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2006年4月

2006年4月30日 (日)

自分らしく生きる条件

2006年4月30日 晴れ 風が強い

京都新聞という地方新聞の社説の中で終末期医療の緊急アンケートの結果について論じたものがありました。

<日本には延命治療をどのように開始し、どのようにやめるのか明確なルールはない。現場の医師は殺人容疑をかけられるリスクに常にさらされているといえる。この基準の分かりにくさとリスクは「安楽死」が密室的な状況で行われる背景となっている。

ここが、問題です。拙ブログでも尊厳死について記事を書いていますが、その中でもこの点を指摘しています。
起訴困難となった条件
尊厳死報道に感じる事

<個人の責任も大きい。かかりつけの医師や家族と万一の時の対応を話し合って自らの意思を示しておくことが最期まで自分らしく生きることにつながる。日ごろから死と向き合う心構えを持ちたい。

自分にとって「生きている」ということはどのような状態か?重症の頭蓋内出血(注1)で人間らしい営みをしていくために必要な大脳(注2)の機能が停止し、戻らない状態は自分にとって「生きている」といえるのか?更に、人工呼吸器がなければ自分で呼吸できない状態は自分にとって「生きている」状態なのか?このようなことに答えを持っていることは良い事です。
現在の日本の法制度からは、「延命治療の導入」の是非を決める事ができても、「延命治療の中止」については決める事ができません。そして、一旦はじめられた人工呼吸は心停止に至るまで止める事はできません。病前に自分の意志を示しておく事が「自分らしく生きる」ことに必要な条件となるでしょう。

注1:脳出血やくも膜下出血のような、頭蓋骨の中で起こる出血
注2:思考、言葉、運動、精神などの座と思われる人間の脳のうち一番大きい部分

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2006年4月28日 (金)

発熱と解熱剤

2006年4月28日 晴れ

昨日は国会の参考人質疑をみて、涙が出そうになりました...。


さて、今日は「発熱と解熱剤」について考えてみます。


まずは、発熱の定義ですが、発熱:pyrexia, feverは「病気などで体温が異常に高くなる事」とされます。通常、体温が37℃以上は「熱がある」されますが、特に幼弱な小児では環境に体温が左右されやすく37.5℃以上で「明らかな発熱」としています。


さて、発熱の原因ですが...これはいろいろなものがあります。一番最初に頭に浮かぶのは、感染によるものです。感染とは何らかの病原体(注1)が体の中に侵入した状態で、体はそれを排除するために免疫反応を起こしますが、その過程で発熱するものです。その他、自己免疫性のもの(注2)、腫瘍が関係するもの、環境温度が高いために体温が高くなるもの(注3)、悪性高熱や悪性症候群とよばれる筋肉が異常に収縮して高体温となる状態などが含まれます。


(注1)いわゆるバイ菌です。
(注2)自分をあたかもバイ菌のようにみなして免疫反応がおこるもの;膠原病といわれるものはこの中に入ります
(注3)軽いものは「うつ熱」といわれますが、体温の制御中枢がやられて異常に体温が上昇するものは熱射病ともよばれ、致死的となります

また、発熱の中でも一番多いのは感染症に伴うものと思われますが、その発熱の意味について考えますと...前述した通り「バイ菌を排除するための免疫反応が起こり、その過程で発熱する」というものです。体の中で、バイ菌と戦う能力を増すために発熱しているとも考えられます。
それを、説明するために私がよく用いているのが「低体温療法(脳低温療法)」です。「溺水にて心肺停止状態で搬入された」などの非常に重症で厳しい転帰が予想される児などに対して行われる、この治療は「脳を保護するため」の治療です。血圧や心拍などの厳重なモニター下で人工的に体温を下げて、35℃ぐらいに維持します。急性期を乗り越えるまでこれを続け徐々に復温するといったものですが、これを行うと免疫力が非常に落ちます。治療中に肺炎等の感染症が重篤となり、それが原因となって亡くなる事もあるとされています。
つまり、「発熱すべき時に体温が下がると免疫力は落ちて感染症が治りにくくなる。」といった考え方ができるかもしれません。(すべてがこれに当てはまるとはいえません...)


一方、昔からよくいわれている事に「高熱が出ると頭がおかしくなる」といったものがあります。この言い伝えはどこからでてきたのか?定かではありませんが、発熱するものの中には「脳炎」や「化膿性髄膜炎(注4)」などの神経学的後遺症(注5)を遺すものがあり、昔の診断技術では正確に診断できなかったこれらの病気で、発熱したのち知能の障害をきたした患者さんがいたということなのではないかと思われます。通常は、「発熱だけでは頭はおかしくなりません、ただし42℃以上の発熱や脳や脳の周りにバイ菌が直接入った場合はそうではありません。脳や脳の周りにバイ菌が入った場合は通常、発熱とは別のけいれんや意識がおかしいなどの症状がみられることが多く、通常の会話ができている場合はあまり心配はいらないのではないかと思っています。」という趣旨の説明をして理解いただいています。


(注4)細菌が脳の外側を包んでいる髄液という液体のところに入る状態
(注5)難聴や知能の障害、てんかんなどを含む後遺症です


解熱剤を使用するべきか否か?ですが、発熱のみで食欲や元気にあまり影響していないようであれば使用すべきではないと思われます。ただ、発熱すると子供はたいてい食欲がおち、水分摂取量も落ちてきます。(そうでない患者さんもいっぱいいます)発熱するということは、必要とする水分の量も増える事であり、まったく水分を摂れない状態は余り良い状態ではありません。この時に、解熱剤を使用すると状況が好転することがあります。そういった場面で使用するのは良い事であると考えています。


次は解熱剤は何を使用すべきか?が問題となります...
日本小児科学会の提言では、 以下ちょっと長いです。


「インフルエンザに関連しておこる脳炎・脳症に対するジクロフェナクナトリウム及びメフェナム酸の使用について、本学会の見解は以下のとおりである。

 1999、2000年のインフルエンザ脳炎・脳症研究班(森島恒雄班長)の報告では、解熱剤を使用していない症例でもインフルエンザ脳炎・脳症は発症しており、その死亡者が5分の1を占めているところから非ステロイド系消炎剤が脳炎・脳症を引き起こしていることは証明されていない。
 しかし、1999年のデータに比して2000年のデータではインフルエンザ脳炎・脳症が発症した場合の致命率についてはジクロフェナクナトリウムは有意差を持って高くなっている。一方、メフェナム酸に関しては2000年の調査でははっきりした傾向は認められなかった。
 また、他の非ステロイド系消炎剤の使用については、調査症例数が少なく、現段階でその関連性が明確になっていないので、さらに調査が必要である。
 一般的に頻用されているアセトアミノフェンによる本症の致命率の上昇はなく、インフルエンザに伴う発熱に対して使用するのであればアセトアミノフェンがよいと考える。
 以上より一部の非ステロイド系消炎剤はインフルエンザ脳炎・脳症の発症因子ではないが、その合併に何らかの関与をしている可能性があり、インフルエンザ治療に際しては非ステロイド系消炎剤の使用は慎重にすべきである。
 今後も本症の原因を含めてさらに研究班の継続した調査を要望する。」


ということで、以前は結構使用されていたジクロフェナクナトリウム、メフェナム酸については基本的に小児の解熱剤に使用すべきでないとの勧告が”この後”提出されています。また、アスピリンについてはReye症候群という、脳症+肝機能障害で致死率の高い病気の発症との関連がいわれており、小児では「川崎病」以外では使用されなくなっています。小児の解熱剤はアセトアミノフェンを使用する。これが、現在の標準となっています。

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2006年4月27日 (木)

産科の状況

2006年4月27日 雨のち晴れ
福島県立大野病院事件、無過失補償制度、そして、産科の現状を国会で議論されています。涙が出るようなお話です。


映像1
映像2

本当に、本当に産科医のみなさま、おつかれさまです。ただただ、状況が好転するのを祈るのみです。
この問題は、国家レベルの「喫緊」の問題です。この記事を御覧のみなさま、どうかこの問題に目をお向けください。

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2006年4月26日 (水)

マスコミというフィルタ

2006年4月26日 曇りのち雨

フィルタ(filter)という言葉を辞書でひもといてみると....

「1 濾過器。濾過装置。
2 スペクトルのある範囲だけを取り出す装置。色ガラス板・色素溶液などを用いることが多い。濾光器。
3 電気回路などにおいて、特定の周波数範囲を通過させたり阻止したりする装置や回路。濾波器。
4 紙巻きタバコの吸い口に取り付け、ニコチンややにを吸着させるもの。
5 カメラで、撮影時にレンズの前あるいは後ろに置き、特定の条件に合う光のみを透過・吸収・屈折・拡散させるもの。色フィルターのほかに、フォグ・ロー-コントラスト・ソフト-フォーカス・多画面・偏光などのフィルターがある。 」

要約すると、「それを通す事により、通す前と違った特性を通したものに与えるもの」という事になると思います。

話は少し変わりますが、私たち医療者が患者さんに対して検査や、治療について説明をしますが....その説明の仕方によっては、同じ検査や治療であっても違った印象を受けると思います。一つ例をあげますと....

