付いている気管支を細くするような筋肉がけいれんを繰り返しているだけの病気』ととらえられていて、気管支を細くさせる筋肉を緩めるくすりを長期に飲めば治っていくと思われていました。しかし、よくよく調べてみると、気管支の壁に慢性の炎症があり、この炎症が気管支の『過敏性』を生じさせているとわかってきました。そして、気道の炎症をとる治療が導入され、かなりの効果を上げています。おかげで、喘息のコントロールは飛躍的に簡便になってきました。

症状は、咳、喘鳴(ゼコゼコ)、呼吸困難、陥没呼吸(息を吸っている時に胸がペコッとへこむこと)、頻脈(脈が速い)、多呼吸(呼吸が速い)、チアノーゼ(唇の色が紫になる)、意識障害(眠り込むあるいは暴れて手がつけられない)などで、重症になると喘鳴は消えてきます。最重症の状態では、呼吸停止や心停止することがあり、喘息死につながる事もあります。
最重症の状態の場合は呼吸補助をしないといけませんが、病気本来の性格として気管支の過敏性をもっているため、気管内にチューブを入れると更に発作がひどくなり、換気(空気を入れたり出したりすること)できなくなる事があります。これを特に『気管支痙攣』といって、非常に恐ろしい状態です。救命しようとして気管にチューブを入れても症状が更に悪くなるという、逆説的な動きです。このおかげで、助けられない患者さんもいます。

慢性期の治療は、気管支を拡張する薬のβ刺激剤、キサンチン製剤(テオフィリン、アミノフィリンなど)、また、アレルギーを抑える薬のクロモグリク酸ナトリウム、ロイコトリエン受容体拮抗剤などと吸入ステロイド剤を組み合わせて使用しますが、発作時には必要に応じて酸素投与、抗生剤やステロイド静注、β刺激剤の吸入を組み合わせて使用します。重症時にはイソプロテレノール持続吸入という治療を行いますが、これでも発作が頓挫せず進行する場合は気管内にチューブを入れて人工呼吸を行います。

吸入ステロイド剤ができてから、気管支喘息の治療は長足の進歩をとげました。以前は非常にコントロールが悪く、長期に入院を余儀なくされて来た患者さんもお家に帰る事ができるようになりました。ステロイドと聞くといろいろな情報を知っている方は、『いろいろと副作用がある薬だ』と思われるかもしれませんが、吸入ステロイドは全身の副作用はほとんどみられずに使用できます。以前の内服のステロイドとは全然違います。この吸入ステロイドを使用する事により、気道の炎症が消えて、発作が起こりにくくなるのではないか?と考えられています。

一方、喘息による死亡はなくなってはいません。赤ちゃんで喘息の発作を起こす事がありますが、これが喘息の発作だと気付かれず、発作が進行してしまうものと、思春期になったとき喘息を軽く見てかかってしまい、服薬や吸入を守らず、急速に呼吸困難が進行するものと2つの喘息死のピークがあるとされています。教科書的には、『100%という訳ではないが、ほとんどの喘息死は適切なケアで防げる』といわれます。特に、重症の発作を起こし意識不明となったことがある患者さんなどは死亡する可能性が高く、綿密なフォローが必要とされます。患者さん、そして家族への教育は重要です。

|

« 警察という組織 | トップページ | 診療録 »

コメント

子供の頃、小児喘息で苦しみました。でも、大きくなるに従って治りました。原因はいろいろあるんでしょう。

それから、話変りますが、リンクさせて頂きました。

投稿: 流風 | 2006年4月19日 (水) 17時28分

こんばんは
流風さま

コメント及びリンクしていただきありがとうございました。

<子供の頃、小児喘息で苦しみました。
大変だったですね。私は、喘息をもっていませんが、発作時の辛さは、見ているだけで辛いものです。

さて、小児喘息は成人のものとは、少し違う病気ではないか?と考えられる事もあります。その一つに、年齢とともに軽くなっていく(医療の世界では『年齢依存的に軽快していく』といいますが)傾向があることです。どうしてこういう事が起こるのか?これははっきりとはわかっていませんが、そこまで重症でない小児喘息の患者さんは、およそ中学生ぐらいで、発作が起こらなくなることが多いといわれます。これを、out-growといいますが、成人発症の気管支喘息にはこういった傾向があまりみられないようです。

流風さまの<大きくなるに従って治りました。
というのはまさに、このout-growであると思います。

投稿: befu | 2006年4月19日 (水) 20時49分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/101068/9652036

この記事へのトラックバック一覧です: 気管支喘息:

« 警察という組織 | トップページ | 診療録 »