【小児科でよく行う『検査のための鎮静』についての説明です。】

1.「これから行う検査は頭部CTといって頭の中に出血や腫瘍等の病変がないかどうか写真にして確かめる検査です。お子様は、まだ小さいため、検査中に動いてしまい検査ができません。そこで通常、鎮静といって一種の麻酔剤を少量使って眠らせた状態で検査をします。この鎮静は麻酔剤ですので眠くなるのと同時に呼吸が弱くなる事があり、100%安全なものとはいえませんが、鎮静剤を使用した後は緻密な観察をして何か変化があれば呼吸を補助する等の対策をとろうと思っています。また私の経験上の話ですが、この鎮静剤で呼吸が弱まりすぎて何か処置を要したということは経験ありません。鎮静剤を使用してこの検査をお受けになりますか?」

2.「これから行う検査は頭部CTといって頭の中に出血や腫瘍等の病変がないかどうか写真にして確かめる検査です。お子様は、まだ小さいため、検査中に動いてしまい検査ができません。そこで通常、鎮静といって一種の麻酔剤を少量使って眠らせた状態で検査をします。この鎮静は麻酔剤ですので眠くなるのと同時に呼吸が弱くなる事があり、100%安全なものとはいえません。他の施設では、別の鎮静剤でですが呼吸が止まってしまい大変な事になったという報告もあります。鎮静をした後は危険ですので、私がつきっきりで観察します。何かあればすぐに対処します。鎮静剤を使用してこの検査をお受けになりますか?」

1.と、2.は同じ内容の処置を説明しており、途中までと最後は一緒の文言です。でも、読まれた方は恐らく違った印象を受けるのではないかと思います。(尚、この説明はこの記事のためにかなり脚色して作っており、実際に私が仕事で使用している内容とはかなり違ったものである事を付け加えておきます。)このことから導きだされるのは、同じ内容を同じ人が説明しても、受け取られる印象はかなり違う事があるという事です。

ここで、マスコミが一つの事象を報道する場合を考えてみます。例えば、「F県にあるF県立O病院の産婦人科で、どうしても帝王切開で産まなければならない妊婦さんを帝王切開で出産させたところ、運悪く術前に予想する事がほとんど不可能な大出血を起こす病態であった。その執刀医は最善を尽くしたが残念ながら、母児ともに助からなかった。のちにその執刀医は業務上過失致死という罪状で逮捕された。」という事象を、「F県警は◯月◯日、平成●年×月◯日に行った帝王切開手術で術中の大量出血により当時●歳女性及び胎児を失血死させた業務上過失致死にてF県立O病院の産婦人科医師を逮捕した。」としか報道しませんし、タイトルには「F県立O病院医療ミスで逮捕」というような人を魅き付けるような題がつきます。深くを知らない一般の読者には、「この医者は悪いやつだ!」というような感覚が残ると思います。

なぜ、マスコミを通すと真実とはかけ離れた印象をあたえるのか?これが、まさに今日のタイトルの「マスコミというフィルタ」です。マスコミは真実をすべて修飾せずに伝えている訳ではありません。また、すべてを伝える事など最初から不可能なのです。私たち、マスコミから情報を得るものたちは、その点をよく理解して報道の内容を受け取る必要があります。ものごとを受け取る時には「ちょっと待てよ、この理解でよいのか?」と考える癖をつけることが「マスコミというフィルタ」に惑わされない手段になると思います。

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2006年4月25日 (火)

名医の条件

2006年4月25日 晴れ

巷には、日本の『名医』を集めて本にした書物があります。これをみると、確かに「その道の『名医』」の方々が名を連ねています。でも、「名医ってなんだろう」と根本から考え直してみました。今日は、いなか小児科医からみた、「名医とは何ぞや?」という私論です。

これからは、あくまで私見であり、少し偏った見方が入っているかもしれません。それを、ご考慮にいれてお読みください。

医師は神ではありません。これは拙ブログの医療の限界という記事でも書きました。死にゆく運命の患者さんを死なないようにすることは、現在の医療ではできませんし、亡くなった患者さんを生き返らせるようなこともできません。できるとすれば、患者さんが治る過程を補助してあげること、そして、患者さんに満足を与える事などではないか?と思います。

そこで、「名医とは何ぞや?」との設問に戻りますが、医療は不完全であり患者さんの生命を100%補償できるものでないならば、「名医」は「患者さんあるいは患者さんに近い方々に満足を与える事が出来る医師」という事になるのでないか?と思います。

満足を与えられる条件は、まずは医療技術が確かなことですが、高度に専門化した現代医療においては、自分一人では全てに精通するのは不可能です。ただ、症状やさまざまな検査から、その患者さんの病態を的確に判断し、また、数時間、数日、数ヶ月のスパンで患者さんがどうなっていくのか?をある程度正確に予測できること。そして、適切な専門医に紹介する事も含めた「適正な治療の道筋」をつけてあげることができる能力が必要です。また、治療においては、患者さん個々人の特性に応じて幅広く選択する事ができるよう、多くの選択肢をもっているべきです。

また、「医療の腕がすぐれていること」以上に大切なのは、人間性であると考えています。医療はとりもなおさず、病気で苦しんでいる人間をみる仕事です。苦しんでいる患者さんに対して、「何かをしてあげたい」と真摯に思える事、なおかつ患者さん側にそれが伝わる事が必要です。これは、例え「患者さんが亡くなる」といった時にも、当てはまります。そして、それは一般的にいう「治療」とは、少し違ったものとなるかもしれません。

以上、いろいろと考えてきましたが、名医は「その患者さんに対して満足を与える事ができ、例え患者さんが亡くなったとしても遺された方々に満足感を与える事ができる医師」といった事になるでしょうか?

でも、急激な経過であれよあれよという間に亡くなってしまった患者さんの遺族には、なかなか満足を与える事ができないものです。そう考えると、名医は神しかなれないのかもしれません。

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2006年4月24日 (月)

気道異物

2006年4月24日 晴れ
そろそろ、花粉症のシーズンも終わりとなります。最近、くしゃみが出なくなりました。

昨日に引き続いて、小児の事故に関する記事です。「気道異物」とは、喉頭(のど)から肺胞(実際にガス交換を行う、肺の中の小さな風船)までの、「通常空気しか通らない」部分に、空気以外のものが入った状態という事です。ほとんどは3歳以下の乳幼児に起こります。そして、入っている異物で一番多いのはピーナッツなどの乾いた豆類です。

症状は、異物誤嚥(あやまって気道に吸い込む事)直後は、激しい咳と呼吸困難がある事があります。それを過ぎるとほとんどの場合は、軽い喘鳴(ゼイゼイいう事)と軽い咳が続きます。その状態で1日から2日経つと、熱が出て来て、咳がひどくなるといったものです。誤嚥する場面を見ていない場合は、すぐには医療機関を受診せずに、熱が出て来て受診し、レントゲンを撮って「肺炎」とか「気管支喘息」などと間違われる場合があります。

また、ごく稀にですが...左右の気管支(左右の肺に入るために気管が分かれて2本の管になったもの)に分岐する前の所に異物がはまり込んでしまった場合、窒息して亡くなる事もあります。

さて、気道異物の診断は、「何かを吸い込んだ」という情報がある場合は比較的容易になりますが、その情報がない場合は前述のように、「肺炎」とか「気管支喘息」として見逃される場合があります。疑った場合は、レントゲンで吸気相(息をいっぱい吸い込んだとき)と呼気相(息を吐いたとき)の写真を撮ります。そして、呼気相で「本来ならばしぼんでいるはずの片方の肺がしぼんでいない所見」(ホルツクネヒト徴候)がみられると、診断に結びつきます。

治療はとにかく異物を取りにいく事です。しかし、この手技は非常に危険なもので、「臨床医としてできればこんなことをしたくない」と思うようなものです。通常、全身麻酔下に硬性気管支鏡という硬い筒状のチューブを異物があるところまで入れて、鉗子(ものをつまむ道具)で異物をつかんで気管支鏡と一緒に抜いてくるということをしますが、途中で落ちたりすると大変で、これも前述の「左右の気管支に分岐する前の所に異物がはまりこんだ状態」と同じになります。

異物が新鮮な時(吸い込んでから余り時間が経っていない場合)は、ピーナッツの場合でも豆が余り柔らかくなっていないので、鉗子でつまみ出す時にも崩れる事が少ないですが、数日経った場合はドロドロに溶けていてとれない場合もあります。その場合は、異物が介在している場所に難治性の炎症を起こして、更にそれを繰り返し最終的には肺化膿症となって、肺の一部を切除(肺の一部をとってしまうこと)しなければならないことも考えなくてはなりません。

うまく異物をとれた場合でも、硬性気管支鏡を数回出し入れする必要があり、その事によって喉頭(のど)がむくんで息ができなくなることがあります。よって数日間、そのむくみの危険性がなくなるまで、気管にチューブを入れた状態で人工呼吸する必要があります。

このように、気道異物の治療は非常に難しいものです。一旦、おこしてしまうと大変なことですので、予防につとめなければなりません。①4から5歳になるまで豆類は口にさせないようにする。②動いている車や飛行機など、急な動きがあると予想されるものに乗っているときには、豆類を口にさせない。③上に放り上げて口で受けるような食べ方などをしてみせない。などが対策として必要であると思います。

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2006年4月23日 (日)

不慮の事故

2006年4月23日 晴れ
今日は少しドギツイ話ですが、「小児の死因」について考えてみます。日本での、0歳児をのぞく、1歳から19歳までの小児の死因は「不慮の事故」です。この年齢層においては、病気で死亡する数よりも、事故で死亡する数が多いのです。この傾向は1960年以降続いている様で、他の先進国もほぼ同じ状況です。

Photo_1

そのうち、多いのが交通事故、溺死、窒息です。
なぜ、病気でなく事故なのでしょうか?それは、まだ日本が発展途上にあったころは、麻疹や肺炎などの感染症で失われていた生命を、現在ではかなりの割合で助ける(あるいは、感染症そのものを減少させる)事ができるようになったためであると考えられます。そして、この「不慮の事故」を少なくする事により、小児の死亡率を効果的に改善できます。

幼少時からの交通に対する教育、家庭内での事故防止策、窒息に対する啓蒙などが必要です。こどもの安全ネットワークジャパンのHPに参考となる資料が列挙されています。この中で、「ボタン電池」の誤飲の項では、「胃の中にボタン電池がある場合は48時間程度はそのまま観察してよい」とあります。私の勉強不足もあるのですが、ずっと「すぐに取り出すべきだ」と思っていました...勉強になりますので、是非御一読をオススメします。

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2006年4月22日 (土)

意思確認の方法

もう一つの新聞記事が目にとまりました。

延命中止など弁護士に委任(共同通信)で、「80代の女性患者2人が、自分で意思表示できなくなった場合に備え、延命治療中止を含む治療の決定権を弁護士に委任していることが22日、分かった。」との内容です。

これまで、尊厳死に関して「医師が殺人罪で起訴される、あるいは起訴寸前までいく」事件が複数起こってきています。そこで、問題点となっているのは、多くは「本人の意思確認をどうするか?」ということであると思われます。本人の病前の意思確認の方法として、これは有効なのか?今後を見守りたいと思います。

当ブログ内で尊厳死に関して記事にしたのは
起訴困難となった条件
尊厳死報道に感じる事です。

あらたな、カテゴリー[尊厳死]を付けました。

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小児科医とストレス...

2006年4月22日 雨
日本小児科学会が発表しようとしている(23日に金沢の全国会で発表する予定)小児科医と過労、ストレスなどについての研究の新聞記事がでていました。

「小児科医のストレスや疲労度は労働者の平均より高く、長時間労働や睡眠時間の短さがストレスと密接に関係していることが、日本小児科学会プロジェクトチームの調査で分かった。金沢市で開かれている同学会で23日発表する。
 医師のストレスに関する本格的な調査は初めて。社会問題化する小児科医不足の一因に過重労働があり、同学会は「週の労働時間を60時間以内とする」ことなどを緊急提言する。」

確かに、睡眠時間は少ないですが...ストレスには、それ以外の要素もあるのでは?考えますが....

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2006年4月21日 (金)

新型インフルエンザとワクチン

2006年4月21日 晴れ

Lancetと並ぶ、権威のある医学雑誌の一つNEJM(New England Journal of Medicine) Vol. 354 No.13の1343ページからにSafety and Immunogenicity of an Inactivated Subvirion Influenza A (H5N1) Vaccine(訳:不活化インフルエンザA(H5N1)サブビリオンワクチンの安全性と免疫産生性)という題の原著が載っていました。

注1:サブビリオンはウィルスの一部という意味で、ここではインフルエンザウィルスの全体をワクチンとして用いるのではなく、インフルエンザウィルスの表面にある「抗原」という部分のみを使用していること。これにより、ワクチンの副反応(望まない悪い反応)を抑制する事ができる。

途中は全て省いて、結論を示しますと...
A two-dose regimen of 90μg of subvirion influenza A (H5N1) vaccine does not cause severe side effects and, in the majority of recipients, generates neutralizing antibody responses typically associated with protection against influenza. A conventional subvirion H5 influenza vaccine may be effective in preventing influenza A (H5N1) disease in humans.
(訳:サブビリオンインフルエンザA(H5N1)ワクチンの90μg2回接種法は、重度の副反応を起こさず、接種を受けたヒトの大多数にインフルエンザに対する防御に関係しているとされる中和抗体を産生する。サブビリオンインフルエンザA(H5N1)ワクチンはヒトでのインフルエンザA(H5N1)を予防する効果があるものと思われた。)

注2:中和抗体...ヒトの血液中にある、その病原体から体を守る働きのあるタンパク質。

インフルエンザA(H5N1)は非常に危険な新興感染症です。インフルエンザはインフルエンザウィルスにより冬期に爆発的に流行する病気で、これまで、スペイン風邪やアジア風邪などで世界中に多数の死亡者を出してきました。この、インフルエンザウィルスは50年から100年に一度、ウィルス自体の大きな変化が起きて、それが流行し始めると、Pandemicと呼ばれる災禍が起こります。これが、スペイン風邪やアジア風邪と呼ばれる大流行です。

ここ、数十年インフルエンザはAソ連型(H1N1)とA香港型(H3N2)とB型が流行しており大きな変化はみられませんでした。しかし、最近になり、高病原性トリインフルエンザとして大きな変化をとげたウィルスが検出されてきており、トリからヒトに感染した患者さんが致命率の高い(死亡率が50%を超える)インフルエンザを発症して亡くなるといった事例が散見され始めました。そして、高病原性トリインフルエンザの原因ウィルスの一つが、このインフルエンザA(H5N1)なのです。幸いなことに現在は、トリからヒトへ感染したことだけが確認されており、Pandemicにつながる、ヒトからヒトへの感染例は確認されていません。しかし、WHO(世界保健機関)は「ヒトからヒトへの感染が起こるのは時間の問題だ」としており、早急な対策が求められています。

紹介した文献は、そのワクチンが作られて、その安全性と免疫を作る作用が確認されたというものです。この文献では、ワクチンを射って、中和抗体が血液中に作られるということを確認したもので、実際に新型インフルエンザを体に入れて病気が起きないか?、症状は緩和されるか?などを検討したものではありませんので、「100%効く」といえる訳ではありませんが、効果を期待できるといったものです。(実際にウィルスをいれて試験をするというのは、恐らく倫理的に許されないと思われます。)

この秋ごろには、接種が開始できるかもしれません。厚生労働省には「素早い対応」を期待します。

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2006年4月20日 (木)

異状死体とは

2006年4月20日 晴れ すごい風!

4月19日の日医白クマ通信で、唐沢新会長と木下常任理事の記者会見が掲載されていました。

「唐澤会長は、まず、医師が逮捕・起訴されてしまったことについて、「類似した事例と比較しても、大きな疑問を感じざるを得ない」と捜査当局の対応を疑問視。そのうえで、今回のように医師法第21条が拡大解釈され、捜査機関がいきなり捜査権を行使するような事態が全国各地で起きれば、医療現場に混乱が生じ、国民にも悪影響を及ぼしかねないとその問題点を指摘した。」

「今後の日医の具体的な対応については、木下常任理事が、(1)早いうちに会内に委員会を立ち上げ、医師法第21条の問題についての議論を開始すること、(2)委員会のメンバーには医療関係者だけではなく、司法の関係者にも加わってもらうこと—などを説明した。」

日医の行動が、少し加速されてきた感があります。

さて、医師法第21条は以下の条文となっています。
医師法第21条[異状死体等の届出義務]医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

この異状死体の定義については、現在、定まっておりませんが、二つの相反するガイドラインが示されている状況です。1.日本法医学会(山口大から)2.日本外科学会声明と十分な説明と同意が得られた上での診療行為により起こった死亡について見解は大きく分かれています。

異状死体の定義は法律上は現時点では決まっておらず、診療行為に基づいて起こった死亡については、これを異状死とするかどうか?議論の途上にあるものと思います。福島県立大野病院の事件で福島県警は、産婦人科医逮捕起訴の理由として「医師法21条違反」をあげています。そもそも、異状死体の定義が定まっていないのに、グレーゾーンの「診療行為により起こった死亡」が異状死であるとして、その届出義務を怠ったということで福島県警は地域で一生懸命頑張った、24時間365日頑張った産婦人科一人医長をマスコミの前で、しかも診療中に逮捕したのです。

ある国会議員の先生はこの事件を、「いずれ、福島県警と検察が起こした事件と見なされるようになる」とまで、いわれています。これからの裁判で、何がこの福島県警の「暴走」を許したのか?明らかになることを願っております。

話は変わりますが、当直中に交通事故でCPA(心肺停止)の患者さんが搬入されて来た事があります。まずは、蘇生処置を行い、1時間は人工呼吸と心臓マッサージを行いましたが、残念ながら亡くなられました。これは、「外因死」にあたり、当院への受診歴もなかった方でしたので、明らかに「異状死」と思われました。警察の方と一緒に検屍を行い、死体検案書を書いたのですが、あとで電話がかかってきて「死体検案書でなく死亡診断書を書いてほしい」との申し出がありました。私が「これは異状死なので死亡診断書を書いたらば、私の腕が後ろに回る事もありますので、できません」と答えると、「そうですか、よく調べてから回答します」との御返事でした。しかし、再び電話がかかってきて「死亡診断書ではないのですか?」とのこと、じっくりと説明して御理解いただきました。警察の方は、私のような医療者より法律にくわしいのでは...と思っていたのですが、中にはこういった方もいらっしゃる様です。

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2006年4月19日 (水)

診療録

2006年4月19日 曇り一時雨 風が強い

私のブログにトラックバックしていただいている弁護士のため息というブログがあります。この弁護士さんは医療過誤裁判を手がけており、『患者側の弁護士』といわれていますが、ブログの内容からは少なくとも公平で中立な方の様で、敵意をもつことはできません。臨床医は一般に法律に疎いものですが、こちらのブログを読ませていただき、少しでも勉強したいと思います。そのブログで、医療過誤裁判の『診療経過一覧表』をチェックするという場面があり、これはカルテ(診療録)から時系列で抜き出した情報をみているということだろうと考えをめぐらせました。私は小児科医をしていますが、ある時期から診療情報管理に自分の興味があることがわかり、診療のかたわらそちらの方面の学問もすこしかじっているといった状況です。いつも書いているカルテ。これについて考えてみました。


医師法第24条[診療録の記載及び保存]医師は、診療をしたときには、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。2.前項の診療録であって、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、五年間これを保存しなければならない。


医師法での『診療録』の規定はこれだけです。(あとに罰則がありますが...この六法が古いためか?24条違反の罰金が5千円となっています。50万と聞いた気がするのですが....)診療に関した記録すべてが、診療録なのだろうと思います。

『遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない』とありますが、『遅滞なく』とはどのくらいの時間を表すのか?一般的に「24時間」というはなしもありますが、あるところで聞いた話では、「その日の午前中に病棟で回診を行った、その後、重症の患者さんが来てその対応に追われ、カルテを書けなかった。その重症患者さんが、何とか落ち着いたのは翌日の朝3時だった。ヘトヘトに疲れて、つい寝てしまって回診の記録を付けたのが朝8時頃だった。」というのは遅滞なく記載できたこととなり、「その日の午前中に病棟の回診を行った、午後から休みをとってゴルフに行く予定があり、その準備のため少し早めに帰らなければならなかった。そのため、回診の記載をしたのが翌日になった。」というのは遅滞ありという事だそうです。
そして、その回診した患者さんに、もし急変があって亡くなった場合には、その記録を後から書き込む事はできません。そういった意味で、カルテをきちんと書くという事は医師として、半分は「自分を守る」ためになるとも聞きました。(もちろん、基本は患者さんに良い診療を提供するためです。)

カルテの中にはいろいろな情報が詰まっています。医師の経過記録、看護師の経過記録、処置や投薬、注射、食事、安静度、清潔等に関する細かい指示書、検査結果の記録、説明書、同意書などなど。診療の結果、不幸にも医事紛争に発展した場合、まずカルテが差し押さえられます。これから、弁護士さんは医師の記録と看護師の記録などを見比べて、どの時点で、その徴候を覚知したか?情報はうまく伝達されたか?どのような対処をとったか?詳細にみていくのではないかと思います。これが、先に紹介した弁護士さんのブログでも出ていました、『診療経過一覧表』をチェックするということではないか?と考えられます。これは、大変な作業ですね....


話は少し変わりますが、診療録の中の記録について、現在は医師は「医師が書くところ」、看護師は「看護師が書くところ」に別々に記載していますが、情報の伝達の面で問題があることがあるとされています。例えば、看護師さんが気付いた患者さんの変化は看護師さんの記録の所に記載されますが、これは通常、医師の記録のページと離れた場所にあります。医師がそのページを意識して開かなければ、その情報は医師に伝わらないといったことです。そこで、医師も看護師も同じ場所に、書いていったらどうだろうか?ということを実際に取り入れている病院もあります。(少なくともナショナルセンターといわれる旧国立の基幹病院の一つはそうなっています。)もちろん、弊害もありますが、患者さんの利益にはなると思います。また、もし医事紛争となった場合にも、経過がクリアーに見えてくるのではないでしょうか?

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2006年4月18日 (火)

気管支喘息

2006年4月18日 晴れ

今日は気管支喘息についてです。

気管支喘息という病気をNelsonという小児科の教科書で調べてみると。

There is no universally accepted definition of asthma, it may be regarded as a diffuse, obstructive lung disease with (1) hyperreactivity of the airways to a variety of stimuli and (2) a high degree of reversibility of the obstructive process, which may occur either spontaneously or as a result of treatment.

(訳)気管支喘息について普遍的に受け入れられている定義はないが、おおよそ以下の特徴を満たすものである。(1)様々な刺激に対して気道の過敏性を持つ閉塞性の肺疾患で(2)その閉塞機転が自然にあるいは治療によって可逆的であるもの。

ここで、ヒトが呼吸するところを考えてみます。鼻あるいは口から、外の空気を吸います。それは、のど(咽頭、喉頭)を通って、気管に入ります。気管は胸の中で左右の気管支に分かれます。そこから肺に入るのですが、更に分岐(二つに分かれる事)を繰り返して最後は小さな小さな肺胞という風船に入ります。この肺胞で、外の空気から酸素を血液中に取り入れて、体で不要になった二酸化炭素などを外に出しているのです。肺胞以外の、気管支などでは酸素を取り入れたり、二酸化炭素を外に出したりはできません。

気管や気管支で空気が通りにくいと、肺胞に空気が達しにくくなるため、苦しくなり、最悪の場合は窒息します。気管支喘息の定義の中で「閉塞機転」ということばがでてきますが、これは気管支や更に分岐した細気管支が細くなるという事です。気管支、細気管支が細くなれば、空気が通りにくくなり苦しくなります。これが、気管支喘息の発作です。

「過敏性を持つ」というのは、例えばカゼをひいたときなどの気道に炎症があるときや、気温の変化、強い臭いなどの刺激がある時に発作が起こりやすいという事です。「可逆性」ということは、発作が起こっても治らない訳ではなく、発作がないときには普通にしているということであり、さらに再び繰り返すという事でもあります。


可逆性があって、発作のないときには普通にしていることから、以前は『気管支の周りに付いている気管支を細くするような筋肉がけいれんを繰り返しているだけの病気』ととらえられていて、気管支を細くさせる筋肉を緩めるくすりを長期に飲めば治っていくと思われていました。しかし、よくよく調べてみると、気管支の壁に慢性の炎症があり、この炎症が気管支の『過敏性』を生じさせているとわかってきました。そして、気道の炎症をとる治療が導入され、かなりの効果を上げています。おかげで、喘息のコントロールは飛躍的に簡便になってきました。

症状は、咳、喘鳴(ゼコゼコ)、呼吸困難、陥没呼吸(息を吸っている時に胸がペコッとへこむこと)、頻脈(脈が速い)、多呼吸(呼吸が速い)、チアノーゼ(唇の色が紫になる)、意識障害(眠り込むあるいは暴れて手がつけられない)などで、重症になると喘鳴は消えてきます。最重症の状態では、呼吸停止や心停止することがあり、喘息死につながる事もあります。
最重症の状態の場合は呼吸補助をしないといけませんが、病気本来の性格として気管支の過敏性をもっているため、気管内にチューブを入れると更に発作がひどくなり、換気(空気を入れたり出したりすること)できなくなる事があります。これを特に『気管支痙攣』といって、非常に恐ろしい状態です。救命しようとして気管にチューブを入れても症状が更に悪くなるという、逆説的な動きです。このおかげで、助けられない患者さんもいます。

慢性期の治療は、気管支を拡張する薬のβ刺激剤、キサンチン製剤(テオフィリン、アミノフィリンなど)、また、アレルギーを抑える薬のクロモグリク酸ナトリウム、ロイコトリエン受容体拮抗剤などと吸入ステロイド剤を組み合わせて使用しますが、発作時には必要に応じて酸素投与、抗生剤やステロイド静注、β刺激剤の吸入を組み合わせて使用します。重症時にはイソプロテレノール持続吸入という治療を行いますが、これでも発作が頓挫せず進行する場合は気管内にチューブを入れて人工呼吸を行います。

吸入ステロイド剤ができてから、気管支喘息の治療は長足の進歩をとげました。以前は非常にコントロールが悪く、長期に入院を余儀なくされて来た患者さんもお家に帰る事ができるようになりました。ステロイドと聞くといろいろな情報を知っている方は、『いろいろと副作用がある薬だ』と思われるかもしれませんが、吸入ステロイドは全身の副作用はほとんどみられずに使用できます。以前の内服のステロイドとは全然違います。この吸入ステロイドを使用する事により、気道の炎症が消えて、発作が起こりにくくなるのではないか?と考えられています。

一方、喘息による死亡はなくなってはいません。赤ちゃんで喘息の発作を起こす事がありますが、これが喘息の発作だと気付かれず、発作が進行してしまうものと、思春期になったとき喘息を軽く見てかかってしまい、服薬や吸入を守らず、急速に呼吸困難が進行するものと2つの喘息死のピークがあるとされています。教科書的には、『100%という訳ではないが、ほとんどの喘息死は適切なケアで防げる』といわれます。特に、重症の発作を起こし意識不明となったことがある患者さんなどは死亡する可能性が高く、綿密なフォローが必要とされます。患者さん、そして家族への教育は重要です。

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警察という組織

2006年4月18日 晴れ

昨夜、ネット上でこんな情報が流れていました。朝日新聞記事医師逮捕事件 富岡署を表彰 警察署長会議に80人です。

言葉がありません。地域にこもって、24時間365日診療して、予測不可能な『癒着胎盤』により患者さんが亡くなったということで、奥様のおなかの中には赤ちゃんがいる時期に、しかも、診療中にマスコミの前で逮捕されてしまった産婦人科医の先生です。警察はこういう組織なのでしょうね...これを表彰して憚らないのは....

一医師として『辛い』です。

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2006年4月16日 (日)

それぞれの病院の役割

4月16日の毎日新聞で以下の内容の記事が出されていました。

「 県立こども病院(安曇野市)を巡り、高度専門医療に加えて救急性のある産科・小児科の一般診療を行う方針を田中知事が示した問題で、大西雄太郎・県医師会長は15日、長野市内で会見し「一般診療を導入すると、現状の水準維持が困難になる。高度医療に特化するべきだ」と述べ、知事の方針に反対した。県医師会は今後、県に対して見解を伝える予定だ。

 同席した須沢博一・松本市医師会長は、同病院がある中信地区では、初期症状から入院が必要な患者まで対応する病院は完備されているとし、「重篤な患者の救命に携わるこども病院に風邪などの救急患者が来ると、感染の危険が高まるうえ、逆に人件費もかかる」と指摘した。

 さらに、大西会長は「医療については、専門家団体の医師会に相談すべきだ」と述べ、県が独自に方針転換したことにも反発した。」

私は、片田舎の公立病院で一人小児科医長です。数年前の経験からですが、数日前より発熱がみられ、徐々に眠り込むようになってきた児が来院されました。グッタリしており全身状態はやや不良で、意識は傾眠と障害されていました。まずは点滴を確保して血液検査したところ、肝臓の酵素であるGOT/GPTがどちらも1万を超えるような凄い数値でした。(正常値はどちらも40程度です)意識障害+肝酵素著明高値から劇症肝炎を疑い、頼りにしている3次施設に搬送しました。搬送先でPT(プロトロンビン時間;肝臓の予備力を反映)の異常低値を確認され診断は確定。その後、2ヶ月程度かかりましたが、血漿交換という血液の中の一部を交換する治療法や持続的血液濾過透析という透析治療の一種を施行され奇跡的に救命できたということがありました。

血漿交換や持続的血液濾過透析などという治療法は、スタッフの揃った集中治療室でなければ行う事が難しく、一人医長の私のところではとても行う事はできません。私のところで治療していたならば、まず助かる事はなかったと思います。私も過労のため倒れているでしょうし、診療もストップしていたでしょう。

このことは、それぞれの病院でそれぞれの役割があることを示しているものと思います。つまり、私が勤めている、いなかの病院の小児科は診療の入り口を担当し、重症で手におえない患者さんは適切に後方病院へ搬送する。患者さんは多いのですが重症患者さんを抱え込まないようにすれば、何とかやっていけます。後方病院は紹介された重症患者さんに出来うる限りの濃厚な医療を行う。熟練した多くのスタッフが必要です。しかし、この状態で感冒等の一般診療を引き受けると、患者数が増えて濃厚な医療は出来なくなります。

長野県では小児医療の3次施設は長野県立こども病院であると思いますが、そこで一般の救急医療を受け入れるとなると、いままで培って来た高次医療を提供する機能に少なからず影響がでることが考えられます。場合によっては、いままで助けられた生命が助けられなくなる可能性まででてくると思います。県の宝である県立こども病院の機能を崩壊させないためには、田中知事に方針転換の撤回をお願いするしかありません。

参考になるHPです。ある産婦人科医のひとりごと。

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腸重積

2006年4月16日 晴れ

やっと、晴れてくれました。

今日は腸重積という病気について書いていきます。人間が食べ物を食べると、口から食道を通り、胃に達します、ここである程度の消化を受けて、十二指腸、空腸、回腸を通り、結腸、直腸と進み最後は便になって肛門より出されます。つまり、食べ物を通す器官(消化管)は一本の管になっています。この一本の管のどこかが、内側あるいは外側にめくれかえってはまったのが腸重積という状態です。

Invagi

典型的な症状は、間歇的腹痛(定期的に時間をおいて腹痛を訴えること。乳児で腹痛を訴えることができない場合は、時間をおいて定期的に激しく泣く:間歇的てい泣。)、嘔吐、血便などです。注意しなければならないのは、この『腸重積』は、絞約性イレウスといって腸管に血液が通わない状態となって、腸の一部が死んでしまう(腸壊死)ことを起こしかねない一群の病気であることです。腸が壊死すると、全身状態は著しく悪化し緊急手術となります。いろいろな事情で診断が遅れた場合、手術が間に合わず亡くなることもあります。

上記の3つの症状(間歇的腹痛、血便、嘔吐)がそろっていれば、診断は比較的容易ですが、病初期には特に血便はみられず、腹痛だけということもあります。以前は、腹部の触診ではまった腸管の塊を触れて診断することをしていましたが(これはかなり難しい診断法です。)、いまは超音波検査ではまっている腸管をみると、Target sign(的のようにみえることからこの名前がついた。)やPseudo-kidney(psudoは偽、kidneyは腎臓で、はまった腸管が腎臓の超音波像と似ているためについた名前。)という徴候をみて診断することが多いです。

特に、急性胃腸炎などが流行中で、嘔吐している児が多く外来に来ている場合は要注意で、『吐いているのは、急性胃腸炎のためだ』という先入観があると、見落とす可能性があります。

治療は、発症早期の場合(大方24時間以内とされる。)は、おしりから空気を注入して、はまった腸管のところに圧力をかけて元にもどす手技を行います。また、空気ではなくバリウムという造影剤(レントゲンで白く写る液体)をいれて元に戻すこともされています。これは、腸重積整復といわれる手技ですが、うまくいけばこれらの手技のみで手術を行わずに治ります。しかし、特に発症から時間がたっており、はまっている腸管の壁が壊死しかかって弱くなっている場合は圧力を加えることで破れる場合があります。その場合は、やはり緊急で手術となります。ただ、私の経験からいくと、ほとんどの患者さんはこの空気整復で治っていっており、手術をせずに済んでいると思います。

一旦、空気整復で治っても、少しして何度も何度も、同じように繰り返したり、また、空気整復でも治らない場合もあります。そのような場合は、開腹して整復しすることがあります。hatchinsonの手技といって『はまっている腸管を引っ張ってはいけない、押し出すこと』という教えがありますが、それくらいやさしく扱います。腸管を観察して、色が悪い場合は温めてみます。温めても色が戻らない場合は、その部分は壊死しているとして切除します。はまっている腸管を戻した後には、腸管があまり大きく動かないように固定する事があります。

Hatchinson

空気整復で治らない場合は、別の問題が隠れている場合もあります。例えば、はまっている部分に何らかのできものができている場合です。古くから有名なのは、「Meckel憩室」といわれるもので、お母さんのおなかの中にいる時は卵黄嚢という器官と腸がつながっていますが、生後しばらくするとこのつながった道はなくなります。しかし、おおよそ100人に1人ぐらいの方に、このつながった道が残っている事があります。これが、腸重積の原因となるものです。また、回腸末端に発生したリンパ腫という腫瘍が原因となって、腸重積をおこすこともあります。いずれも、空気整復で戻らない事が多く、おなかを開けてみてはじめて診断が付くといったことが多い様です。

腸重積は良く耳にする病気ですが、経験の豊富な小児科医でも初期には診断が難しかったり、急性胃腸炎との鑑別が難しかったりします。また、見逃してしまうと非常に重篤で、絞約性イレウスとなり、場合によっては生命に危険が及ぶこともある小児科医としては悩ましい病気の一つです。

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2006年4月15日 (土)

大きな認識の差

2006年4月15日 雨
ちょっとじめじめ、少し肌寒い日が続いています。

日本の医師数については厚生労働省としては「足りている」との認識 , video(櫻井議員)で、将来にわたり増やす事は考えていないとの解釈を示されています。しかし、医療の現場、患者さんの要望などを肌で感じている臨床医としては、どうしても「医師は足りている」とは思えません。政府と医療者や国民の間に認識の差があると感じずにはおれません。

読売新聞<2006年4月7日付け>ではWHO(世界保健機関)からの報告を以下のように伝えています。
「 医療スタッフの員数・配置問題に焦点を当てた今年の報告は、エイズの感染拡大が続くマラウイやタンザニアで、人口1000人当たりの医師数が0・02人と、アフリカ諸国でスタッフ不足が極めて深刻だと指摘。
<中略>
 一方、日本は平均寿命で82歳の世界最長寿国の座を堅持しながら、1000人当たりの医師数は1・98人と、192か国中、63位の中位水準にとどまった。
<中略>
 OECD加盟国の中では最低クラス。同様に看護師は27位、歯科医師は同28位と、世界のトップ水準には達していない。」

厚生労働省が医師数は足りているとされる根拠はどこにあるのか?は、はっきりしませんが....(勉強不足です)
世界的にみて、人口千人あたりの医師数は先進国の中でもほぼ最低のレベルであることが示されました。また、別のサイトでは、医療費のGDP(国民総生産)に占める割合の比較が出ています。日本はGDPの7.4%、アメリカは12.9%、イギリス6.8%、ドイツ10.3%とアメリカの約半分です。イギリスは「鉄の女」といわれたサッチャー首相の時代に医療改革を押し進め、ここまで医療費を削減した様ですが、医療者の退廃化が進行し提供する医療のレベルを大きく下げてしまい、医療費を増やす動きがあるようですが、一旦崩壊してしまった医療システムはなかなか元の状態へ戻れない様です。

政府は『医師数は足りている』と結論していますが、医療者の勤務状態やWHOの統計などからみて、恐らく日本の医師数は足りていません。また、医療費も決して多い訳ではなく、安い医療費でこれだけの高度な医療を提供している事になります。医師数は足りていない、周産期や小児科の分野は訴訟リスクが高いため新たな担い手が入ってこない。人員が確保できないため、その分野の労働環境は劣悪となり、人員のバランスは更に悪循環を形成する。

政府と医療者の間には大きな認識の差があります。でも、いろいろな傍証から「医師数は足りていない」とするのが正しいような気がします。

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2006年4月14日 (金)

小児科医の遺言状

2006年4月14日 くもり
少し肌寒い一日でした。

今日のお話を始める前に、不遇と苦痛の中で病院の屋上から身を投げた小児科医 中原利郎先生の御冥福をお祈り申し上げます。

もう既に、この小児科医の遺言状を御覧になっておられると思います。(このHPは2006年2月に公開されている様です。)

私は、あるメーリングリストでこの情報が流れ、このHPを知った次第ですが、この内容をみて「とても、他人事とは思えない」という感を持ちました。小児科の不採算性とそれに続いて起こる人材確保の困難、めぐりめぐって労働環境の悪化がもたらされ、本当に過酷な勤務が続きます。また、医療政策は引き続き医療費抑制に傾いており、採算性の悪い小児科には病院からの過重な要求が突きつけられます。

私は、この中原先生を存じ上げませんが、文章の内容からすると『本当にまじめに小児医療に向き合っていた』先生であろうと推測されます。このようなまじめな医療者が、社会から評価されず自死を選ぶことになるというのは、「日本の小児医療政策はどこかおかしい」そう思えてなりません。

最後に、天国に行かれた中原先生、どうかゆっくりとお休みください。

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2006年4月13日 (木)

熱性けいれんと急性脳症など

2006年4月13日 雨のち晴れ
桜は散って、葉が生い茂るようになってきました。道には、散った桜の花びらが、まだわずかに残っています。

今日は昼休みに、けいれんの児が救急車にて来院しました。来院時にはけいれんは停止しており、意識もほぼ清明の状態でしたが、約20分ほど断続的に続いていた様です。体温は40℃を超えており、今日の朝は無熱であったこと、年齢が3歳であることなどから、熱性けいれんでけいれん重積状態(けいれんが続いて止まらなくなった状態)になったと考えて、頭部CTなどを行った後入院となりました。

熱性けいれんは小児にみられる病気で、脳の未熟性により発熱(それも、急激に体温が上昇する状態)しただけでけいれんしてしまう状態です。通常、けいれんは5分以内に停止し、病院に到着時にはケロッとしていることが多いです。けいれんはその他の様々な病気や状態により起こりますが、小児のけいれんの中で熱性けいれんはかなりの割合を占めます。そして、熱性けいれんと診断がつけば、小児科医としては「ひとまず安心」といった感覚を持ちます。

ただ、熱性けいれんと思われる中にも、いろいろな病気が混じってきます。その中で、注意が必要なのは『急性脳症』です。急性脳症は、特にインフルエンザ感染との関連が有名ですが、けいれん、意識障害(眠り込む状態など...)、発熱等が主な症状です。熱性けいれんと区別がつきにくく、当初、熱性けいれんと診断しても、のちに意識が戻らなかったり、自発呼吸が停止したりして気付かれる事があります。また、急性脳症はかなり予後の悪い病気で、現在の技術をもってしても大半の生命を助ける事ができない。そんな病気です。

話は、少し脱線しますが、急性脳症を起こす数時間前には特に症状もないことが多く、保護者のかたは「さっきまで普通にしゃべっていたのに何故こんなことになるんだ」となかなか病気を信じられないこともあります。それで、後にトラブルに発展したという事例を何例か聞いた事があります。

話は、熱性けいれんへ戻りますが、けいれんが5分以内に終了し、吐いたものを吸い込んだりしなければ、特に大きな処置を要さずに回復します。しかしまれに、けいれんが止まらず前述のけいれん重積状態を呈することがあります。そんな場合は救急車にて来院されますが、来院時もけいれんが止まっていなければ、いろいろと処置を行い止める努力をします。どうしても止まらないならば、最後に全身麻酔のときに使うような薬(サイオペンタール:全身麻酔の導入等に使用する)を注意(特に注意するのは喘息がないかどうか?喘息のヒトに使うと発作が起こる可能性があります。)しながら使用します。大抵はそれで、けいれんは止まるのですが同時に呼吸も止まってしまう事が多いのです。呼吸が止まる可能性がありますので、その準備を行って使用します。必要な場合は、気管の中にチューブを入れる(気管内挿管)を行い呼吸の補助を行います。

私が、この病院に赴任して多分5から6例ぐらいは気管内挿管が必要だったと思われます。そして、呼吸管理(人工呼吸器を付けたりすること)が必要となることがあり、一人では管理できません(というより一人ではしたくない...)ので頼りになる、例の3次施設(後方病院)にお願いする事となります。

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医事事故を検証するシステム

日付が変わって2006年4月13日 未明です。

いつも参考にさせていただいているblogの「ある産婦人科医のひとりごと」に朝日新聞の記事を参照した文章がでていました。

<それよりも、事故の原因を徹底的に調査して、同じような事故が今後は発生しないような医療システムに変えてゆかなければならない。日本でも、医療事故を公正に調査・検証するシステム(第3者機関)を早急に導入する必要があると思う。

全く同感です。

当ブログでも「尊厳死報道に感じる事」「医療界と法曹界の間の深い溝」などで書きましたが、公平、公正に医療事故を検討する機関の創設が急務です。

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2006年4月12日 (水)

尿路感染症

2006年4月12日 曇り

昼休みを利用して、今日はVCG(Voiding Cystgraphy: 排尿時膀胱造影)という検査を行っていました。ちょっと、年長の児だったので、なかなか排尿時を撮れず苦労しました。この検査は、膀胱にネラトンカテーテルという管を入れて、造影剤というレントゲンでみると白く映る液体の薬を入れていきます。膀胱が張ってくるとおしっこしたくなりますので、管を抜いた後にレントゲンで見ながら、排尿(おしっこすること)していただきます。
これで、何がわかるかというと、排尿する時に膀胱から上へ造影剤が逆流しないかです。

ここで、尿路感染症という病気を紹介しますが、これは読んで字のごとくおしっこが流れてくる経路にバイ菌が感染している状態です。尿(おしっこ)は腰あたりにある左右2つの腎臓で生成されます。腎臓は体からできる老廃物(生命を維持する上ででてきたいわばゴミのようなもの)を尿の中に濃縮して捨てています。そして、腎臓でできた尿は、尿管という管を通って膀胱に注がれます。一定量膀胱内に尿が貯まると排尿することとなります。通常、バイ菌が膀胱内にいても、膀胱炎の症状(残尿感や、下腹の痛みなど)を認めますが、発熱する事はありません。ただ、バイ菌が腎臓まで達すると、高熱を生じ、腹痛から背部痛がみられます。また、普通は膀胱から尿管へ尿が逆流することはないものとされています。

赤ちゃんのころから、何度も発熱する児の中には、この発熱を伴う(つまり腎臓までバイ菌が入っている)尿路感染症を繰り返している患者さんが含まれます。それらの児をよく調べると、排尿する時に尿が膀胱から尿管へ逆流していることがあります。膀胱はオチンチンに近いのでバイ菌が入りやすい、そしてそのバイ菌がいる尿が腎臓に逆流すると発熱するわけです。

この尿路感染症にはいくつかの気をつけなければならない事項が含まれています。
1.尿路感染症の時に、腎臓から血液中にバイ菌が入り、敗血症という重症の感染症になることがある。
2.尿路感染症を繰り返すと、その腎臓が硬くなって尿を生成する機能を失う事がある。
3.逆流があり、その程度がひどい場合には手術で逆流を止めることが必要となる。
などです。

私も、数年間この病院にいて複数の尿路感染症の児をみてきました。その中には、2例ほど敗血症を起こしていた患者さんがいました。全身状態を管理する必要があるため、一人の小児科医しかいないこの病院では診れず、救急車で複数の小児科医のいる施設に搬送しました。また、中には尿路感染症の診断が付きにくい患者さんもいて、何度も何度も尿路感染症を繰り返すうちに、腎臓が硬くなって機能しなくなることもあります。ただ、それが片方の腎臓であれば、残ったもう片方の腎臓で体を支える事が出来ます。しかし、両方がそうなった場合は、将来的に透析などの治療を受けなければならなくなる可能性がでてきます。

最初にVCGについて書きましたが、その検査で排尿する時にどの程度の逆流かを評価することができます。それで、通常は1から5段階に程度を階級分けしますが、程度がひどいもの(3以上)については、膀胱と尿管のつなぎ目の部分を手術して、逆流を止める事があります。程度の軽いものについては、予防投与といって抗生剤(バイ菌を殺す薬)をほんの少しづつ毎日飲んでもらって、逆流が自然になくならないか?を追いかけます。膀胱が成熟すると、自然に逆流がとまる児も多いからです。

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2006年4月11日 (火)

小児科外来と計算能力

2006年4月11日 曇り

空気が湿っています。寒さは感じなくなりました。

今日は、ちょっと自分の仕事について考えてみました。研修医も2年目ぐらいから小児科の外来をこなしていますが...その特徴は

1.数が多い、言い換えると一人の患者さんにさける時間は少ないこと。

2.新生児から中学生や、carry over(病気を抱えつづけて成人程度まで達すること)した学生の患者さんまでを診ることになり、体の大きさの幅が大きいこと。

3.他科のように、専門分化して診るだけの人員はいないので、必然的に診療も幅が広いものになること。

が挙げられると思います。

最近は季節が良くなって、冬季のような多忙さはなくなりました。冬の間は私のいる公的病院でも外来が日に100人を超えることがあり、その場合は患者さん一人にさける時間はほんの数分となることもあります。また、重症で高次医療機関に搬送しないとならない場合や、検査をするためにどうしても時間をかけないといけない場合も含まれ、患者さん一人にかけられる時間は更に少なくなります。(でも地方都市の開業医の先生の中には日に200人以上の患者さんをみていらっしゃる方もいます。)また、病棟をもっていますので、入院患者さんのフォローも必要です。外来が忙しい時期には、ちょっと重症感のある患者さんはスタッフのそろった病院に転送などということもあります。限られた時間の中で、重症の児を見逃さないようにすること、これが重要です。

他の科でもそうとは思いますが、小児科に来られる患者さんはいろいろな病気で来られます。感染症から心臓病、神経の病気、糖尿病、膠原病、腎臓病などなど、一人で小児科をする場合は、結構あらゆるものを診ていかなければなりません。これは、ヒトそれぞれの感じ方とは思いますが、幅を広くやっていけることというのは、自分ではまったく辛いだけのことではなく、仕事に対して興味を保っていける部分であると考えています。

また、患者さんは子供ですので当然、成長して体が大きくなっていきます。薬の量は大抵が体重をもとにして計算されますので、外来をするということは=暗算をしながら薬の処方を行う、ということになります。

薬は多くのものが体重1kgあたり10mgとか30mgとかきりの良い数字ですが、中には4mgや7mgのものもあり、これを頭に入れておきながら計算して処方箋を書いていきます。研修医あがりの時期には結構大変でしたが、いまはもう慣れました。この仕事をどこまで続けられるか?それはわかりませんが、老齢になってもできるのならばボケ防止に良いのではないか?とも考えます。→小児科外来

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2006年4月10日 (月)

乳幼児の頭部外傷

2006年4月10日 雨 結構土砂降り
この雨で桜は全部散ってしまいそうです。

昨日は久しぶりに学会に出れました。その中の演題で少し目にとまったものとして...
乳幼児の頭部外傷について集めたものがありました。

記憶だけの話なので、詳細は省きますが...
年齢により3群にグループを分け、(確か、10ヶ月ごろ、1歳半、3歳半以上の3群)それぞれのグループで頭蓋内(つまり頭の中)に出血等の病変があると思わせる症状(嘔吐や意識障害)の有無と実際のCTでの所見(出血の有無や骨折など)を評価していました。

その中で、「年齢が低くなるほど、症状がないのにCT上所見がある例が多かった。」ということを強調されていました。つまり、1歳前の乳児などでは、頭部を打撲した時には、それ以上の年齢の児よりも詳細に診る必要があって、CTを撮る必要性も高い。ということになると思います。

ただ、どの程度の打撲にCTを撮るべきか?これについては意見がありませんでした。乳児などでCTを撮る場合は鎮静(動かないように眠らせる事)を行う必要がある事が多く、これは一種の麻酔なので全く危険性がないとは言えません。また、CTによるレントゲン被曝の問題もありますが、これからは、乳児期の頭部打撲で「CTを撮る」と決めるレベルを下げようかと考えています。でも鎮静せずに撮れるものは撮るようにしようと思います。

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2006年4月 8日 (土)

起訴困難となった条件

2006年4月8日 晴れ

『北海道立羽幌病院で2004年2月、女性医師(34)が男性患者=当時(90)=の人工呼吸器を外し死亡させたとして殺人容疑で書類送検された事件』で検察側は起訴困難との見通しを示した様です。愛媛新聞記事

当時のカルテを複数の医師が鑑定した結果、当時患者さんの血圧は著しく低く、いわゆるショック状態で、人工呼吸器を外しても、外さなくても数十分後には亡くなっていたとの見方を示したためといわれています。

当時の記事を調べると....
『調べでは、病院側は昨年2月14日午後、食事をのどに詰まらせ、心肺停止状態となった男性患者に人工呼吸器を装着した。その後、女性医師は「脳死状態で回復の見込みはない」と家族に人工呼吸器を外すことを提案。翌15日午前、人工呼吸器を外して男性患者を死亡させた疑いが持たれている。
 女性医師は調べに対し、「家族の負担も考えて(呼吸器外しを)相談した。合意は得ていた」と供述したという。
 道警は、神奈川県の東海大医学部付属病院事件の横浜地裁判決(95年)が示した「安楽死」の4要件などを基に、今回のケースが違法性を問われない「安楽死」に当たるかどうか、慎重に検討した。
 この結果、女性医師が他の医師の意見を聞かず、独断で人工呼吸器を外した▽本人の意思を確認せず、家族への病状の説明も不十分だった——などの点を重視し、殺意を立証できると判断した。』

この患者さんの状況を医師側からみると、
1.患者さんは90歳という超高齢の男性で体のすべての予備力が乏しくなっていた。(恐らく嚥下[飲み込む能力]障害もあった。)
2.食事をのどに詰まらせて、心肺停止状態となった。
3.適切な蘇生処置が行われ、蘇生に成功したが、低酸素による脳障害(恐らく脳幹部の障害)が起きて自発呼吸が停止した。
4.そのため、蘇生のために入れた気管チューブを抜かずに人工呼吸器を装着した。
5.脳幹部障害のため、vital sign(血圧、脈拍などの生命徴候)も不安定な『脳死』に近い状態であった。
6.再び病前の日常生活に戻ることはできない、それどころかあと数日あるいは数時間のうちに亡くなるであろうことを、臨床経験の豊富な主治医は読み取り家族へ説明する。
7.家族からの強い希望もあり、人工呼吸器のスイッチを切った。
という状況であったのではないかと思われます。

全ての情報を信用していいのか?は別として、当時の記事から見ても、これだけの事が読み取れます。医師側からすると、『仕方がなかった...』でも、『不用意だった』としかいえません。『横浜地裁判決(95年)が示した「安楽死」の4要件』にしても、『本人の意思を確認する』必要性を指摘しており、このような突発的に起こった事例で『本人の意思』を確認できない場合は、この行為は『法的に擁護されない』という認識がなかったのかもしれません。

『人工呼吸器を止めても、止めなくても、この患者さんは数十分のうちに亡くなっていたであろう』ということが、この事例での起訴困難となった条件ですが...今後は、『どのような状況で、どういう要件をクリアすれば医師が法的に擁護される尊厳死となるのか?』を、もっと明確にすべきだと思います。日本各地でこういう患者さんと対峙している医師はたくさんいて、これからもなくなることはありません。
きちんとした基準を作らない限り、懸命に患者さんと、その家族に尽くした医師が刑事的に起訴されるということが、これからも起き続けるでしょう。

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2006年4月 7日 (金)

トリアージ

2006年4月7日 晴れ

トリアージ(Triage)という言葉は災害医療などに多数の傷病者を重症度と緊急性によって分別することを示します。フランス語の「triage(選択)」から来ているとされます。

トリアージという言葉を聞いたときに自分の脳裏には、ある映画のワンシーンが浮かびます。それは、『パールハーバー』というアメリカ映画で、日本海軍の奇襲攻撃を受けて米軍の基地は壊滅的被害を被り、軍の病院に凄まじい数の患者さんが押し寄せるシーンです。最初は院内に引き入れていた患者さんを、医師が看護師さんに『院外で選別して、治療の必要な患者さんだけを引き入れるように』と指示していました。看護師さんはこれに従い、亡くなられた患者さんや、既に助からないレベルまで損傷を負った患者さんを選別、病院内には引き入れないようしていました。これが、トリアージです。

通常の臨床では使う必要もありませんし、第一こんなこと医師としてしたいわけはありません。しかし、震災などの大規模災害、テロリズムによる攻撃などでは短時間に相当数の重症患者さんが狭い地域に発生し、医療機関に流れ込む可能性があります。全ての患者さんの診療を受けると、たちまちその医療機関の機能はパンクし、重症でかつ迅速な処置で助かる可能性のある患者さんの助かる可能性まで潰してしまうことも考えられます。そこで、トリアージが必要となってくるのです。実際には患者さんの状態を以下の4つに分類して患者さんの手首にそれぞれの色のタグを付けていく作業となります。

Tag


黒(Black Tag)カテゴリー0
死亡、もしくは現状では救命不可能とされるもの。
赤(Red Tag)カテゴリーI
生命に関わる重篤な状態で、救命の可能性があるもの。
黄(Yellow Tag)カテゴリーII
生命に関わる重篤な状態ではないが、搬送が必要なもの。
緑(Green Tag)カテゴリーIII
救急での搬送の必要がない軽症なもの。
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋。

日本ではSTART法:Simple Triage and Rapid Treatmentと呼ばれる方式で、患者さんの状態を評価するのが一般的です。これは、呼吸、循環、意識レベルにより評価する方法で
1.呼吸…30回/分以上あるいは努力性は赤タグ、気道確保しても自発呼吸のない場合は黒タグ
2.循環…橈骨動脈(手首のところのドキドキしているところ)で脈を触れるか?触れない場合は赤タグ、脈が120/分以上の場合も赤タグ
3.意識レベル…『目を開けてください』『手を握ってください』などの簡単な命令に従うかどうか?従わない場合は赤タグ、従う場合で歩ける方は緑タグ、歩けない方は黄タグです。
これを原則一人で行い、患者さん一人にかける時間は60秒以内が理想的とされます。また、評価は行っても治療はしないという原則ですが、『気道の確保』『外出血の圧迫止血』のみは、その場で行ってよいとされています。

実際に大規模災害の場所に居合わせたことがありませんので、どのようなものか?は理解すべくもありませんが、その場で死亡判定をして黒タグを付けることもあるこの仕事は、相当な精神力を要する仕事であると考えます。
阪神淡路大震災を教訓にして努力を続けた結果、尼崎の脱線事故では現場でのトリアージが効果的に行われ役立った、という報告があります。こういった、判断をしないで済めば本当に幸せですが、いざというときには使える心構えを持っていなければならないと自分に言い聞かせています。

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2006年4月 6日 (木)

マイコプラズマ肺炎

2006年4月6日 晴れのち雨

当地域ではアデノウィルス感染症と同時にマイコプラズマによると思われる肺炎が流行中です。マイコプラズマ肺炎はMycoplasma pneumoniae:肺炎マイコプラズマという細菌とウィルスの中間みたいな病原体により伝播されます。

マイコプラズマ肺炎はいくつかの特徴をもっています。

1つは、『市中肺炎』(入院していない健常人に起こる肺炎)のうち、かなりの割合を占めていることです。

2つ目は、『非定型肺炎(異型肺炎)』の像を示すことです。ここで、定型肺炎というのは細菌の感染により起こる肺炎とされます。定型肺炎は症状の重症度や聴診所見とレントゲン上の所見が、ある程度、相関します。非定型肺炎は発熱、咳はあるのですが元気はよく、聴診上もあまり雑音が目立ちません。『感冒』と診断してしまうこともあると思います。でもレントゲンを撮ると予想していたよりも所見がひどく、医師としては『だまされた』という感覚にとらわれる。そんな、肺炎です。

3つ目は、通常使用する抗生剤が効果を発揮しないことです。外来で使用する抗生剤は、感冒の一部に効果のあるセフェム系やペニシリン系の薬を使用します。(もちろん、発熱のある児、全てに使用するわけではありません)しかし、マイコプラズマはこういった系統の薬は全くといっていいほど効きません。

2番目と3番目の特徴から、ただの『感冒』と診断されやすく、通常の抗生剤を使用しても症状の改善がみられないことから、臨床医を悩ませることもある病気です。

的確に診断して、効果のある抗生剤(マクロライド系やテトラサイクリン系)を使用すれば、徐々に症状は改善してくることが多いのですが...最近は以下の問題が起こってきています。1.マイコプラズマの薬剤耐性(つまり、効果が期待できる薬を使用しても効かない性質)が進行しており、昔は第一選択薬であったエリスロマイシンなどの薬が効かなくなってきた。2.感染後にアレルギー反応としての胸膜炎(肺の外側で胸の内側の部分が炎症を起こし、そこに膿がたまる)を起こしたり、Stevens-Johnson症候群という全身の皮膚や粘膜がただれてしまう危機的な状況を起こしたりすることが本当に少数例ですが報告されています。また、極々まれに呼吸状態が急速に悪くなるARDS:成人呼吸窮迫症候群を起こすことがあり、この場合には救命できないこともあります。

このブログで繰り返し申し上げていることですが、医療には完全はありません。このような、よくみられる肺炎で感冒と間違われ、大抵は治っていく病気でも『絶対に治ります』とはいえないのです。医師としてできるのは、より的確に、より迅速に診断して、効果のある治療を施すのみです。

現在、複数の患者さんが入院されていますが...幸いなことに、薬が効いて症状が軽快してきています。『悪い方向に向かず、良かった』と心の中でつぶやいています。

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2006年4月 5日 (水)

尊厳死報道に感じる事

2006年4月5日 雨のち晴れ
射水市民病院の続報が流れています。当初より、医療者からみると、『なぜ、こんなことに?』といぶかしんでしまう部分が多かったこの事件ですが…徐々に全容が明らかになってきています。

まず、ガン末期の患者さんに対して、『なぜ、人工呼吸器を装着したのか?』です。ガン末期で、救命できる可能性が限りなく少ない場合は、家族や本人とよくお話をして、『気管にチューブを入れてまで、延命をはかりますか?』ということを一度は検討すると思います。最期の部分でどういった処置を希望するか?というのは各人、各家族でかなり違うとは思いますが、じっくりお話しして考える時間があれば、かなりの患者さんで人工呼吸器の装着を希望しないと思います。マスコミ上で流れている数として7例とのことですが、これは全てのTerminal stage(終末期)の患者の一部で、家族が人工呼吸器の装着を希望した数であると思われます。

また、本日の新聞で流れていた情報をみると、『数年前に胃がんと診断され、昨年春にインフルエンザに罹患してから急速に状態が悪化し自発呼吸がなくなり人工呼吸器を装着された』女性で、『回復の見込みのないことを伝えられ』、『本人がチューブにつながれてまで生きたくない』との意思を示していた事から、家族は主治医である外科部長に呼吸器の取り外しを要請したとされています。この患者さんは通常の終末期の患者さんの経過とは異なり、インフルエンザにより急速に状態が悪化した事が考えられ、延命というよりは救命のために挿管したものと考えられます。

残りの患者さんは、恐らく人工呼吸器を装着する事がどういった事なのか?を説明されて、そして、『やはり、トコトンやってほしい』と希望されたのだと思います。しかし、延命治療の中で顔つきが変化してきたり、回復の見込みのないことを実感されて人工呼吸器の取り外しを要望したり、同意したりしたのではないかと推測(あくまで推測ですが…)されます。

前述のインフルエンザで急速に症状が悪化した患者さんの遺族は『気の毒である』とまで思われており、少なくとも今回の渦中の外科部長さんに対して感謝こそすれ、敵意を表すなどはありません。残念なのは、日本ではこのような場合に医師を守る法律が整備されていない事です。法が整備され、一定の条件での『尊厳死』を認める方向に進まなければ、これからもこういった事例は起き続けるでしょう。

しかし、立法化に向けては国民の中に『容認派』から『絶対に許せない派』までピンからキリまでの意見がみられており、容易にコトが進むものとは考えられません。まだまだ、医師や患者さん、そして家族の苦悩は続く事となります。

また、この事件がマスコミに広く伝えられたのは…(最初から、『こういう構図ではないのか?』と思っていましたが)、病院内部のドロドロとした派閥争い、確執があったのではないか?と指摘するメディアもあります。確かにそうです。病院の内部は確執がないところの方が少ないでしょう。(これは私見です。)そして、自分の病院が傷つくのに、それを敢えて、あれほど大々的に公開した病院長は何らかの企みがあったのかもしれないと感じるのは、『穿った』目で見過ぎているのでしょうか??

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要望書を送付

2006年4月5日 雨のち晴れ

一度、御紹介しました、『新小児科医のつぶやき』のコメントに付しました『周産期医療の崩壊をくい止める会』への要望書をメールにて事務局に送付しました。

以下の内容となります。

続きを読む "要望書を送付"

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2006年4月 4日 (火)

医療の原点

2006年4月4日 曇りのち雨(現在、雷雨)
桜が満開です。この雨は、『花散らし』の雨になりそうです。

今日、久しぶりに国境なき医師団からニュースレターが来ました。これまで、寄付をしたのは2から3回ですが、定期的に5年以上もニュースレターを送ってくれます。この中で、現在の活動状況や、寄付金の使い道等を説明してくれます。

今回のニュースレターの一面は『スーダン』というアフリカ北部の国での話でした。20年以上に及ぶ内戦で、国内は荒廃し、医療も十分に提供できる状況にはありません。栄養失調やカラアザール(内蔵リーシュマニアという致死率の高い感染症)資料により死亡する患者さんが多い。入院時歩く事も出来ないくらいに衰弱した小児が迅速な処置で元気に退院していく姿や、反対に治療が間に合わず亡くなる事などが紹介されており、日本での医療環境との差異を認識させます。

日本では、環境が清潔であり、感染症は少なく、現在のところ医療は簡単に手に届く範囲にあります。また、先進国の中では、医療技術の水準が高く、なおかつ医療費は安いため、医療は提供されてあたりまえの『空気』の様な存在かもしれません。先進医療のおかげで、急性心筋梗塞や頭蓋内出血の軽いものは後遺症をほとんど残さずに治療する事もでき、そして一般には『それが当たり前』と受け取られています。

日本と発展途上の国を同列に並べて比較する事は難しいとは思いますが、医療の根本の部分だけを比べてみると...医療を施している医療者は、『目の前の苦しんでいる患者さんをなんとかして救いたい』そのために『自分の持てるものをすべて使う』ということは同じであろうと考えます。ただ、医療に飢えている状況の国では、『良きサマリア人法』というような法律がなくとも、目の前の重症の患者に対しては『自分の持てるもの』をいかんなく発揮して、救命する努力を惜しまないのではないか?とも感じます。

1971年にフランスで『国境なき医師団』は結成されました。実に35年前です。初期にはマスコミの認知も低く、『あなたにそのような危険な場所で医療を施そうとさせるものは何ですか?』というような質問を受けていた様です。『そこに苦しんでいる患者がいる。そして、我々はその患者に対して治療できる技術を持っている。それだけで十分だ』と答えたといわれます。(ことばは正確ではないと思いますが、内容はこのようなものであったと思います。)この言葉は、『医療の原点』を表していると感じます。
日本においては、医療の技術について既に原点からはなれ日夜進歩しています。しかし、そのかわりに医療に対する評価は原点(ゼロ)に近づいていっているのではないかと、最近は強く感じます。

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2006年4月 3日 (月)

アデノウィルス感染症

2006年4月3日 晴れ ちょっと暑い

気候が良くなり、すこし暇になりましたが...
アデノウィルスによる咽頭扁桃炎や咽頭結膜熱が流行しています。高熱が持続し、扁桃に膿苔(膿み)が付着するので、化膿性扁桃炎(いわゆるバイ菌による扁桃炎)と診断され抗生剤を処方されるのですが、それでも高熱が持続しグッタリして来院されます。血液検査でも、炎症所見が著しく高くなっており、『内服の抗生剤でも効果ないならば入院して抗生剤静注しましょう』と入院になることもあります。

少し前より、結膜炎や咽頭炎の児の中に、アデノウィルス抗原を検査すると陽性となる児がいましたので、このような経過の児は、この感染症を念頭において対応するようにしています。

通常は、抗生剤を使用しても効果は余りみられず(ウィルスの感染症には通常抗生剤は効果がありません)、発熱が持続しますが、1週間以上持続するようなことは滅多になく、自然に解熱し、その他の症状も軽快していきます。

ただ、アデノウィルスは49種類の型があり、その中の7型と呼ばれるものは重症の肺炎を起こし、呼吸障害から不幸な転帰をとることもあります。10年ほど前に、全国的にこのアデノウィルス7型が流行した際に、このような重症肺炎の児をみたことがあります。

今回、流行中の株は肺炎は起こしておらず、自然に良くなっていっている事から7型ではなさそうですが、発熱が長く続く。全身倦怠感が強いなどは、注意して診療にあたる必要があります。

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2006年4月 2日 (日)

医療を裁くことの難しさ

2006年4月2日 雨のち晴れ
インターネットへの接続環境が得られずに、1日書けませんでした。

『医療での事故、過誤を裁く事の難しさ』について、国会での応酬を聞きながら考えてみたいと思います。この応酬は、ブログ内の『医療の限界』でも取り上げました、『福島県立大野病院産婦人科医不当逮捕』事件を取り上げたものです。この中で、杉浦法務大臣は『自分は弁護士出身であるが、医療訴訟についてはかなりの知識を要求され難しい案件については医療訴訟専門の弁護士に相談していた』という要旨の発言をされています。また、枝野議員の『案件を起訴するか?どうかについては、医療に関して余り知識の深くない検察官が決めているが?起訴するか?どうかを決める知識はどうやって入手しているのか?』との質問で、『文献など読んで対応している』との答弁でした。

医療の知識について考えますと、小児科医である自分からみても医療の知識は日進月歩で進んでおり、最先端の知識にずっとついていくのは大変で、100%追いついているとは到底言えない状況です。また、医療の世界はちょっと職人気質のところもあって、『この◯◯徴候という所見は、こんな感じだ!』という、体験しなければ得られない知識(いいかえると、紙の上に表現できない知識)もあります。こういった知識は、文献やその道の成書を読んだとしても得る事はできず、ドップリ臨床に浸かっていないと習得することはできません。

このように、医療の知識というのは非常に専門性が高く、もちろん、文献などで得る事が出来る知識もありますが、少なくとも一部は通常の生活(臨床にドップリ浸かっていない生活)では理解する事が難しいものであると思います。法曹界の方々は、もちろん非常に難度の高い司法試験に通って仕事をされている訳で、当然いろいろな勉強をされ、いろいろな知識を持ち合わせているものと思うのですが、ただ、医療の知識については前述した通りドップリ浸かっていないとわからない部分もありますので臨床医には追いつけないものと考えます。

さて、例えばある医療事故が起こって患者さんが亡くなられたとします。その出来事について、担当した医師に過失がありそうか?どうか?見極めて起訴するのは法曹界の『検察官』です。この検察官の方が、現在の一般的水準の『医療の知識』に照らし合わせて、『これは、どうみても医師に過失があるだろう』というものを、きちんと見極めて『この案件は起訴する』『この案件は起訴しない』としていただければ、医師も、そして患者さん側も納得できるでしょう。しかし、これまでの考察からは検察官の医療の知識については臨床医には追いつけないものと思われます。

ここが、『医療を裁く事の難しさ』であると思います。日本においては、医療過誤も司法が裁いていますが、『他の先進国では通常、「医療過誤を裁くための専門的機関」が設置されており、まずはそちらに案件がまわり、医師側に明らかな過失がある場合、また、その他の明らかな刑法違反がある場合などは司法において適切に処理する』という流れができているようです。

この国会のストリーミングの中で最後の方に、法務副大臣が出て来て私見を述べていました。その中で『日本では、弁護士には自己統率の機構ができているが、医師には自己統率の機構がない。そういった専門機関を作るべきだ』との要旨の意見が出されましたが、これが「医療過誤を裁くための専門的機関」を意味した一言なのか?わかりません。ただ、医師の間からはこういった機関を作る事を切望した声が聞かれます。→(新小児科医のつぶやき) (ザウエリズム)

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